風鳴り坂の怪 探偵奇談15
山から見下ろす町は、冬の穏やかな晴れ間の中にある。颯馬はそれを見下ろしながら、少女のことを考える。いまはもう寂しくないかな。逆に賑やかすぎて困ってたりして。そんなことを思って笑みが浮かんでしまう。
「ねー、天狗様も寂しいときとかあったりするのかな?」
そばに佇む白狐の化身に問いかけてみる。白髪の少女は、呆れたように笑ったのちで、いつものように生真面目な声で答えてくれた。
「ぬしは、そうであってほしいと思うのであろ?」
あ、図星さされちゃった。
「その方が、身近に感じられて愛おしく思えるからね」
自分の仕えている神が、無機質で非人間的で、決して分かり合えない存在だと思いたくない。いまこのときも、人間たちを思い、憂い、心を痛ませたり悩んだりしている。それだけで、なんとなく嬉しいような気持ちになるのだ。
「まー天狗様はおっかないからさあ。それは期待しすぎって話かもしんないけどねー」
颯馬がそう言って笑ったとき。
「わ!」
背中に強い風が吹き付けて、颯馬はよろめいた。
「ちょっとー、意地悪やめてよね」
山の方を仰いで文句を言ってやると、狐がころころ笑った。
「悪口を言われて怒りよった。心外じゃと、そう申したいのであろ」
「なにそれ、心の狭い頑固ジーサンじゃん」
作品名:風鳴り坂の怪 探偵奇談15 作家名:ひなた眞白