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異能性世界

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 部屋で時計の音を聞いていると、さっきまで冴えていた目が、今度は一気に急激な睡魔に襲われた。指を動かそうとすると痺れが走る。それは急いで掛けてくるよりも時間を掛けてゆっくり歩いてきた時に蓄積される疲れに似ていた。睡魔は一気に襲ってきているようで、実は音もなく忍び寄ってきていたのかも知れない。
 まわりが真っ暗で恐怖を感じるということはあるが、明るくて視界が広がっている時に、まったく見えないものがすぐそばにあるなど、考えたこともなかった。だが、最近では、何か見えないものがそばにいる「気配」を感じることがあった。
「誰かに見られている」
 被害妄想だと言われればそれまでで、確かに見えないものが見えたりすると、まわりからの圧迫を感じてしまいそうになる。
「そばにあって、まったく気付かないもの。もし、気配もなしに近寄ってこられて、ナイフでも胸に突き立てられたら……」
 などと思うと恐ろしくて、人のそばを歩いた方がいいのか、避けた方がいいのか、迷ってしまうところだった。
 見えないものを異次元の世界だと思う発想は、今に始まったことではない。学生時代からいつも考えていたように思う。夢の中で見たことも何度もあり、夢こそが異次元世界だと思えてくるのだった。
 時計の音で眠気を誘い、そのまま夢の世界へと誘われた修は、夢の中で、自分が夢を見ていると言う感覚を味わっていた。
 目が覚めれば、夢を忘れてしまうことは分かっている。それを忘れないようにしようと思えば思うほど、忘れていくものだという意識があるにも関わらず、その日は必死になって忘れないようにしていた。
「忘れたくない夢を見ているんだろうか?」
 それが夢の中で感じた意識なのか、それとも夢から覚めてからの意識なのか、自分でも分からない。
 修は夢から覚めて、見ていた夢を思い出そうとしなかった。普段は、忘れるということを覚悟の上で、忘れないようにしようという意識が働いていた。だが、最初から思い出そうとしなかったのは、夢を忘れてしまいたいという意識に駆られたからだ。
 どうして忘れてしまいたいと思ったのか。それはリナとの別れの夢だったからだ。
 付き合ってもいないのに、別れを告げられた。今までにも何度となく感じた別れの意識、また同じことの繰り返しだと思ったが、付き合い始めがないので、同じことの繰り返しであるわけはない。
 だが、同じ夢の中で、同じようにリナが出てきたのだが、その時のリナは、修に対して妖艶だった。
「お付き合いじゃなくっていいから、私を愛してほしいの」
 何ともいじらしいセリフであろうか。付き合うとなると煩わしさもあるのだろうが、そんなことにこだわることなく、愛してほしいという。お互いに気持ちの疎通がうまくいっている証拠であろうか。
 付き合っている感覚に、暖かさを感じていた修としては、せっかくの申し出だったが、
「俺は君を愛している。だけど、やっぱり付き合っているという確固たる気持ちがある上で君を愛したい」
 と口から出ていた。潔さが滲み出ていたが、少し理屈っぽさも感じた。
――どうして、こんなこというんだろう――
 いつもの自分なら、もう少し砕けた姿勢を示すであろう。しかも、これを夢だと思っているくせに、夢なら何とでも言えると思うはずだ。夢に対して自分は誠実ではないといけないという何かがあるのだろうか。
 ただ、夢の中での行動は迅速で、考えるよりもまずは抱きしめていた。
 抱きしめた腕にリナは抱き付いてくる。重ねた唇の暖かさは、厚みを帯びていた。
 恥じらいは顔から滲み出ていて、頬を重ねると、自分よりも暖かかった。
「あなたの頬、暖かい」
 修は自分よりもリナの方が頬は暖かいと思っていたのに、ビックリした。お互いに相手の暖かさを感じることが、相手を愛しているという一番の証明なのかも知れない。
 リナの肌はきめ細かく、触ると指にザラザラした感触が残る。きめ細かい方がザラザラさを感じるというのは、ちょうど自分の指が舌に変わった時も同じ感触を味わうのではないかと思えるほどだった。
 きめ細かな肌を味わいながら、指はリナの服の上から、胸の隆起に触れた。
「あっ」
 甘い声が響いたかと思うと、思わずドキッとして、指を離そうとする。しかし、それをリナは許さない。手首をつかんで、困ったような表情で、イヤイヤをするかのように首を何度か横に振った。
 リナにとって、修の存在がすべてであるかのように、妖艶なイメージは従順に変わってしまった。
「可愛い」
 というイメージの他に、
「支配したい」
 という感情が浮かんできたのも事実だった。その気持ちを察したのか、嬉しそうな笑みでこちらを見たリナの顔は、起きてからも忘れることがなかった。
「リナというと、この表情」
 というものが確立した瞬間だった。
 普段の明朗闊達なリナも愛すべきキャラクターなのだが、忘れることのできないものが自分にとっての真実だという考えの元であれば、従順な表情のリナが、やはり自分にとってのリナだと言えるだろう。
 だが、別の日に夢で出てきたリナは、深刻な顔をしていた。
「あなたとお別れしなければいけないの」
「どうしてそんなことを言うんだい?」
 まだ付き合ったという感覚がない中での別れの宣告に、戸惑いは隠せない。自分が思っているよりもリナは修のことを思っているのだ。それを気付いてあげられなかった。まさかそれが別れの宣告の理由?
 もしそうだとすれば、リナの考えはどこにあるのだろう? 別れの宣告はあくまでも警告のようなもので、
「もっと私を見て」
 という言葉の裏返しに近いものではないかという思いが頭を過ぎる。
 妖艶で、従順なリナが修にとっての真実ならば、リナにとって修の真実はどこにあるというのだろう? 同じリナでありながら、次に見た時は違っている。夢という幻想世界の成せる業だと言えるのだろうが、本当にそれだけであろうか?
 修は昨日という日を繰り返している夢を最近よく見るようになった。
 まったく同じ日を次の日に経験する。それは目が覚めてすぐに違和感に気付いた時だった。
「あれ? 何かおかしいな」
 目が覚めた瞬間、頭にのしかかるものを感じた。痛みではなく、重石のようなものでもない。目を開けようとしてもなかなか開くことができない状態は、頭痛持ちの修にとっては、頭痛の前兆に他ならなかった。
 痛みは吐き気を催していた。すぐに身体を起こすことは不可能で、仰向けになってしばらく天井を見ているしか仕方がない状態だった。
「天井の模様というのは、どうしてあんなに錯覚を引き起こさせるものが多いのだろうか?」
 ペルシャ絨毯を思わせる幾何学模様ほど目の錯覚を誘発するものではないが、目立たないまでも錯覚を呼び起こす作用のある模様は、明らかに頭痛の種であった。遠近感をマヒさせ、そのまま天井が落下してくるのではないかと思うほどの距離感に、目を中心に広がっている頭痛をさらに誘発させたのだ。
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次