小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

異能性世界

INDEX|26ページ/43ページ|

次のページ前のページ
 

 奈々子には兄がいるのだが、その兄が三年前に失踪した。それまで奈々子は兄を慕っていた。兄としては当然だが、男性としての兄にも憧れを持っていたのだ。
 もちろん、禁断の愛であることは分かっていたし、それを兄に悟られないようにしようという気持ちが強かった。兄が失踪してからしばらくは男性恐怖症に陥っていた奈々子だが、今でもその名残りは残っているが、それを解消することができたのは、修の存在が大きかった。
 奈々子は自分で気付いていないが、マゾであった。苛められたいという意識ではなく、男性に対しての依存症が病的に強いのだ。それを今まで兄の存在が抑えていたのだが、その兄がいなくなって、しばらくは抑えが利かなくなった。そのため、男性を見ると、誰もが自分を襲ってくるのではないかという錯覚に襲われ、恐怖症になっていたが、修の前でだけは、従順だった。
 修が三日間無断欠勤をしたと思っているのも、兄への思いが強かったのかも知れない。無断欠勤が、実は失踪だと思ってしまうと、今まで慕っていた男性二人が、二人とも失踪するということになると、自分が何らかの関わりを持っていることになる。実に恐ろしいことではないだろうか。
 奈々子の兄は、修とは性格的には似ていないかも知れない。それは一番奈々子が分かっている。分かっているのに、なぜ修に惹かれるのか、自分でも分からない。それも同じ性格の相手に惹かれるのと同じ感覚だったからだ。
 奈々子は幼い頃から兄を慕っていたこともあって、今まで男性を付き合ったことなどない。
 もちろん、奈々子は処女である。兄が失踪してから男性恐怖症になったのだから、処女であることは不思議ではないが、まわりの人は、もし奈々子が処女だと言っても、信じる人は、まずいないだろう。
 奈々子は、大人っぽいところがある。兄と修に対しては従順であり、幼さが垣間見えるのだが、他の人から見れば、大人の女の魅力を十分に発揮している。
 子供っぽい服ばかりを着ているので、ギャップがあるが、ギャップを好む男性も少なくない、特にサディスティックな男性には、そのギャップが溜まらないと言う人も多いだろう、
 しかも奈々子はマゾである。サドの男性には、奈々子のような雰囲気はすぐに看破されてしまう。奈々子の回りにもたくさんのサドの男がいて、奈々子を狙っているのかも知れない。
 実際に、
「私、時々誰かにつけられている気がするの」
 と言っていたが、それはまんざら嘘ではないようだ。男の視線を感じるが、感じた瞬間相手が視線を切るので、どんな人か見当がつかない。奈々子を気にする男性の多くは、相手の視線に敏感で、相手が視線を向けてくると切ってしまうくらいの力を持っている。そんな海千山千の男をまわりに従えているような奈々子は、見る人からみれば、颯爽として見えるのではないだろうか。
 もちろん、奈々子の意志の外で行われていることであり、忘れてしまっているのか、最初から意識がないのか、すべて他人事だと思っている奈々子だった。
 奈々子は、自分がマゾであることにやっと最近気付き始めたようだ。気付かせてくれたのは、失踪した兄であり、その意識を背中から押したのは、修だったのだ。
 奈々子の兄は、サドだった。奈々子にもマゾの気があることを一番最初に気付いたのは、何を隠そう、兄だったのだ。
 自分のそばにいると、いつ手を出すか分からないということで、マゾの女性を探して付き合い始めたのだが、相手が悪かったのか、失踪する羽目に陥ってしまった。
 奈々子は、兄を慕うあまり、自分が兄の失踪に一役買ってしまったことに気付いていない。もちろん、気付かせないようにしていたのであろうが、それだけウブだということだろう。
 まだ処女だということを他の人が信じられないと思っているのも、容姿からだけではなく、マゾとしての素質が表に滲み出ているからなのかも知れない。
 奈々子だけが、修を三日間の無断欠勤だと思ってしまったのも無理がないのだろうが、なぜ、他の人は、違うイメージで見ていたのだろう。しかも、無断欠勤だと思ったのは奈々子だけ、奈々子には一体修の何が見えたというのだろう。
「私も、ひょっとしたら、この三日間、本当は会社にいなかったのかも知れないと思っているんです」
「どういうこと?」
「秋山さんのことも確かに気になるところではあるんですけれども、私自身も、この三日間のことを思い出そうとすると、ハッキリと覚えていないんですよ。今までにも同じようなことが何回かあったんですけども、その時は、夢を見ていたような感覚で、気が付いたら、皆と同じ時間にいたんですよ。同じ日を繰り返した気がしたのに、翌日になると、翌々日になっていたって感覚ですね」
「本当にそんなことがありえるの?」
「その時、兄が教えてくれたんですけども、私はずっと眠っていたらしいんです。一日半くらいずっと寝ていたということで、それも最初の半日のことは、自分でもまったく覚えていないんですよ」
 修の場合は、三日間だという。三日間も眠っているわけもないし、ということは、自分と奈々子の間に不思議な空間が存在し、それぞれ二人で三日間を「分けあった」ということになるのかも知れない。奈々子だけが他の人と違った視線で見ているのは、自分もその中に絡んでいたからなのかも知れない。まわりの人たちが修と奈々子をどのような目で見ているのか、気になるところでもあった。
 どのように見ているのかという意味では、別に嫌われていることに対しては、気になるところではない。自分を見ている目を見ることで、まるで鏡のように、自分のことを分かることができるかが重大なのだ。
 奈々子を見ている自分の目を、今まで意識したことがなかった。他の人とは違うということは分かっていたが、自分と同じ匂いを持った女であることに気付かなかったのだ。気付いた今では奈々子が自分に話を直接しなくても、ある程度のことは分かるような気がしていた。兄のことも話としては詳しく聞いていないのに、分かっているのだった。
 それは奈々子にも言えることで、修の考えていることや、今までのことも看破されてしまっているのではないかと思うと、少し心配だった。今さら奈々子に知られてしまって困るものはないつもりだったが、奈々子にだけは余計に入り込まれたくない領域を作っておきたい気がしていたのだ。
 相手のことをよく分かっているというのも、良し悪しである。一番自分のことを知っておいてほしい相手であっても、踏み込まれたくない領域というのはあるものだ。伴侶ならなおさらで、四六時中一緒にいる相手に対しては、特にプライバシーは尊重されるべきだと思っている。
 修は性格的にも、どんなに相手に歩み寄っても、自分のプライバシーだけは確保しておきたいタイプで、確保されるべきものだと思っていた。それだけに、理解のある相手でないと結婚できないとまで思っていた。
「相手を束縛したいと思っているくせに、わがままな性格だな」
 と、時々自分に呟いていた。
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次