小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

異能性世界

INDEX|14ページ/43ページ|

次のページ前のページ
 

「終わってほしくないという思いがお互いにあればの話だと思うよ。相手と気持ちに距離を少しでも感じると、かなり違和感があって、時間の感じ方も、相当変わってくると思うんだ」
「同じことを絶えず考えているというわけではないので、だから会話が必要だって思いますよね。お互いに理解し合えるところが多ければ多いほど、気が合うということですからね。すべてが合うなんてことあり得ないことですし、少しでも同じところを見つけていこうと思うのも、恋愛には大切なことだって思うんです」
「まりえちゃんは、同じ日を繰り返していると思ったことは、今までになかったかい?」
 核心に触れた気がしたが、まりえは少し黙ってしまった。
「ええ、最近特にそう思うことがあるんですが、人に話してはいけないことだと思っていたんですよ」
「どうしてだい?」
「だって、昔から変調があったりしたことを人に話すと、ロクなことがないというじゃないですか」
「それはおとぎ話の類だね。でも、僕は逆に同じことを考えている人が他にいないかって探してみたくなる方なんだよ」
「じゃあ、修さんも感じることがあるんですか?」
「たまにだけどね。でも、実際に同じ日を繰り返した感覚が残っていることもあったんだよ。きっと夢を見たんだろうね」
「私もそう感じました。でも、そんな時、寂しさがこみ上げてきて、無性に誰かと話をしたくなるんですよ。でも、話をしてしまっていいものかどうか、本当に考えてしまって、タブーを話すことで、本当に繰り返している毎日が本当になったら怖いと思うようになったんです」
「僕も寂しさを感じたよ。でも、それは自分の中にある矛盾を解消できないことでの苛立ちが、寂しさを感じさせているのかも知れないとも思ったね」
「自分の中にある矛盾?」
「夢だとすると、どうしても理解できないところがある。今までは夢だと思えば、すべてが理解できると思っていたのに、そうではないこともあるようなんだ。それが何なのか、いまだに分かってはいないんだけどね」
 と、修はまりえに話した。
 まりえとの話はそれ以上進展することはなかった。少し難しい話になると思ったからで、楽しい時間があっという間だという感覚も手伝って、そろそろ閉店の時間となっていた。
「また、今度ゆっくりお話しましょう」
 と言って、その日は別れた。修は、
――また明日来てみよう――
 と思い、そのまま家路を急いだのだった。
 すっかり夜のとばりは降りていて、ここまで遅くなったのも久しぶりだと思いながら、住宅街を歩いていた。
 足元から伸びる影は、いつもより長く感じられた。そういえば、今日の月は低い位置にあり、思ったよりも大きかった。限りなく白に近い色で、足元から伸びている。骨董品屋で見た、西洋の城の絵を思い出した。
「あの絵も、昼間なのに、月が出ていたような気がしたな」
 そういえば、あの時骨董品屋で見た絵のほとんどに月が写っていたのを見た気がした。変だとは思ったが、それ以上の意識がなかったのはなぜだろう? 絵に対して一つ何かが気になれば、他の絵に対しても同じものを確認してしまうのは、無意識の行動だった。
 次の日、いつものように目を覚ました。毎日同じ目覚めであったが、昨日とは明らかに違っていることは、すぐに分かった。なぜ分かったのかというと、大時計の時を刻む音に違いがあったからだ。
「今日は昨日の繰り返しではないんだ」
 と思うと、ホッとした気分になった。
 いつものように顔を洗って、同じように行動しても繰り返しではないと思っただけで、気が楽だった。きっと今日は昨日よりもボイルエッグがおいしいに違いない。
 空腹感は昨日よりもあった。昨日の空腹感まで覚えているというのは珍しいことで、それだけ昨日を繰り返しているのではないかという気分にならなかったことが嬉しかったに違いない。
 いつもの喫茶店に入ると、同じような湿気を感じたが、昨日ほどコーヒーの苦みを匂いに感じることはなかった。少し空気に薄さを感じるほどで、立ちくらみを起こさないかが心配でもあった。
 その日、まりえは少し遅れてやってきた。
「すみません、遅くなりました」
「どうしたの? まりえちゃんらしくもないじゃない」
 奥さんに、言われている話を聞くと、遅刻するなど今までのまりえからは考えられないことのようだ。それほど几帳面な性格なのだろう。確かにいつものまりえを見ていると、几帳面さが顔からも滲み出ていた。
 まりえは、奥さんから言われて、少ししょげているようだった。
――おかしいな――
 どうもいつもの彼女とは違っているように感じた。
「どこが違っている?」
 と聞かれると、漠然と変わっているとしか答えようがないのだが、それにしても、今日は普段見たことのない素振りを見せるまりえを見て、まるで別人であるかのように感じられた。
 だからといって、嫌いになったというわけではない。逆に、
――こんな一面もあるんだ――
 と、今まで知らなかったまりえを見たようで、不思議な気分だった。
 人から何かを言われてしょげている姿は、他の人であれば、少し惨めに見えるが、まりえには惨めさは感じなかった。それだけいつも律儀で健気なところがあるのだろう。何か言われても決してしょげたりせずにいつも笑顔でいる。相当無理しているところがあるのではないだろうか。
 今日のまりえの顔を見ていると、明らかにいつもと違う。何かに怯えているかのようにまわりをキョロキョロ見ているし、その顔には血の気が引いているかのようだ。
「まりえちゃん、どうしたんだい?」
 と、話しかけてみると、彼女は驚いたように、さらに身体を委縮させていた。
「すみません。どなたでしたっけ?」
「えっ?」
 一瞬、我が耳を疑った修だった。
「どなたでしたっけって、僕だよ。秋山修だよ」
「ごめんなさい。何となく記憶にあるような気がするんですけど、今日は頭が混乱しているみたいなの」
 と、言って涙目になっていた。
 明らかにいつもと違っている。いつものまりえは落ち着いているのに、明朗闊達なところが特徴なのに、今日はまったく正反対の性格だ。まるで、彼女の中にジキルとハイドがいるようだ。
 もし、二重人格だとすれば、今までにもその兆候が表れていて、少しは分かったはずなのに、まりえから二重人格の気は想像もつかなかった。しかも、修のことを完全に忘れてしまっているようだ。口では、
「何となく記憶にあるような」
 とは言っているが、見ている限り記憶にはなさそうだ。もし少しでも記憶にあるとするならば、思い出そうとするはずで、その素振りが見えないのは、まったく記憶にないからだろう。
――今日になって、記憶喪失になってしまった?
 そのわりにはまわりは落ち着いているように見える。今のまりえを皆分かっていて、知らないのは修だけだというのだろうか。
「今日のまりえちゃん、少しおかしくないですか?」
 トイレに行くふりをして、奥さんに、奥で耳打ちしてみた。
「うん、少しだけ変な気がするけど、あんな感じじゃないかしら?」
「あんなに怯えのあるまりえちゃん、初めて見た気がするんですけど」
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次