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異能性世界

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 ホッとした気分になった。ただ、昨日はテレビで日付を確認したりしなかった。パソコンで日付を確認した時は確かに一日進んでいたように思ったが、今思い出そうとすると、思い出せなかった。まさしく昨日のことが、ほとんどグレーゾーンに含まれていたのだ。
 午前二時、昔でいえば、
「草木も眠る丑三つ時」
 とでも言われる、本当の真夜中だった。最近では二十四時間営業の店があったり、都会では、
「眠らない街」
 というのがあったりして、丑三つ時というイメージは、ほとんど死語になっていることだろう。
 ただ、変な胸騒ぎがあった。それがどこから来るものなのか分からなかったが、テレビを見ているうちに気が付いた。
「そういえば、テレビはまだ昨日の続きなんだ」
 当たり前のことではあるが、普段からテレビはついているだけで、ほとんどまともに見ていないので、テレビに対しての意識がなかったのだ。
 意識したことが、昨日の続きだというのも皮肉なことで、最近では二十四時間放送しているチャンネルも珍しくない。ただ、今まであまり時間帯的に不規則な生活をしたことがないので、この時間にテレビを見ることがなかっただけだ。
 ほとんどのチャンネルで放送していた。チャンネルを変えてみると、映画を放送していたり、バラエティー番組があったり、懐かしいドラマの再放送だったりと、深夜に起きていたのなら。興味を持ちそうな番組が多かった。実際、ゴールデンタイムの番組にはウンザリしていたこともあり、テレビはついていても見ているわけではなかった修には、深夜放送は興味深いものだった。
「あれ? この番組、最近見たような気がするぞ」
 バラエティ番組でよく見る芸人がリポーターとなり、旅行番組をやっていた。日にちをまたいで同じ場所を見ることもあるし、中には昼の再放送を夜にしていることもある。リモコンで番組情報を見ると、どこにも再放送の文字はない。あきらかに本放送だった。
 記憶の中でこの番組を見たのは、最近の夜だったように思えて仕方がない。
「最近、夜更かしをしたことも、夜目を覚ました記憶もないんだが」
 それでも夜だったのは間違いないのだ。
「これが、一日を繰り返しているという感覚なのかな?」
 と思ったが、この感覚も最近感じた気がした。
 それは、この間感じた、
「一日を繰り返している感覚」
 のことだったので、別に不思議ではなかったのだが。一日を繰り返している感覚が、深夜放送だったというのは、自分でも忘れていたことだった。
 深夜放送を見ているのは、以前に行ったことがあって、気に入った場所だったことが目を引いたからだった。
「あの時に温泉で出会った女は元気だろうか」
 あの時は夢のような出来事だった。
「旅の恥は掻き捨て」
 と言われるが、性欲を本能のままに表したような感覚だった。
 最初にその女性は清楚に見えた。もし最初から妖艶で、淫靡さが滲み出ていたら、最初から意識してしまうことはなかっただろう。最初に清楚さで引きつけられ、こちらが引きつけられたのを感じた相手が、本性を現したとでもいうべきか、彼女は妖艶さをあらわにし始めた。
 身体を重ねるまでに、それほど時間はかからなかった。肌と肌の触れ合いに、最初は燃えるような熱さを感じたのに、次第に肌が合ってきたのか、熱さが心地よさに変わっていった。
 まるで温泉の熱さに身体が慣れてきたような感覚である。
 温泉に浸かった後だっただけに、余計にその思いが強かったのかも知れないが、すっかり修はその女性の身体に溺れてしまったかのようだった。
 女性の身体に男の烙印を押すなどという隠微な言い回しがあるが、修の場合は逆だった。完全に女の身体が修に烙印を押したようだ。ただ、相手も同じ気持ちだったのだろう。至福の一夜は、あっという間に過ぎていった。
 二人とも連絡先を交換する気はなかった。もし次に会ったとしても、その時のような快感は二度と得られないと思ったからだ。中途半端な快感に収まってしまうくらいなら、いっそ思い出として残しておく方がいいと思ったのだ。お互いにそんな話はしなかったが、相手も気持ちは一緒だったようだ。
 確かあの日は一夜限りだったはずだ。それなのに、記憶の中では二日あったように思えてならない。身体が覚えているようで、身体を信じないわけには行かない気もしていたのだ。
 修にとってその日は忘れられない日であったが、どっちを忘れられないのか定かではない。明らかに同じ日であるにも関わらず二日間だったように思うことで、忘れられないと思いながら、時々記憶から消えてしまっていることに気付き、愕然としてしまうのであった。
 消えてしまった記憶を思い出すというのも、珍しいことであった。結構いろいろ思い出しているように思うのは、思い出す時には、一度にたくさんのことを思い出すからだった。その中でもこの思い出は特別で、毎回思い出していたのだ。
「簡単に思い出すのに、簡単に忘れるというのもおかしなものだ」
 と考えていたが、それも不思議なもので、思い出すのはいつも深夜に近い夜だった。一度睡魔に襲われ、再度目を覚ました時に思い出す。きっとそれは夢の続きを見ようとする意識が働いているからなのかも知れない。
――それこそ潜在意識の成せる業だ――
 こういう意識が働くから、夢を神秘的なものとして位置づけ、学者が研究材料にしたりするのかも知れない。夢と現実の狭間がどこにあるのか、そもそも狭間などと定義づけできるものが本当に存在するのか、それを考えてみたい気持ちになっていた。
 思い出というものが意識にどう影響するのか、あるいは逆に意識が思い出にどう働くのか、双方から見てみないと、考えても意味がないかも知れない。片方を考えることはできても、もう片方を考えることができないので、見出すはずの結論が見つからないでいるのだ。
 その日のことは、今まで夢に見たことはなかった。意識の中でも中途半端な思い出し方が嫌だと思っていたからに違いない。
 時々思い出すのはやはり夢を見るからだった。夢では実際に感じることのできない熱さを感じることで、
「あの時のことだ」
 と感じるのだ。
 なぜ熱さでないと思い出さないのかというと、夢の中では相手の顔が逆光になっているからだ。逆光になっていると、顔がハッキリと分からない。輪郭すらぼやけてしまって分からない。だから、誰だか分からないのだ。
 それでも、雰囲気で分かりそうなものなのだが、夢というのはそれほど甘いものではない。潜在意識が忘れてしまったと思えば、思い出すことができないようになっているようだ。
 温泉が映し出された番組を見ているつもりだったが、いつも間にか違う番組に変わっていた。映画に変わっていて、チャンネルを無意識に変えてしまったのかと思ったが、番組表を見ると、同じチャンネルで、時間帯が違ったのだ。
 これが一番不思議だったのだが、何とその番組は温泉の番組よりも前の時間帯だったのだ。
「まさか、時間を遡った?」
 いや、さっきまで考えていたのが、同じ日を繰り返しているということだったのだから、ここでは、
「同じ時間を繰り返している」
 という発想が生まれてくるのではないだろうか。
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次