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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風鳴り坂の怪 探偵奇談15

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しかし突然少女の姿が消えた。いないぞ、と瑞が懐中電灯を周囲に向ける。

「イヤ~な気配が強くなってる。あの子の力が弱いから、この気配の中じゃ姿を保てないんだね」

颯馬は立ち止まった。自分と瑞を輪の中心にし、周囲の気配が狭まってくる。生臭い匂いと、荒い息づかい。懐中電灯の光が、二人を囲もうと迫ってくるたくさんの黒い犬の姿を捉える。首が二つの者。目玉が一つの者。足だけが人間の者。もはや犬のカタチですらない者。

「颯馬、まずい」

瑞の声に焦りが滲む。パニックになって逃げだしたりすれば、それこそ危険だ。

「大丈夫だよ」

自分にも言い聞かせるつもりで、颯馬は告げる。生臭さが増す。唸り声が少しずつ、距離を詰めてくるのがわかる。が、焦ってはいけない。こんなときこそ平常心。楽しいことを考えて、いつも通りに振る舞って、勝つ。

「けがれもの、あだなすもの、やみうせることあたはず」

両手のひらを天に向けてひろげ、目の高さで軽く掲げる。身体の内側から、指の先に力を送るイメージを作る。

「めをたち、おをたち、いとをたつべし」

指先に、力が伝わっていく。言葉と、颯馬の内側に備わっている加護の力。

「われはてんのこ、かごのかぜきえることなし」

力のこもった両手の指を、思い切り勢いをつけて顔の前で組み合わせる。渾身の力で握り、颯馬は最後の口伝を唱える。

「いぬ、い、ね、うし、とらっ!」

その瞬間、雑木林の中を風が吹きぬける。