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異能性世界

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「そうですね。ハッキリとそのことを口にする人はいないんですけど、きっと同じ仲間を探したいと思っている人が多いんでしょうね。私も最初の頃は、声を掛けていたんですが、最近では無駄だと思って声を掛けなくなりました」
「じゃあ、俺はどうなんでしょう? 同じ日を繰り返しているあなたとこうやって時々お話しているというのは、俺も同じ日を繰り返しているということでしょうか?」
「たぶん、そうではないと思います。私は同じ日を繰り返しながら、急に何日か先に飛んでしまう時があるのを感じるんですよ。数日周期で日にちの辻褄が合っているかのようにですね。ちょうどそのサイクルと合うのがあなたではないかと思っているんですが、これはあくまでも私の想像でしかありません」
 その話を聞いて、ドキッとした。
 確かに修も毎日同じことを繰り返している中で、時々時間を飛び越えたような感覚がある時があった。日にち単位ではなく、時間単位なので、それほど大げさに感じることはなかった。眠っていて、夢を見ていたと思えばいいわけで、実際に眠りから覚めた時に、自分が感じているよりもはるかに時間が経っていることも少なくなかったのである。
 時間調整は辻褄が合うようになっているのだろうか? その人にとってのサイクルがそれぞれ違っていることで、飛び越える時間も違ってくる。着地点が違えば知っている人であっても、会話が通じないこともあるかも知れない。
「あなたのまわりには、きっと私のような時間を飛び越えている女性が何人かいると思うんですよ。その人たちの中にあなたを好きな人は常にいて、あなたのことを探していると思うんです。探してあげてほしいと思っています」
「意味がよく分からないんだけど、それはあなたではないんですか?」
「私も最初はあなたが、自分の好きになる人ではないかと思ったんですが、どうやら、少し違っているみたいなんですね。確かに好感は持てますが、好きになるという感覚とは少し違っています」
 修は、正直まったく意味が分からなかった。
「相手が告白してくれないと、俺には分からないよ」
「告白してはくれると思いますよ。ただ、それにはあなた自身が、彼女たちを理解してあげないといけないかも知れませんね」
「理解とは?」
「同じ時間を繰り返していて、急に数日飛び越える私のような時間を生きている人がいるということをですね。でも、彼女たちには、その自覚がまだないんですよ。彼女たちの時間の感覚は、皆と同じで、時間を飛び越えるなんて概念がない。逆に彼女たちから見れば、修さんのような時間を過ごしている人の方が、時間を飛び越えているように見えているかも知れませんね」
「でも、実際は同じ時間を繰り返しているんでしょう?」
「ええ、だから皆それを夢だと思っているですよ。夢だったら、一度起こったことを意識として持っているわけだから、見ることも不可能ではない。人間というのは、不可思議なことがあれば、それを夢を見たということで片づけてしまおうという習性があるんじゃないかしら」
「リナさんも、誰か好きな人がいるんですか?」
 これは気になることだった。最初から好きという感覚とは違っていたが、好感が持てたのは確かだったし、そんな彼女に誰か好きな人がいると言われれば少なからずショックを受けるに違いない。
「ええ、私にもいますが、彼も同じように思ってくれています。理解してくれているんですね。だから、修さんにも理解してほしいと思っている女性がいるはずなので、その人を探してほしいんですよ」
「どうやって探せばいいんですか? やみくもに聞くわけにもいかないでしょう?」
「もちろん、やみくもにではないですよ。ただ、いつも自分のまわりに自分を好きになってくれている人がいるという意識を持って、まわりを見てみてください。きっとあなたを好きになる人が気付いてくれます。私も同じように自分が好きになった人を見つけることができたんですよ。あなたのオーラが通じる人はいるはずです」
「それは楽しみですね」
「ただ、気を付けなければいけないのは、気持ちをしっかり相手に対して最初から話しておかないと、二回目以降会えるという保証はどこにもないですからね」
「約束しておいてもダメなんですか?」
「問題は、相手を覚えているかどうかということです。それはあなたにも、そして、あなたの相手にもよることですね。それでも、二回目がうまく会うことができれば、それ以降は、保障されます。二人の間にはそういう制約があるということを、しっかり覚えておいてくださいね」
 本当に雲をつかむような話だった。どこまで信じていいのか分からないが、リナの話にはそれなりに説得力がある。しかも、今まで修が漠然と、理由もなく思っていた不思議だと思う気持ちに近いものがあったのだ。
 その日から、修は自分を好きになってくれる人が必ずいるんだという意識を持って毎日を暮すことにした。そう思うと、一日があっという間に過ぎていくように思い、さらに同じ日を繰り返しているという感覚がさらに強くなるのだと感じた。
 実際に翌日は、朝から行動を開始した。とはいっても同じ行動パターンを変えることはしなかった。レナの話では、行動パターンを変えることは一言も出てきていない。変えてはいけないということだろう。
 朝起きて家を出るまでの時間はいつもと変わらなかった。感覚的にもあっという間だったわけでもなければ、なかなか時間が過ぎてくれないわけでもなかった。ただ、表に出ると、いつもよりも風を感じた。普段は絶えず何かを考えていて、毎回違うことを考えているので、ボーっとしながら出かけることが多かった。考えてみれば、毎回違うことを考えていることが、毎日同じことの繰り返しだという意識の裏返しになっていたのかも知れない。
 風は肌に冷たかった。これほど冷たいと今まで感じなかったのが不思議なくらいだ。考え事をしていると、肌の感覚がマヒしてしまうのであろう。集中しているというべきなのか、それとも考え事が意識をボーっとさせているのか、よく分からなかった。
 考え事をしていて、結論を導き出すことができたことなど、そう滅多にあることではなかった。結論を導き出すどころか、いつもある程度のところで、元の考えに戻ってしまう。堂々巡りを繰り返していることを考えている時には意識していないが、後になって、いつも堂々巡りのせいで、結論を出すこともなく、まるで夢から覚めるかのごとく、考え事が何だったかすら忘れてしまうというオチを招いてしまうのだった。
 いつもの道を、喫茶店に向かって歩き始める。まだ午前七時にもなっていない時間なのに、よく見ると、前を数人のサラリーマンが駅に向かって歩いている。普段、交差点などで歩いているスピードに比べて、皆早く感じられる。意識して見ているからそう感じるのか、それとも朝の時間がそれほどせわしいものなのかのどちらかではないだろうか。
作品名:異能性世界 作家名:森本晃次