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完全なる破壊

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――やはり、自慰行為を繰り返していたのは、そこにもう一人の自分を感じていたからだったんだ――
 と今さらながら感じていた。
 男性の荒々しい指使いは、今までの自分への慰めでは考えられないものだった。自分だからこそ分かるピンポイントが、初めての相手で、しかも異性に分かるはずがない。それなのに、どうして女性は男性に惹かれるのか、マミには分からなかった。
――あんなに声を上げて快感を貪っていたのに――
 それは夢の中のごとくであった。
 身体が宙に浮いたような感覚は、指によって誘われているのは間違いないが、妄想の中で自分に降れている指先は、決して自分の一番敏感な部分を捉えているわけではない。微妙に震える指の感覚に、身悶えしている自分が、いつ絶頂を迎えようとしているのか、その準備段階に入っているのを感じていた。
 だが、相手が男性だと、どうしても相手が自分本位でしかないことを思い知らされる。確かに他人の指というのは、自分の指とは比較にならないほどの快感を与えてくれるのは間違いではないが、それも、自分の想像と違っていることで快感を貪っている自分の気持ちを増幅させる作用があるからである。しかし、自慰行為を重ねてきたマミには、男性の指遣いは、想像の範囲内であった。
――それなのに、荒々しさしか感じないというのは、どういうことなんだろう?
 普段の自分とは違うからこそ、他人の指を感じることができるのであって、得られる快感は自分の指と比べものにならないということを最初から分かっていることが災いしているのかも知れない。
 マミは、短大時代に官能小説を読み漁ったことがあった。それは自慰行為のネタにするからである。
――想像力を豊かにすることが妄想を深くするんだわ――
 これも当たり前の発想であり、そのためには、小説という文章が自分の頭をいかに刺激するかということを試してみたいというのが最初の動機だった。
 友達に小説家を目指している人がいた。彼女は純文学からエンターテイメントまで、何でも書いていたが、途中から急に官能小説を書くようになった。
 それまでは、小説を趣味で書いているという話を本人から聞いたことはあったが、それをわざわざ話題にすることはなかった。ただ、いろいろな小説を読んで、それを自分の小説の肥やしにしているという話だけは聞いていた。
 しかし、ある日、
「私は、官能小説を真剣に書こうと思っているのよ」
 と言い出した。
「官能小説って?」
 マミは漠然としてしか知らなかったので聞いてみた。
「一言で言えば、男と女の愛情物語りって言えばいいのかしら? でもそれだけではないんだけどね」
 と言われた。
「同性愛は違うのかしら?」
 とマミが聞くと、
「そうそう、もちろんそういうのもありよね。むしろそっちの方が官能としては刺激的よね。愛には形なんてないのよ。いろいろな形があっていいと思うの。それにね、愛というのは発展形のもので、その前に恋というのがあるの。恋をテーマにしたものが恋愛小説で、愛をテーマにしたものが官能小説だっていう言い方をしてもいいんじゃないかって私は思うの」
 と彼女は言った。
「なるほど、恋愛小説の発展形が官能小説というわけね。官能小説というと、いわゆるポルノ小説のようなものだって思っていたけど、そう言われると、何となく官能小説というのが分かる気がするわ」
「でもね、官能小説というのは、本当に書こうと思うと難しいのよ。刺激的で成人向けというのが官能小説でしょう? 当然濡れ場が出てくるわけで、それをいかに書くかというのが難しいところなの。ただの濡れ場だけではいけないし、恥かしがっていては書けないものだしね。下手をすると、まわりから官能小説を書いているというだけで、変な目で見られたりすることもあるかも知れないしね」
「そうですよね。他の小説と違って、官能小説のテーマとしては、刺激的で女性なら子宮に訴えるような話でなければいけないということですよね。読む人にそれぞれの感覚があって、人によっては、気持ち悪いと感じる人もいるかも知れないし、そう思うと確かに書き上げるのは難しいのかも知れませんね」
 マミはそこまでいうと、自分が自分を慰めている場面を思い出して、思わず顔が紅潮しているのを感じた。
 それを見た友達は、
「そうそう、その表情なのよ。私が官能小説を書いて、それを読んでくれた人がしてほしい表情はね。恥かしがっているんだけど、自分に当て嵌めて考えているから、まわりが見えていない。恥かしいと思いながらも、本当の自分の顔を表に出している。そんな顔を読んでいる人に期待したいのよ」
 マミは、恥かしくて下を向いてしまった。
 しかし、彼女の話を聞いているうちに、自信のようなものが漲ってきた。
「そうよね。女性であれ、男性であれ、性欲というのはあって当然のものですものね。それを掻きたてるということは、生きることを活性化させるということであり、何も恥かしがることではないんですよね」
 というと、
「そう。でもね、恥かしがることも大切なのよ。恥かしいという気持ちがあるから、余計に快感を求めることができるのであって、だからこそ、人間は人を求め、異性を求め、場合によっては同性を求めてしまうものなんですよ。それを表現することで、私は欲望と恥辱を芸術として先を求めることができるって思うんですよね」
 と、彼女の話には熱が入ってきた。
「私は、同性愛というのもありではないかと思っているんですよ」
 というと、
「最初にそんな話をしていたわね」
「ええ、男性よりも女性の方が、敏感な部分が分かるような気がするんですよ」
 と言って、顔が赤くなってくるのを感じた。自分が話をしている内容が、身体中心であることを示しているようで恥ずかしかったのだ。
「確かにあなたの言う通りかも知れないわね。でも、男性にしか分からない女性の部分というのもあるのよ。自分のことを知っているのは、自分よりもまわりの方だっていうこともあるでしょう?」
「そうですね。自分の姿を見ることは鏡などの媒体を使わないとできないですものね」
 マミはここまで言うと、自分の考えていることを相手に見透かされているような気がして顔を上げることができなかった。
 顔を下げると、髪の毛が長いせいもあってか、しな垂れている髪の毛が幸いしてか、表情を見られることはないだろう。しかし、しな垂れた髪の毛を想像すると、まるでホラー映画のようで、想像するだけで相手に失礼な気もしてきた。そう思うとさらに顔を上げることができなくなって、完全に顔を上げるタイミングを逸してしまった。
 しばし沈黙があり、
――まずい――
 と思っていたが、相手が自分を見つめているのかどうか分からないだけに、時間だけが無為に過ぎていった。
「マミちゃんの髪の毛って、本当に綺麗ね」
 彼女はそう言って声を掛けてくれた。
「えっ?」
 マミはその言葉が意外であり、何と答えていいのか分からなかった。
 それと同時に、
――やはり、ずっと見つめられていたんだ――
 と思うと恥かしかった。
作品名:完全なる破壊 作家名:森本晃次