風鳴り坂の怪 探偵奇談15
「そんな風には思いません」
それだけは言える。
「今までだって、俺は、ひとりぼっちじゃなかった」
自分が通ってきたどの魂の道筋にも、必ずこのひとがいたのだ。
別れは必ず来て、別離を避けることは出来なかった運命だっただろうけれど、それでも、ひとりぼっちではなかったはずだ。
「…そうか」
暗がりにも、伊吹がほっとしたように微笑むのが見えた。おやすみ、と言い残し、伊吹は去った。彼が階段を登っていく静かな音を聞きながら、瑞は毛布を被る。幸せな、妙に泣きたくなるような優しい気持ちで。
どんな夢を見ようとも、瑞の現実は幸福だから、怖くない。恐れることなどひとつもないのだ。
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作品名:風鳴り坂の怪 探偵奇談15 作家名:ひなた眞白