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異能性世界

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 そんな中で、自分だけが同じ日を繰り返しているという感覚を持っているというのは、どういう感覚なのかと思えてくる。
 前の日と同じなのだから、考え方も前の日に戻せばいいのだろうが、そうは簡単にいかない。なぜなら、先が読めてしまうからだ。余計な先入観を持ってしまっているので、欲が出てくる。
 いくら前の日に後悔がなかったとしても、細かいところでは、
「あの時、もう少し考えていれば」
 という箇所が随所にあれば、その時にさらに余計なことを考えるだろう。すなわち、選択肢が無限に増えてしまったのだ。
 下手に知っているということは、選択肢を広げてしまうことであり、自分の判断基準のキャパを完全に超えてしまっていることで、判断などできるはずはなくなってしまっている。
 そんな時、判断には冷静さが必要であることを、再認識する。再認識というよりも、今まで本当に冷静さが必要だということを意識していたかどうかも怪しいものだ。冷静さのない判断など判断ではないとも言えるので、絶えず冷静さは保ったままだったような気がするのだが、それは自分の思い過ごしかも知れない。
「まったく同じ日など、存在しない」
 もし、同じ日を繰り返すことができたとしても、考えていることが同じであるとは限らない。少しでも違った感覚を持てば、まわりも違った反応を起こす。この時点で、すでに前の日と同じではなくなってしまっているのだ。それを考えると、同じ日をやり直すなど、できっこないのではないだろうか。
 その日は、やけに疲れを感じていた。朝から身体がだるく、本当は会社を休もうかとも思ったくらいだった。別に重要な仕事があったわけではないので休んでもよかったのだが、会社に出かけた。一人で寝ていると、ロクなことを考えない気がしたからだった。
 部屋で身体のだるさを感じながら横になっていると、無性に眠くなってくる。すぐに夢の世界に入ってしまうのだが、ロクなことを考えないのは、この夢のせいだった。
 最近、腰痛を感じる修は、腰痛のせいで、すぐに目が覚める。眠りが浅いせいもあって、最近ではあまり夢を見たという記憶がない。
 夢は深い眠りの中で見るものだと思っているので、腰痛を感じる時、横になっているときついのが分かっているのに、ついつい部屋にいると横になってしまう。しかも、睡魔が襲ってくるから、厄介だった。
 以前は決まった時間に寝ないと嫌だった。夜中の中途半端な時間に目を覚ますのが嫌だったからなのだが、今は眠たい時に寝るようにしている。そうでないと、腰痛のため、眠れなくなってしまうからだ。しかも腰痛の時に限って夢を見たりする。その夢はあまり気持ちのいいものではなかったりする。
 見たくもない仕事の夢で、人から怒られたりするわけではないのだが、仕事がはかどらない夢であった。一生懸命に考えているのに、時間が過ぎるわりに成果が一向に上がらない。実に困ったことだった。
 仕事の内容はあまり考えることが多いわけではないのに、たまに考えなければいけないことができたそんな時の夢になっている。かなり前の出来事でも、まるで昨日のことのように思い出せてしまうのも、夢の特徴であり、嫌なところでもあった。
 その日、家に帰ると、ちょうど玄関先で待ち構えていたのが、運送会社の人だった。
――俺に何の用なんだろう? 届け物などどこからもないはずだが――
 と思って、怪訝な顔で恐る恐る聞いてみた。
「何でしょう?」
「はい、時計をお届けに参りました。こちらにサインをお願いします」
 ああ、そうだった。時計を届けてもらうことにしていたのを忘れるなんて、やっぱりその日は、かなり体調が悪かったに違いない。身体のだるさに加えて、会社に着く頃には頭痛もしていたのだ。昼食を食べて少ししてから今度は吐き気まで催してきて、
「病院に行った方がいいかも知れない」
 と思ったが、吐き気はすぐに収まり、次第に頭痛も引いていった。感覚がマヒしてしまったのではないかとも思ったが、病院に行くまでもないと感じた。下手に病院で時間を使い、仕事が遅れることを懸念に感じたからだった。
 仕事を何とかこなすと、どんなに面白くないと思っている仕事でもそれなりに充実感を味わうことができる。仕事を辞めたくない理由の一つには、そんな充実感を味わいたいからで、体調が悪くなければ、たまには酒でも呑んで帰りたいくらいだった。
 家の近くにある居酒屋は馴染みの店だが、最近は足が遠のいている。その日も体調が悪いので帰ってきたが、本当なら寄ってもいいくらいの精神状態であった。
 置時計が届いたのを聞くと、心なしか気分の悪さが解消されていくのを感じた。嬉しさが体調の悪さを忘れさせてくれたのだ。
 置時計を部屋の隅に置いた。どこに置いてもあまり変わりはない。それほど小さくてこじんまりとした部屋だったからだ。
 想像通り、部屋に持て余すほどの大きさであり、完全に浮いていたが、それでも部屋の雰囲気は一変した。こじんまりとした部屋が、さらに狭さを感じられるようになったが、修にはそれでもよかった。元々が中途半端な大きさに感じられたからだ。さらに小さく感じた部屋は、最初こそ狭く感じられたが、次第にそこから少しずつ余裕を感じるようになっていった。それが置時計の効力のように思えたのだ。
 置時計を置いて、テレビを消した。先日買ってきた本を出して、横になりながら読むことにした。久しぶりに読む小説は恋愛小説で、最近はあまり読まないジャンルだった。恋愛小説の中にはミステリアスで妖艶なものもあり、修の読む恋愛小説は、そんな内容の本が多かった。
 横になって本を読んでいるだけで睡魔が襲ってくるのだが、その日はいつもより睡魔がなかなか襲ってこなかった。理由は、置時計の音にあった。
「カチカチ」
 正確に時を刻んでいる音は、普通なら睡魔を招くものなのだろうが、その時は違った。音が大きすぎるのだ。
 アンティークな時計の奏でるリズムは、規則的でいて、ゆっくり響いていた。次第に音が大きく感じられるようになったのは、音がゆっくり響いてくるからで、音を感じていると、せっかく読んでいる本の内容が頭から消えそうになるくらいだった。
 元々本を出してきて読もうと思ったのは、そのまま眠ることができれば、その日の体調の悪さを乗り切ることができるような気がしたからだ。ゆっくり読んでいると、睡魔が襲ってくるはずだった。しかも時計の規則的な音がメトロノームの役目を果たし、まるでオルゴールのように心地よい眠りに誘ってくれると思っていた。だが、やっぱりアンティークな時計の音は、それなりに大きかったのだ。
 アンティークにはそれなりにいいものがあり、匂いがしないにも関わらず、匂いを感じさせることがある。この時計も骨董屋で見た時に、思わず匂いを嗅いでしまったくらいだ。
 学生時代には、骨董品屋でオルゴールを買ってきたことがあった。家の近くにあったわけではないが、観光地に出かけた先で骨董品屋を見つけると、思わず立ち寄って、オルゴールを探したものだ。最近はオルゴールを意識することはなくなったが、骨董品屋を見つけると、つい物色してしまうくせは治っていなかった。
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次