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完全なる破壊

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 と、基本的に真面目な考えのマミには、自分が垣間見てしまった世界が妖艶で、禁断な世界であることが分かっているだけに、必死で否定しようとしている自分を感じた。
 しかし、否定する自分を横目で見ていると、どこか浅ましさのようなものが垣間見えた気がして、そんな自分を納得できるはずもなかった。
――レナちゃんは慣れていたような気がするわ――
 一晩一緒にいただけで、相手をレナちゃんと呼び、馴れ馴れしく感じている自分を不思議には思わないことが不思議だった。
 あの晩に感じたレナへのイメージは、
――こんな男性がいてくれたら、私は好きになっていたかも知れないわ――
 先生と別れてから、男性と付き合うなどということは考えてもみなかったはずなのに、相手が女性で、しかも男性を感じさせる相手であると思うと、身体がムズムズしてきた。
――相手が男性に限らず、頼ったり身を任せられるような相手を欲していたということなのかしら?
 まず、優先順位に、性別よりも自分が望んでいるものだということを考えると、それは無理もないことであり、そもそも同性同士での恋愛のどこが悪いというのだろう?
 確かに、社会通念として、同性愛はタブーとされている傾向が多い。
 特にHIVなどの病気において、同性愛者に多いことも一つであるが、太古の昔から、タブーとされてきていることに、何かの原因があるのかも知れない。
 そもそも、世の中には男と女しかいないのだ。男女がまったく同じ人数であり、相手が必ず決まっているというのであれば、別にいいのだろうが、世の中には絶世の美男子美女がいて、その人が異性を一人占めにしているという事実もあれば、どう見てもモテるような顔をしていない人がいて、話をするのさえ敬遠してしまうような人は、いかに人間ができているとしても、恋愛に関してはまったくの劣等に属していることになる。これを不公平と言わずに何というのだろう。
――神様は本当に不公平だ――
 と思っている人も少なくはない。
 ただ、同じ恋愛劣等生であっても、人間的には立派であり、同性からは好かれる人も山ほどいるだろう。その人が、
――恋愛よりも友情だ――
 と思っていればそれでいいのだが、そこまで自分を納得させられる聖人君子のような人は果たしてどれくらいいるだろう。
 マミは、その日、レナの夢を見た。
「マミさんってステキだわ」
 と言って、レナの指がマミの敏感な部分を容赦なく責めてくる。
「あぁ」
 夢見心地だった。
――あっ、これは夢なんだわ――
 夢の中で夢見心地になると、急に自分が夢を見ているということを再認識するようだった。
 だが、夢を見ているということが分かったとはいえ、別に夢から覚めるということはなかった。むしろ、
――夢なら楽しめばいいんだ――
 と、現実世界では理性が邪魔をして、抗うこともあったが、夢の中では抗う気持ちはまったくなかった。
 しかし、それは心で思っているだけで、実際には、
「いや、ダメ」
 と、抗って見せた。
 しかし、それは愛情表現であり、本気で抗っているわけではない。その証拠に相手の目が血走っているのが分かり、普段なら怖いという感情が生まれてくるはずなのに、その時に恐怖は感じられなかった。恐怖というよりもむしろ見つめられることで自分が縛られているような感覚になった。
――私って、マゾなのかしら?
 SMの世界というのは、話しには聞いたことがあり、写真やドラマでしか見たことがない程度だったが、知らないわけではない。それを快感の中で思い出すということは、自分の中に、そんな気持ちを掻きたてる血が流れているのではないかと思うのだった。
 目を瞑ると、眼前に広がっている真っ赤な世界の中に、まるでクモの巣が張っているかのような黒い線が無数に見えた。それはある点を中心に放射状になっていて、細い線は真っ黒だった。
――まるで毛細血管のようだわ――
 という発想が生まれ、毛細血管など見たことがないはずなのに、見えてきたことが気になってくると、目を開けることができなくなっていた。
 目を瞑っているのをいいことに、レナの指先は敏感な部分をまさぐり続ける。さらには、濡れた感触が乳首に触れると、身体がビクンと反応した。それが舌の動きであることにすぐに気が付いた。
「あぁ」
 またしても、唇から無意識に声が漏れた。
 その声はまったく音のしない空間に吸い込まれるように響いていたが、虚空に吸い込まれるようで、すぐに消えていった。
 快感が絶頂に達すると、マミはエビぞっていた。その瞬間に耳に響く超音波のような音に不快感を感じると、吐き気が襲ってくるのだった。
――吐いちゃいけない――
 と思うと、必死で嘔吐を我慢していると、気を失ってしまいそうになる自分を感じたが、気が遠くなる感覚とは少し違っていたのだ。
――このままじゃいけないー―
 何がこのままではいけないのかというと、このまま気を失ってしまうと、目が覚めてしまうことが分かっているからだった。
――まだ、目を覚ましたくない。このまま快感に自分を委ねていたい――
 と感じていた。
 快感というのは、襲ってくるものを無意識に感じることである。その快感に身を委ねていると、勝手に身体が反応し、ビクンビクンと痙攣に近い動きをする。それを快感というのだろうが、そこまで分かっているひとはどれほどいるだろう。もっとも、快感に身を委ねるということは、何も考えていないことを意味しているので、余計なことを考えるということは快感の波の中では矛盾していることを示している。
 しかし、マミは自分が着実に夢の終焉に向かって進んでいることが分かっていた。
――絶頂を迎えてしまったからだわ――
 と感じた。
――そういえば、いつの間に家に帰りついたんだろう?
 公園を曲がらずに、いつもと違う通りを通って帰った。そして、その横に迫っているコンクリートの壁を両方から感じていたはずだった。それなのに、気が付けば家についていたのだ。
――確か、雨が降ってくるかのような感覚に陥って、湿気を感じたんだっけ――
 そして、何となく気分が悪くなってきたのを感じたはずだった。
 何とかして家に辿り着いたとしても、意識として何か残っていてもいいはずなのに、今思い立ってみると、意識らしい意識はない。湿気の中に意識を吸い取られてしまったような気分だった。
――本当に私は湿気に対してロクなことはないわ――
 と感じていた。
 雨が降ると体調を崩すという人がいるが、マミもそうだった。身体の節々が痛くなって、熱っぽくなることは子供の頃はしょっちゅうだった。高校生になった頃くらいから、少しずつそんなことは減ってきたが、どうしても、湿気に対してはトラウマがあるのか、気分的に滅入ってしまうことが多かった。
――嫌だわ――
 湿気を感じることで匂いが付きまとってくることに気が付いたのは、高校生になってからだった。
作品名:完全なる破壊 作家名:森本晃次