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短編集26(過去作品)

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「記事というよりも、小説になりそうですね。哀愁を感じるわけではないのですが、発想すればきっといろいろ思い浮かぶことが出てきそうな気がします」
「たとえば?」
「そうですね。最初は一人で旅をしていて、その途中でいろいろな人に出会っていくなんていうのもいいですね」
「楽しそうですね。どうせ出会うなら女性がいいな。男性だったら、きっと面白くないですよ」
「どうしてですか?」
「私は元々無口なので、会話が成立しないでしょう。でも、女性とだったら、そこに会話などいらない」
「あなたはきっとロマンチストなんでしょうね」
 彼女のその言葉で、ハッとした。
 女性と出会って旅をするシチュエーションは、いつも頭に描いている。だが、描いているだけで、実際に出会ったらどうだろう? 最近感じるのは、想像することが楽しくて、思いが達成されると、気が抜けてしまうのではないかと感じることである。
 人恋しくなるくせに、自分の時間を大切にしたい私は、束縛されることを極端に嫌う。学生時代に付き合った女性は何人かいた。彼女たちといると時間を忘れられて楽しかったのだが、いつの間にか私の前から女性は去っていく。
――どうしてなんだろう――
 何度となく悩んだが、その結論は出ずじまい。出会いは最高で、最初の付き合いも順調なのだ。
「あなたって、無口なところが紳士的で、それが魅力なのよ」
 といってくれた女性がいたが、まさしくその通りだと思っていた。
「いやぁ、そう言われると照れるな」
「その照れるところが母性本能をくすぐるのね。そんな一面を持ったところも、あなたの魅力なのよ」
 徹底的に褒めちぎられていた。そんな時の私は有頂天で、女性が皆、同じような目で私を見つめているような錯覚に陥っていたに違いない。それこそ、私の自惚れである。
 自惚れが悪いことだとは思っていない。それは今でも同じなのだが、自惚れて自分の力が出せたり、自分を把握できることができれば、それも立派な個性である。
――個性を持った人間――
 私がもっとも好きなタイプの人で、自分も常々そうありたいと思っている。それだけに、自惚れを自信に繋げるよう、心掛けている。
 だが、急に私の前からいなくなる女性もいたが、そんな彼女たちが分からなかった。
「あなたが怖くなってきたの」
 といわれたり。
「最近、あなたが違うところを見ているように感じるの」
「違うところ?」
「ええ、違う人という意味ではなく、何もないところをボンヤリと見ているように思えて、気持ち悪いのよ」
 と言われても言っている意味が分からない。しかし、皆私に何らかの気持ち悪さを感じているようだ。
 そんな私を見て、
「面白そうな記事が書けそうな気がする」
 とはどういうことだろう? すでに出会って間がないにも関わらず、私の中に「もう一人の私」を見たのだろうか?
――もう一人の自分――
 一人でいる時にこそ感じることができる。毎日同じようなパターンで生活していても、毎日違うことを考えている。いつも過去を思い出しているからだろうか、その時々で思い出すことも違ってくる。
 そして、私は毎日同じパターンで生活しないと気がすまない方だ。一日の中で何か、満足感か、達成感がなければストレスが溜まってしまう。学生時代であれば、いろいろなことに興味を持っていくことが達成感に繋がったが、今では、毎日の規則的な生活の中にある小さな達成感を満たしてくれれば、それでいいと感じる。冒険心が欠如しているのだろう。
 時々感じる人恋しさは、たまに出かける旅行に似ているのかも知れない。
 人恋しさを感じて、人肌を欲するようになるが、たとえ風俗に行ったとしても、最後に残るのは、虚しさと自分に対する後悔の念だけである。無駄遣いをしてしまったという後悔の念が、自己嫌悪となって襲ってくるのだ。
 人肌を求めない女性関係であっても、学生時代なら発展性を求めて、会話に花を咲かせようといろいろ工夫を凝らすのだが、今では無駄な努力に思えて仕方がない。
――冷めている?
 最後はいつもそう感じる。
 旅行にしてもそうだ。
――どこにいても、結局同じなのだ――
 と思う。
 小学生の頃など、遠足や旅行の前の日など、緊張のため、眠れなかったりしたものだ。ウキウキした気持ちが強く、目的地というよりも、電車の車窓から知らない土地が流れていくのを見つめるのが、一番好きだった。
 だが、旅行から帰る日が近づくにつれて、寂しさが募ってくる。車窓から眺める景色も色褪せて見え、その時の自分の気持ちを表しているようだった。
 歳を重ねるごとに、そこまで気持ちの起伏の激しさは感じなくなった。だが、旅行というのは、私にとっては新鮮で、出かける時の気持ちは、今も昔も楽しいものだ。
 それでも悩みやストレスから逃げ出したくて、旅に出ることもある。今まで感じなかった、
――知らない土地に、何かを探しにいく――
 という思いに満足感を求めようとしているのだ。
 しかし、満足感を求めに行くのではないことを思い知らされるのは帰ってくるである。それが、
――どこにいても、結局同じなのだ――
 と感じさせられるからであって。満足感を求めるというよりも、むしろ、達成感のようなものを探していたように思える。
 満足感と達成感とはどこが違うのだろう?
 何か目的を持ってそれに向って行く時に感じる自分の中の満足感。そして大願成就、実際に達成された時に、文字通りの達成感を感じるのだ。満足感はそのためのプロセスである。
 旅行に出ることで満足感は得られても、達成感は得られない。知らない土地で思い知らされるのは、
――自分は孤独なんだ――
 ということの再認識だけである。
 旅行に出ての醍醐味の一つに人と知り合うことがある。人と知り合って、自分の話をしたり相手の話を聞いたりすることによって、自分を顧みることができる。そこにあるのが、ある意味満足感のようなものではなかろうか。
 今回の旅は違っていた。きっと達成感を求めて出かける旅ではないからだろう。仕事で得られた達成感があるからかも知れない。人間の神経なんて、結構いい加減なものだ。
 本当にのんびりとした旅、こんな気持ちになったのは実に久しぶりなことだ。
――もし、この気持ちで旅に出なかったら、どんな気持ちでいるだろう――
 毎日を自己満足の繰り返しで生きていた。その中にはきっと何かを達成できるという淡い期待のようなものがあって、だからこそ、自己満足でも気持ちが落ち着いていられるのだ。そうでなければ神経質な私のこと、悪い方へ悪い方へと考えが逆行していくことだろう。
 そんな私の思いが達成されれば、きっと悩みを持って旅に出た時の心境になっているに違いない。
 達成できたら、そこから先、今まで見えなかった新しい道が目の前に開け、再度挑戦していけるという保障があればいいのだが、道がなかったらどうだろう? もし戻ろうとして振り向いて道がなかったら……。
 どうしても私はいつも最悪のことを考えてしまうようだ。そんな自分が不思議で仕方がない。
作品名:短編集26(過去作品) 作家名:森本晃次