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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風鳴り坂の怪 探偵奇談15

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忘れられた唄



「おまえらはまたしてもいらんことして!風邪ひいたらどうすんだ!」
「ヒッ!」

自宅で待ち構えていた伊吹に開口一番雷を落とされ、颯馬は瑞とともに項垂れる。

「もう遅いから泊まってけ!家に連絡入れとけよ!瑞は今すぐ風呂入れ!」

ばんばん指示をとばす姿はまるで母ちゃんだ。瑞を風呂に押し込んでから、伊吹は夕食のシチューを温めて颯馬に出してくれた。面倒見のいい先輩なのだ。父親は単身赴任中、看護師の母親は夜勤が多いのだと以前聞いたことがある。身の回りのことを自分できちんとこなせるのは素直にすごいと颯馬は思う。

「それで、どうだったんだ?」

颯馬はありがたくシチューをいただきながら、風鳴り坂での一連の出来事を話した。険しい顔をして聞いていた伊吹だが、全部聞き終えるとようやく一息ついて表情をやわらげた。安堵したらしい。

「なあ、どうして瑞を連れて行くんだ?今回のことは、あいつ向きの事件じゃない。天狗の加護のある颯馬向きの事件じゃないのか。魔だの化け物だの…あいつは死者の声を聞くことはできるが、妖怪退治なんて出来ないだろう」

その通りだ。瑞には「専門外」だと颯馬だってわかっている。

「伊吹先輩は、人柱や人身御供って知ってます?」

突然の質問に面食らったようで、伊吹は言い淀む。

「イケニエってやつか?」
「そう。神様のところへお嫁に行くっていう名目で、自然災害を鎮めたりするために命を捧げるっていう風習が、この国だけじゃなく世界中であったんだ」

残酷な話だが、そうすることで共同体を保つしかないほど、かつて人間は弱かったのだ。

「瑞くんも、いつかの時代でそうだったんだよ。だからもしかしたら、何か聴こえたり見えたりするかなって。力を失った神様のこと」

瑞はもう何も覚えていないだろうけれど。その力の源流も、かつての自身に返してしまっているので、ほんのわずかしか残ってはいない。きょとんとしている伊吹にニヘッと笑い返す。