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異能性世界

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 今度は修が驚いた。ただこの驚きはリナが予想外のことを言ったわけではない。まったく逆だ。リナがいう言葉をあらかじめ自分が予想できたことへの驚きだった。そういう驚きというのは声にならないもので、思わず息を呑んだという表現がピッタリのような気がした。
「それはいつのことなんだい?」
「はい、数日前のことなんですが、あなたとはまったく違った人で、年配の女性の方でした」
 自分と似ている人だというのなら、何となく分かった気がしたが、まったく違った人というのはどういうことだろう?
「その時に、どんなお話をしたんですか?」
「あまり覚えていないのですが、ハッキリと覚えているのは、今のあなたとまったく同じ言葉を最初に言われたんですよ」
 すると、その人も別人のリナと出会って、同じようにリナに会おうとしていたということだろうか?
 ここまで考えてくると、修は背筋に汗が滲んだのを感じた。さらなる懸念を感じたからだ。
――他に一人いたということは、もっとたくさんの人が同じようにいるかも知れないな――
 と思うと、その可能性を考えた時、無限に広がっているのではないかと思ったのだ。
 それは両端に鏡を置いて、真ん中に自分が座り、どちらかの鏡を見続けていると、自分の姿が無数に見えてくる感覚に似ていた。最後は豆粒ほどの小ささだが、さらに向こうにもっと小さなものが存在していることに気付く。
 この発想はあまりしないようにしていた。考えすぎると、眠れなくなるからだ。それと同じ発想が頭を過ぎった。両端の鏡のような装置が、見えないけれど、どこかに存在していることを示しているからだった。
「その人とは、覚えていないけど、お話はしたの?」
「ええ、話をしてくれたんですが、突飛過ぎる話だったような気がして、それで覚えていないのかも知れません」
 やはり彼女に難しい話はタブーなのかも知れない。
 だが、突飛な話をしたのを本当は彼女が理解していて、それを信じたくないという気持ちが無意識に記憶を消しているのかも知れないと思うと、今目の前にいるリナが、本当に昨日出会ったリナではないと言いきれるだろうか。むしろ昨日のリナだと思う方が、よほど理に適っているのではないかと修は思っていた。
「リナちゃんには、難しい話をしない方がいいかな?」
 探るように上目使いな目を見せると、少し困ったように、ゆっくりと頭を垂れた。
 本当に難しい話をしないでほしいと思うのなら、もっと訴えるような目をするであろうと思った修は、やはり昨日のリナと同じ人物ではないかと思う方が強くなっていた。
 だが、それも確信があってのことではない。理屈ではそう思っていても、今自分が存在している目の前の世界は、明らかに現実離れしている。
――夢なら早く覚めてくれ――
 という意識が強いくらいだった。
「難しいお話はしない方がいいかも知れないんですけど、お話はしてください。今の私はとても寂しい気がするんです。お話してくれる人がそばにいてくれると、それだけで救われた気がするんです」
――救われた気がする?
 リナが何か心の奥底に秘めているものがあるような気がして仕方がなかった。
 修にとって、リナとの出会いは、これからの自分の人生にどういう影響を与えるか気になっていた。
 修はリナに何を話していいのか分からなかったので、とりあえず自分のことを話した。
「俺は普通のサラリーマンで、年齢は三十歳。近くの大学を出て、普通に就職した、どこにでもいる平凡な男だよ」
「何か趣味はあるんですか?」
「趣味という趣味はないんだけど、歴史の本とか読むのは好きだね」
 最近でこそ、女性も歴史が好きな人は多いが、どうしても歴史というと女性からは敬遠されるものである。
「すごいですね。私は成績はよくなかったけど、歴史は好きですよ。暗記の学問として思ってしまうと好きになれなかったと思うんですけど、裏話とか結構面白いですよね」
「元々俺は好きな時代が偏っていたので、歴史が好きといっても、好きな時代以外はなかなか知らなかったんだ。でも、大学の時に歴史に詳しいやつがいて、そいつと話を合わせるために、基礎知識として一冊本を読んだら、それが結構面白くて、病みつきのようになってしまったんだよ」
「そういうことって大切なのかも知れないですね。自分に影響を与えてくれる人がそばにいれば、全然違ってきますからね」
 リナはそう言っていたが、まさしく今の修にとってリナは、ちょうど話に出てきた、
「自分に影響を与える相手」
 として、当分君臨してくる存在になることだろう。
「歴史が好きというので思い出したけど、そういえばここに来る前に骨董品屋があって、そこに寄ってきたんだけど、思わず大時計を買ってしまったよ。これも、古いものに造詣が深いからだということになるのかな?」
 その話を聞いたリナは、一瞬顔が青ざめたように見えたが、すぐに態度を元に戻し、
「そういえば、骨董品屋ありましたね」
 と冷静な顔をしているが、視線はあらぬ方向を向いている。話に出た骨董品屋を思い出そうとしているのか、それにしても表情だけ見ると、思い出そうとしているのに思い出せない。それが相当前に見たからだという時間的なものなのか、それとも、自分の足が遠のいてしまったことでも距離的なものなのかは分からない。ただ、骨董品屋の話が出たことでリナが反応したのは確かなようだ。
 だが、リナが反応したのは、骨董品屋に対してだろうか、それとも買ったものが大時計だということだからだろうか。リナの顔を見ていると、キョトンとしているようで、最初に反応した時の鋭さは一気になくなっていた。
「大時計って、そんなに気になったんですか?」
「ええ、あるはずのないマントルピースを思い浮かべて、その上に置いたらいいなんて勝手な妄想をしたりしたんですよ」
「確かに大きな置時計というと、マントルピースが似合う気がしますね。薪木が燃える時に立てる音と、規則正しく時を刻んでいる時計の音とが調和しているように思えてくるんですよね」
「その店にいると、狭くて乱雑に置いてあるように見えるんだけど、表から見た感じより店の中が、次第に大きく感じられるんですよ。そう思うと、置いてある場所にもそれぞれ意味があるんじゃないかってことまで考えるようになりました」
「私はまだ、そのお店に入ったことはないんですが、一度入ってみたいと思っていました。表からこじんまりとしているよりも、やっぱり乱雑さしか見えてこないんですけど、次第に最近になって気になるようになってきたのは事実です」
 古いものに感動するのは、年を取ってきた証拠ではないかとまで思っていたが、同じように共鳴してくれる人がいるというのは嬉しいものだ。
「私は骨董品を見ると、次の朝には、必ず骨董品を見たという夢を見るんですよ。だから本当に見たのか、それとも過剰意識の成せる業だったのか、分からなくなってしまうんですね」
「それは私もあります。普段気にしないものを気にしてしまうと、まるで夢だったのではないかって思うんですよね。特に人との出会いに同じことを感じます」
「じゃあ、今までに出会った人の中で、夢だったと思うようなことがあったりしたんですか?」
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次