風鳴り坂の怪 探偵奇談15
慌てて住宅街の明るい街灯の下まで走る。
「結構なやばさだったね」
「…あんな場所、どうやって浄化するんだよ」
自分たちに解決なんて出来るのだろうか。それこそ、また町中の神職総出で封じる必要があるんじゃないか?瑞がそう伝えると、颯馬は首を振る。
「さっき言ったでしょ?それは、神様達に力があったころのハナシ。うちの天狗様は強いけど、あくまで沓薙の守護神。この土地にはこの土地の神様がいるはずだから、その神様に動いてもらわないと同じことの繰り返しだよ。根本を正さないと」
じゃあどうするんだ、と問いかけたところで、大きなくしゃみが出た。
「つーか風邪ひく…」
頭からけっこうな量の水をかぶったのだ。風が吹くたび、ぬれた耳が凍りそうだ。
「困ったときの伊吹先輩!」
颯馬が伊吹に電話をかけている。事情を話し瑞がずぶぬれで風邪をひきそうだと伝えると、スマホのスピーカーから、すぐ戻ってこいバカタレと伊吹の怒鳴り声が聞こえた。
「ワーめっちゃ怒ってらっしゃる」
「とにかく帰っ…」
道に目を戻すと、目の間に、唐突に少女が立っていた。暗がりにはっきりと、その姿が見える。
「は?」
気配もなく少女はじっと立っている。真っ赤な着物を着た少女だ。鮮やかな、赤。黒く長い髪。愛らしい頬もまた、ほんのりと赤い。
「あ…」
声をかけようとしたところで、すうと音もなく少女は消えた。闇のなかに溶けてしまうように。今のは?魔物という感じはしなかった。
「颯馬、いまの見た?」
「うん、あれはヒトバシラの子」
ヒトバシラ?
「とりあえず戻ろう。瑞くん熱出たら大変だ」
二人は急いで、伊吹の家に向かうことにする。遠ざかる坂のほうで、風が再びなり始め、瑞は足を速めた。
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作品名:風鳴り坂の怪 探偵奇談15 作家名:ひなた眞白