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異能性世界

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 夕凪の時間を感じながら道を歩いていると、なかなか時間が経過してくれない。歩いていても道は果てしなく続いていくことを実感し、本当に目的地に着けるのかと、不安にさせられることもあったくらいだった。
 昨日リナと出会った場所に行くと、そこには果たしてリナがいるだろうか。半信半疑で急ぐのだが、足が思ったように動いてくれない。辿り着いた時には身体がクタクタに疲れていた。息遣いの荒さも自分で分かった。ただでさえ夕凪の時間帯。モノクロに見えるどころか、立ちくらみを起こしたかのように、視界は一点しか見えていない。それ以外はまるでクモの巣でも張ったかのような線が放射線状に無数に広がっていて、今にもその場に倒れてしまわないかと危惧するほどであった。
 目の前には交差点が見えていた。確かにこのあたり、まわりを見渡すと、リナの姿はなかった。なかったことにホッとする自分がいるのを感じた。なぜなら、もしそこにリナがいれば、自分も同じ日を繰り返していることになるからだ。
 いや、リナの言い方を借りれば、昨日のリナとは違う人がそこにいることになる。姿形はソックリな女がそこにいるのに、相手は自分のことを覚えていないのだ。こんな寂しくて虚しいことはあるだろうか。声を掛ければ、キョトンとされるか、不審者に思われるに違いない。
「初めまして」
 というのもおかしなものだ。
「待てよ」
 そこで修は一つのことが頭に閃いていた。
「昨日、リナが声を掛けてきたんだよな。自分をいかにも知っているように……。それって今の自分の状況と酷似しているのではないだろうか?」
 と思ったのだ。
 リナの表情からは感じなかったが、かなり勇気のいることだったに違いない。同じ日を繰り返しているということを受け入れているのだから、少々のことでは動じない性格になっているのか、元々そうだったのかは分からないが、動じない性格になっていたのなら、勇気を振り絞ることも、さほど苦になることではなかったに違いない。
 ただ、ここでの勇気は後から襲ってくる寂しさや虚しさを自らに課すことである。勇気とは少し違っているように思えたが、それももう一度会って、リナに確かめればいいことだと思った。
「会ったら会ったで、何から話せばいいのだろう?」
 とにかく会うことを目的にしていたので、その先のことまで考えていなかった。会えること自体が半信半疑。大体同じ日を繰り返しているなど、そう簡単に信じられる話ではない。
「でも、これがリナさんの真実なのかも知れないな」
 人にはそれぞれ真実がある。それが一つだとは限らないだろう。しかもいくつも真実が存在すれば、その中には矛盾したこともあるだろう。ただ、ここまで真実があるとすれば、もはやその中のすべてが真実だとは思えなくなりそうだ。
 それでもどれか一つを真実だとして考えると、そこから繋がりを辿って行って、切り離すことのできない繋がりがそこにあるなら、それはすべて真実。紛れもないことだろう。
「何があっても捨てることのできないもの。まわりのものすべてを捨てても、それだけは捨てられないと思うものがあるのなら、それは紛れもなくその人の真実なのさ」
 これが修の中の真実だった。
 そういう意味では修の中にある真実は一つではない。人が何と言おうとも修の真実なのだ。それを受け入れてくれる人がなかなか見つからない。それが寂しくもあり、意固地にさせる原因でもあるが、だからと言って、真実を捨てることなどできるはずがない。いつもその思いがある限り、少々のことでは動じないつもりだし、リナの話も信じられる気がした。
「いた」
 何度かクルクルまわりながら見ていたはずなのに、リナはそこにいた。いつ現れたというのだろう。思わず声に出して言ってしまったことに修はビックリしていた。
 修を見てリナは少しビックリしていた。ビックリというよりも、明らかに怯えが滲み出ていた。昨日の自信に満ち溢れていたリナとはまったくの別人だった。
 むしろ、修は今のリナの方に興味を覚えた。物静かな雰囲気を醸し出し、相手に委ねたい、慕いたいという気持ちが溢れ出ているような女の子が自分の好みのタイプだと思っていたからである。
 接しやすさも理由であるが、人によっては、会話になかなか発展しないように見えることで敬遠する人がいる。よほどせっかちなのだろう。本当はこういう女の子こそ、馴染んでしまうと、席を切ったように話し始めることを知らないからだ。修は知っていた。小さい頃から物静かな女の子が好きで、よく一緒にいた経験があるからだ。まだ異性への気持ちがハッキリと固まっていなかった頃なので、恋愛感情というわけではなかったが、恋愛感情に発展しない方が、初恋にとってはよかったのかも知れない。
 初恋が淡い経験で終わることは分かっている。初恋をいつにするかは、その人の気持ち一つだと思うが、修はまだ恋愛感情のなかった頃の気になった女の子だと思っている。その理由は自分の好みのタイプがその時の女の子だということで確定したことだ。異性を意識して付き合った最初の女の子もまさにそのイメージピッタリだった。だが、なかなか自分のタイプの女の子とは仲良くなれないもので、社会人になって付き合った女性が一人もいないというのも自分で納得していた。
「妥協で付き合ったって、ロクなことはない」
 と感じるのも当然だ。今目の前に現れたリナを見て、遠い昔の記憶がよみがえってきたのも当然だと言えないだろうか。
「初めまして、リナさん」
 相手は、ぐっと身構えた。この言葉に含まれた矛盾を一瞬にして見破ったのだろう。相当勘のいい子なのかも知れない。いつも怯えているような性格なので、勘が鋭くなったのは、性格が起因していることは明らかだった。
 矛盾というのは他でもない。初めましてなのに、名前を知っているからだ。
「ど、どうして名前を?」
 相手の警戒心をマックスにしてしまうことも分かっていた。分かっていて修はそう切り出したのだが、修としてはそう切り出すしかなかったのだ。まずリナを知っているという事実を最初に話すことで、そこから昨日の話を展開する。それが最良だと思ったのだ。信じる信じないはリナの問題。昨日の話を切り出してリナが理解できないのであれば、修とリナの仲はそこでおしまいなのだ。
 ただ、疑問は大いに残る。昨日と同じ人が自分を覚えていないこと。しかも、覚えていない理由をどう自分に納得させるかがまったく分からない。納得できないことをそのままにしておけない性格なので、きっと明日もその次も、自分が知っているリナに会うために同じ行動を繰り返すに違いない。
 だが、今は目の前のリナを見つめることが先決だった。昨日のリナと別人として接するべきなのか、それとも同一人物だとして接するべきなのか修は思案のしどころだった。
「実は、昨日、ここで会っているんだよ」
「えっ」
 またしてもリナは驚いたような表情になったが、
「おや?」
 修はそこで少し疑問に思った。最初に感じた驚きと、少し違って見えたからだ。
「どうしたんですか?」
 思わず聞いてみた。ここはしっかりと確かめておかなければいけないところだ。
「いえ、実は前にも同じことを言われたことがあったんです」
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次