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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風鳴り坂の怪 探偵奇談15

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「おじーちゃん、逃げて」

颯馬の言葉に、老人が慌てて坂を下って駆けだす。黒い犬はこちらに飛びかかる機会をうかがっているようだ。颯馬は非常に落ち着いており、瑞もそのおかげか冷静だった。

「この犬、だめだね。命を冒涜してる。存在しちゃいけない」

これが「魔」か。妬み嫉み憎しみ恨みから生まれたもの。
颯馬がコートのポケットに手を突っ込んで何かを取り出そうとしたその時。

「うわ!」

びゅっと突然風が吹いたかと思うと、顔をかばった手の甲に痛みが走った。瑞は痛みの走った箇所を見て驚愕する。

「なんだよこれ…」
「うわ、イタソ~」

手の甲には、まっすぐに傷が走り、血がわずかに滲んでいる。

「これが、女子の髪の毛切ったってやつか?」
「すごい、カマイタチだー!」

感動してる場合か、と瑞は突っ込む。逃げなくては。命が危ない。

「ねー…なんか聞こえる?」

颯馬の呟きに耳を澄ませる。ごろん、ごろん、と坂の上から何かが転がってくる音がする。それは二人に近づき、そして瑞の足に当たって止まった。

「…うわ、見ちゃった…」

懐中電灯を向けて、瑞は息を呑んだ。目を逸らして視界から消す。
生首、だと思う。乱れた髪らしきものでわかってしまった。ごろん、ごろん、次々坂を転がってくる、首。

おおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおお

示し合わせたかのように風が鳴り始め、あたりの雰囲気はいっそう不気味さを増す。犬が風邪の音に合わせるようにほえたて始める。

「…この音、気味悪いな」

断末魔だよ、と颯馬が低い声で言う。

「坂の上は、もともとが刑場だったのかも。無念な思いとともに、首はこの坂を滑り落ちていったんだろうね」

この坂で聞こえるのは風の鳴る音ではなく、罪人の断末魔の叫びというわけか。

「今日のところは逃げるよ」