小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

異能性世界

INDEX|37ページ/43ページ|

次のページ前のページ
 

 部屋にある絵を見ていると、彼女のことも思い出す。その時の彼女の悲しそうな顔を見た時、初めて「死」というものを意識した。それは、その時の少年が死んでしまっていたら……、という意識からであったが、まだその時は、自分の死について考えていたわけではなかった。
 自分の死について考えたのは、いつが最初だっただろう?
 中学時代だったのには違いないが、その後にも何かショッキングなことがあったように思えた。
 それも彼女に会えれば分かるかも知れないと思った。しかし、もう一つ感じているのは、
――すでに彼女と会っているのではないか?
 という思いだった。相手が気付いているかどうか分からないが、もし修が気付けば、きっと彼女も気づくに違いなかった。
――リナに会ってみたい――
 リナがひょっとしてあの時の彼女ではないかと思った。最後に話した時に彼女が言っていた言葉を思い出したからだ。
「私はきっと秋山君が今後悩んだり考え込んだりすることがあると、私も同じような悩みを抱えるような気がするんです。その時、どこかのタイミングでお会いすることができると思うんですが、秋山君か私のどちらかが、この言葉を覚えていれば、本当の再会ということになるんでしょうね」
 と言っていた。
 物忘れが激しく、しかも中学時代の記憶が欠落している修だったが、この言葉だけは、しっかりと頭の中からよみがえってきた。
「そうだったらいいね。僕はきっと君のことをずっと忘れられない気がするんだ」
「どうして?」
「忘れたくないからさ」
「ありがとう。でもその意識が却って記憶を封印することに繋がるのかも知れないわね。いい? 記憶というのは、限界が来ると封印されるものなのよ。覚えておくといいわ」
 記憶の封印という発想は、修のオリジナルな発想だと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。
 修は、中学時代の記憶が少しだけだとは思うが思い出されたのを感じると、今リナと会えば、どんな気持ちになるのか想像してみた。
 この間のリナとの再会は、まったく知らない者同士が、共通の不思議な力を話しただけのものだったが、以前からの知り合いだということになると、話が違ってくる。漠然とした同じ日を繰り返しているという発想も、実は知っている相手だということで、ある意味、特定された人との間で繰り広げられている「狭い範囲」の出来事ではないかと思えてくるのだった。
 ただ、なぜ今リナと出会ったのだろう? リナのおかげで、まりえと仲良くなれた。しかし、まりえと仲良くなってリナはどう思っているのかが分からない。
 ただ、それも修がこの世界での自分のことだけを考えているからそう思うのだろう。もし違う世界に自分がいて、その自分がリナと付き合っているのであれば、リナが他の世界の自分にも幸せになってほしいと思うのは自然なことだ。少しおこがましい考えだが、前向きな考えと言えるかも知れない。
 しかし気になるのは奈々子の方だった。
 奈々子との出会いや、彼の兄の話をリナは分かっていなかったのだろうか?
 ひょっとして、まりえのいる世界と、奈々子と一緒の世界では、違う世界なのかも知れない。同じ日に出会ったわけでもないのだ。その間に同じ日を繰り返した記憶もある。まりえからも、
「どなたでしたっけ?」
 と言われたこともあったではないか。次の日には一日飛び越えて元に戻ったのだと思ったが、本当に元に戻ったのだろうか? 一度道を違えてしまったのだから、その後に修正されて戻ったとしても、同じ地点に着地できているという保証はない。動いている場所でジャンプして、普通に着地すれば、むしろまったく違うところに降り立ったと思うのが当然ではないだろうか。修はそのことをまったく理解していなかった。
 修に限ったことではない。この発想は誰もが思い浮かぶことではないだろう。パラレルワールドの本当の恐ろしさは、実はここにあるのではないだろうか。一つの謎を解いたとしても、さらに謎が潜んでいる。安心している暇はないのだ。一つのことで安心してしまうと、永久に抜けられない堂々巡りを繰り返し、パラレルワールドの「罠」に引っかかってしまうだろう。
 今言えることは、罠から抜け出すには、リナの力が必要だということだ。だが、本当に抜け出したいと思っているのだろうか。少なくともまりえと一緒にいる修は、幸せだと思っているはずだ。今の幸せを壊したくないという思い、一番分かっているのは、罠から抜け出そうと思った修だった。
 奈々子と一緒にいる修にしても同じで、今の自分の立場を放っておきたくはないという思いがある、それは奈々子に対して感じている恋心のようなものを確かめたいと言う気持ちがあるからだ。
「中途半端に終わってしまいたくない。そして兄の死についても、ハッキリと知りたい」
 という思いもある。
 そして、今考えている自分にしてもそうだ。中学時代の記憶を思い出しかかっているのは、何か理由があってのことだろう。それを確かめることなく、このまま元に戻ったとして、後悔しないとは言いきれない。
 リナに会いたいと思うのは、罠を抜け出したいという思いからではない。リナに会って確かめたいことがある。今は漠然としているが、それが分かれば、それぞれの自分の気持ちに整理が付くような気がしたのだ。
 そういえば、リナとは、あの時の二度しか会っていない。それぞれの自分が歩き始めたことで、会わなくなってしまったのかも知れないと思ったが、果たして本当にそれだけであろうか。他にも理由があるように思えてならない。
「リナが俺と会うのを避けている?」
 何かを伝えるために修の前に現れたのはないかという思いを抱いている。そして、伝えるのがリナの役目で、それ以上は、修と関わるのを避けていて、もし出会ってしまえば、パラドックスが崩れてしまうと思っているのかも知れない。そこにどんなパラドックスが潜んでいるのか分からないが、修にはもう一度、リナと出会わなければならないという思いに駆られるのであった。
 もう一度、あの交差点に行ってみよう。時間は夕凪の時間、仕事が終わってすぐに向かわないと間に合わなくなる。
 急いで会わなければいけないという気は不思議にしてこないのだが、会いたいというもう一つの気持ちの方が強いくらいだ。会いたいと思うのは、自分の気持ちを確かめたいからで、リナのおかげで気持ちを通じ合わせた、まりえであったり、同じ会社で毎日顔を合わせながら気持ちに気付かなかった奈々子であったりと、出会いを重ねてきた中で、リナへの気持ちと、リナが自分をどう思っているかということを確かめないと気が済まなくなってしまっていたのだ。
 仕事を早めに切り上げて、急いで会社を出るのを、奈々子がどんな気分で見ていたのか分からない。奈々子の視線を気にすることなく、文字通り一目散に会社を出た修は、交差点でリナと出会った日のことを思い出していた。
 自然な出会いだった。二回目は確かにリナに会いたい一心ではあったが、出会い自体は自然だったように思う。今日のように急いで行かないと出会えないという意識はなかった。どうして、今日は急がないといけないと思ったのだろう。
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次