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短編集28(過去作品)

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 いつの間にか、いつのも公園に来ていた。ベンチを一際明るく照らしていて、まるでスポットライトが当たっているように見える。
 ベンチに吸い寄せられるように腰掛けると、美咲と話をしていた頃を思い出す。思い出すのは、私に何かを訴えるような、そして何か意見を言ってほしい時にする顔である。
 一度、付き合ってほしい男がいるが、どうだろう? と聞かれたことがあったが、あの時の表情を思い出すのだ。
 今日、私が美咲と話をしたのは偶然だったのだろうか?
 最初から話をしたかったので、呼び出したような気になっている。どんな話をしたかったかなど、今さら覚えていない。何かを彼女が私に言いたいというのは分かっていたが、それが何だったのか、美咲でないと分からない。
 いや、美咲にも本当に分かっていたのだろうか? 分かっているとするならば、話してくれたはずである。美咲は何かを言いたくて我慢できるような、そんな器用な女性ではないはずだ。私を見る目が訴えるのだ。
 私は美咲と別れてから、たくさんの女性を見るように心掛けていた。
――他にもきっと素敵な女性がいるんじゃないか――
 という思いが強く私の中にあった。
 高校生くらいの頃は、一人の女性を独占したいと思う気持ちや、まわりに純愛しているようなイメージを植えつけたいという思いが強いのか、一人と付き合い始めればまわりが見えなくなってしまうようだ。私も最初はそうだった。しかし、独占欲と同時に、現状に満足できない欲求とがぶつかりあって、付き合っていくうちに後者が強く感じられるようになってきたのだ。
――一人に決めるのはもったいない――
 と思うようになった。
 美咲に対して冷たくあしらうようなマネをしたわけではない。しかし、私は根が正直だと思っているので、考えていることが顔に出る性格のようだ。
「あなたとは、適度な距離がある方がうまくいくかも知れないわね」
 と、美咲の言葉を最後に、私の頭の中から彼女としての美咲はいなくなった。
――適度な距離――
 この道を歩いている時に、いつも目の前を歩いていて、距離が縮まることのなかった不思議な男性を思い出していた。
 決して後ろを振り向くことのない男性。いつも私の数秒前にいるのだ。
 私もずっと神経を男に集中させていたので、気がつかなかったが、今から思えば、私も誰かに強い視線で見つめられていたように思う。そう、さっきここまで来る途中に感じた、
――誰かにつけられているような感じがする――
 という思いである。
――私は美咲と、また付き合いたいのだろうか?
 自分でもよく分かっていない。今日会ってみて、付き合いたいと思う気持ちが強くなったのは、認めざる終えない。それが本心だと思う。しかし、何かに引っかかっている。
――美咲が今さら私を求めてくれるだろうか?
 その思いは強い。
 相手が望まないことを、いくら自分が欲しているとはいえ、押し通せるほど、自分に自信がない。自信がないのに押し通せるわけもない。
 そういえば、今日の美咲は、時々おかしなことを言っていた。
「あなたの姿が薄く見える時があるのよ。今日に限ってヘンよね。きっと私がおかしいのかも知れないわ」
 そう言って笑っていたが、美咲が話してくれた時に限って、少し眩暈を感じる時だったことが不思議である。
 ベンチに座ると、いつもの大きな木の根元から伸びる影を見つめていた。西日が当たって伸びている影と違い、街灯を受けて伸びている影は綺麗に見える。西日はかなり低い位置から伸びてくるため、伸び方も長く、明るくクッキリと見えているが、舗装されていない地面を横たわっている影は、地面を這うように歪に伸びている。
 だが、真夜中の影は、いくつもある街灯に照らされ、根元を中心に放射状に伸びている。まるで蛍光灯のような明るさが寂しさを呼び、風が吹いてくると、本当の寒さを感じる中、ボンヤリと眺めている。
 まわりにはマンションが立ち並び、高校時代に比べれば、少し違う様相を呈してきた。
――この状態で西日ってあたるのだろうか?
 不思議に感じ、普段当たっていた西日の方向を見ると、ちょうどマンションとマンションの谷間のようになっていて、西日が差し込む隙間ができているようだ。しかも、マンションの横には窓がついているので、それに反射して、さぞや西日が当たる時は、私の想像もできないような光景を見ることができるのではないだろうか?
 一度昼下がりから夕方にかけて来てみたいものである。
 それにしても寒さが身に沁みる。
 そのわりにはなぜか指先から感覚が麻痺しているように思えてならない。そんなことを感じていると、コツコツと乾いた革靴の音が響いてくるのを感じていた。さすがマンションが立ち並ぶ一帯。乾いた革靴がアスファルトに当たる音が次第に大きくなってくるのが分かる。
 公園の入り口の方へと近づいてくるように思えるが、街灯の下に誰も歩く姿を認めることができない。明らかに音はしているのだ。
――音はすれども姿が見えず――
 実に不思議で気持ち悪い感覚だ。
 だが私には見えるような気がした。ブレザーの学生服を着た高校生が歩いてくるのを……。
 その姿は明らかに私で、しかも高校時代の私である。
 見えていないのに、感じるのはなぜなんだ? 
 見えない高校生がベンチにいる私を見て、驚いている。あの驚きはまるで今の私と同じような感じだ。一瞬、美咲の顔が瞼に浮かんだ。なぜか、二度と会えないような、何とも言えない切ない気持ちになったのはなぜだろう?
 高校生の表情も私に対して哀れみの表情を見せている。嫌な予感が脳裏に浮かんだ。
 その時である。遠くの方から遮断機の警笛が聞こえてきた。次第に音が大きくなってくる。
 動くはずのない電車の警笛……。あれは電車への警笛なのだろうか?
 それは私の耳から、永遠に消えることのない警笛の音になることだろう……。


                (  完  )

作品名:短編集28(過去作品) 作家名:森本晃次