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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風鳴り坂の怪 探偵奇談15

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明日晴れたら



颯馬が子ども達に話をしに行ったあの夜から、町での奇怪な事件はぱったりとなりをひそめたようだった。変質者の仕業となっているので、犯人が捕まらない以上、警察が警戒を解くことはないようだが、事情を知っている伊吹は、ほっと胸をなでおろした。

「なんか…雰囲気変わった気がします。ここ」

日曜日の午後。雪のやんだ合間に、伊吹は瑞とともに風鳴り坂を訪れていた。相変わらず狭く、そして古びた塀に挟まれ閉塞感はあるが、不思議ともう怖いという気がしないと、瑞が言う。伊吹も同じだった。ここえ怖いことがたくさんあったとは思えない。ただ心地よい静寂が流れているだけだ。

中腹の雑木林の叢をかき分けていくと、苔むした大きな石があり、駄菓子や花、ペットボトルのお茶などが置かれている。

これが、二人が言っていた少女の祠の名残なのだろう。

「賑やかじゃないか」
「うん。子ども達がやってくれたのかな」

瑞と伊吹は、そこに屈みこんで手を合わせた。

「颯馬が言ってました。時々思い出してあげるだけでいいんだって」
「そっか…」
「感謝の気持ちも忘れちゃだめだなって、颯馬の話を聴いて思ったんです。今日生きていられること、決して当たり前じゃないんだ。大切なひとと一緒に生きていられることも、明日を迎えられることも、全部奇跡だ」

そうかもしれない、現状を憂う気持ちが強いばかりに、現代人は忘れてしまっているのだ。自分が生きていることが、どれほどの奇跡で、どれほど価値のあることなのかを。ないものねだりなのだ。

「これ以上、望む必要なんてない」

瑞の穏やかな横顔に、伊吹もまた頷き返した。
今日も生きている。自分も、大切なひとも。

一緒に明日を迎えられるなら。もうそれだけで。






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