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異能性世界

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 ただ、過去を繰り返すには何か理由があるのではないかと思うようになると、そこには前だけを見ているだけでは解決できない大きな問題が潜んでいることに気付かないわけにはいかないだろう。
 大きな問題は、一つのこととは限らない。しかしすべては、何かの線で繋がっていることに間違いはないが、繰り返す範囲が一日に限られてしまっているというのも、どこか釈然としない。その時に一日という単位について、思い知らされることになるのだ。
 修は眠っていたようだ。気が付いたら、午前五時、まだ行動を始めるには少し早い時間だった。
 午前五時に起きることは珍しくはないが、そのまま二度寝することが多く、行動を開始する七時に目が覚めると、身体が軽く感じられた。
 熟睡していると、完全に目が覚めるまでには、少し時間が掛かる。一度途中で起きた方が、身体が目を覚ますまでには時間が掛からない。そんな時、一度目を覚ましたという記憶が、夢の中でのことだったのではないかと思うこともあった。
 しかし、この日は午後五時に、完全に目が覚めてしまった。そのまま眠ってしまおうという気分にはなれず、そのまま身体が起きてしまったのだ。身体が起きてしまうと、今度は眠る気にならない。普段なら、
「二時間も眠れる」
 と思う時間なのだが、身体が起きてしまうと、
「あと二時間しか眠れない」
 と思ってしまうのだ。完全に目を覚ますまでの時間を考えると、二時間は中途半端な気がしていた。
 殺風景なので、テレビを付ける。朝の番組は爽やかさを売りにしているという意識があるので、なるべくなら身体が起きてしまうまでは見たくない。この日はすでに身体が起きてしまっているので、早朝の爽やかさが億劫には感じなかった。身体が寝ていると、何をやっても億劫で、食事も喉を通らない。強引に押し込んでも気持ち悪いだけで、朝から気持ち悪さとの戦いになることは分かっているので、家で食べるよりも表で食べることにしていたのだ。
 さすがに、午前五時からやっている喫茶店といえば、近くでは二十四時間営業のファミレスくらいだった。早朝のファミレスにも行ってみたことがあったが、学生が数人、奥のテーブルで勉強をしていたのか、ノートや参考書をテーブルの上に広げて、眠っていた。ウエイトレスが一人で、眠そうにしていたのを見ると、さすが早朝ということもあり、自分も睡魔に襲われそうになった。これでは、却って逆効果ではないか。
 いつもの喫茶店に一番最初に入った時も、早く目覚めてしまって、ファミレスは嫌だという思いの元、家を早めに出て、喫茶店を探した時に、偶然見つけたのがきっかけだった。
 この日は、いつもの喫茶店に立ち寄るつもりだったのだが、家を出てから、急に思い立って、そのまま駅に向かった。普段と違うことがしてみたくなったのだ。
 普段と違うことをするには、勇気がいる。しかし、違うことをしてみたいという気持ちも強くあった。
 電車の時間を知っているわけではなかったので、家を六時前に出たのだから、まだまだ早朝列車の時間帯だ。それでも駅舎には人が結構いた。サラリーマンに混じって高校生も結構いる。十五分ほど駅で待って乗り込んだ電車には、何とか座ることができたほど、思ったより客はいた。
 乗客は寡黙だった。通勤ラッシュの客層とは明らかに違っている。ほとんどの客はまだ身体が完全に起き切っていない雰囲気があり、眠っている人も結構いる。見ているだけで眠気を誘うが、眠くなるわけではなかった。
 彼らを見ていると、
「同じ毎日を繰り返していても、繰り返していること自体、意識していないかも知れないな」
 と感じたほどだ。このまま一日が終わって、また目が覚めたとしても、疑問に思わない人たちではないかと思えた。ひょっとすると、ここにいる客の中には、通勤ラッシュの時間帯にも存在しているのではないかと思ってしまったのは、パラレルワールドを感じたからだ。
 同じ日、つまり二十四時間を繰り返している人は、同じ時間に同じ空間に存在することはできないが、短い時間で繰り返している人の中には、違う時間で同じ空間に存在していたとしても不思議ではない気がする。ただ、その人の意識は普通に毎日を繰り返しているのだろう。では、ここで幽霊のように同じ時間を繰り返しているであろう人は、どういう存在価値があるのか、考えてみた。
 彼らに存在価値があるとすれば、通勤ラッシュで毎日を過ごしている人の夢の中でこそ存在価値が見いだせるのではないのだろうか。夢だと思っている時間帯こそ、実は同じ空間で存在しているもう一人の自分なのかも知れないという発想である。
 夢の世界は潜在意識が作り出しているものだとずっと思っていたが、同じ空間で、違う時間に存在しているという考えに基づけば、
「夢には限界がある」
 という発想も成り立つのではないだろうか。
 なるほど、同じ空間ということは、同じ「現実世界」なのである。そう思えば、限界があっても当然のことなのだ。
「おや?」
 会社まで、駅は五つあるのだが、三つ目の駅に差し掛かった時、どこかで見たことのある人が乗り込んできたことに気が付いた。その人は、同じ会社の人で、普段から明るい雰囲気を醸し出している人だったのだが、前にも同じ通勤ラッシュで見かけたことがあったので、普段はそんなに早く会社に行く人ではないはずだった。
 見るからに声を掛けにくい雰囲気で、扉の近くに立っていた。表を見ているが、視線は踊っていて、どこを見ているのか分からなかった。
――こんな雰囲気だったかな?
 さっきの発想を裏付けるような雰囲気に、修の視線は釘付けになっていた。普段とまるっきり違っている雰囲気は、会社と家の往復で、しかもあまり人と関わりを持ちたくないと最近まで思っていた修に、好奇心を抱かせたのだ。
 その人のまわりにはいつも人がいたような気がする。内容までは分からなかったが、会話の絶えない人だというイメージが強かったのに、今はまるで別人のようだ。視線を離さずに見ていると、またしても、不思議なことに気が付いた。
――瞬きをしていないんじゃないか?
 修とまったく同じタイミングで瞬きをしているのかと思い、瞬きをするのを少し我慢してみたが、まったく瞬きをする様子がない。カッと見開いた目は、一体どこを見ているというのだろう。視線の先に見えるもの、それは差し込んでくる朝日だった。
 余計に瞬きをしていないなんてありえない。朝日の差し込む顔を見ていると、今度は顔の輪郭以外はハッキリとしなくなり、まるでのっぺらぼうを見ているかのようになっていた。
 このままずっと見ていると、今度はこっちがおかしくなってくる。立ちくらみを起こした時のように、目が見えなくなっていた。このまま見続けたら、間違いなく頭痛が襲ってくるに違いなかった。
 しばし、目を閉じておくしかなかった。前を見るわけにはいかず瞑った瞼の裏側に張っている蜘蛛の巣のような線が消えるまで、目を開けるわけにはいかなかったのだ。
 数十秒くらい目を閉じていただろうか。かなり長く感じられたが、目を開けて、正面を見ると、そこにはすでにその人はいなかった。どこかに移動してしまったようだ。
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次