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自我納得の人生

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 しかし、群れを成している連中よりも、よほど気心は知れているような気がした。暗黙の了解は、気を遣っているのと同じで、言葉に出さないだけ、わざとらしさもない。彼らが一番嫌ったのは、
――わざとらしさ――
 であり、わざとらしさが呼ぶ苛立ちが、人に気を遣っているなどという大きな勘違いであることを腹立たしく感じるところから来ているのだ。
――集団であっても、基本は個人――
 この考え方は、中学高校時代、さらに大学に入っても変わらなかった。
 中学高校時代よりも、大学に入ってからの方が、同じ考えを持っている人が多いことには驚かされた。講義室の一番前に陣取って、講義を聞いていたり、必死にノートを取っている連中はいつも同じだった。
 誠もその中の一人だったが、彼らは実に個性的な連中だったのだ。
――こんな連中と、俺も同じように見られているのかな?
 と思っていたが、どうやら彼らの方からも、誠のことを、
――個性的な男だ――
 と思っていたようだ。
――その他大勢ではいやだ――
 と思っていたが、変わり者と呼ばれるほどではないという自覚があった。しかし、彼らの中にいること自体、変わり者の仲間であったのだ。
 もちろん、まわりの目からも、彼らと一緒にいることで、最初から偏見の目があったに違いない。同じ集団の中にいる人からの方が、余計に、
――この団体の中にいるのだから、どこか変わっていて当然――
 という目で見られていることだろう。実際、誠もこの集団の他の人に対して偏見があったのは認めないわけにはいかない。
 誠は、カメラが好きだった。
 鉄道写真に最初は興味を持ち、今でも趣味として続けているが、基本は鉄道写真であることに変わりはない。ローカル線の写真だったり、復刻した古き良き時代の車両を写真に収めて、コンクールに応募するのが楽しみだったのだ。
 この趣味が確立したのは、大学に入ってからだった。
 集団の中の友達と一緒に旅行に行ったことがあったが、彼が
「ローカル線に乗って、秘境のような温泉に行くのが俺は好きなんだ」
 と言って連れていってくれたのだ。
 その時に、電車の窓から見えた光景に、小さな川の土手から、数人の「カメラ小僧たち」が、ファインダーをこちらに向けていた。
 高校生の頃までであれば、
――なんだ、オタクの集団か――
 と、思ったかも知れない。しかし、その時は自分も個性が好きな集団の中にいるという自覚をもっていたことで、少なくとも彼らと同じ目線になっていたようだ。
――面白そうだな――
 大学生になれば時間はある。アルバイトで稼いだお金で、旅行に行ったりするのもいいが、その時に何か他に目的があると楽しめるというものだ。それがカメラだと思ったのが、その時だったのだ。
 一緒にその時に温泉に行った友達は、絵を描くことが好きだったようで、次回も一緒に温泉に出かけたが、その時は、友達は絵画、誠はカメラと、それぞれに単独行動を取り、夜宿に戻って、温泉に浸かりながら、趣味の話をするというのが、至高の悦びとなっていた。
 彼とは何度か、同じような趣味を楽しむための旅行に行ったが、次第に時間が合わなくなり、一人で行くことが多くなっていた。
 一人でいくのも、乙なものだった。夜、友達と話しをするのもいいのだが、それよりも一人でゆっくりとした時間を使うのが、これほど充実しているとは思いもしなかったからである。
 一日趣味に高じて、夜をゆっくり自分の時間として静かに使う。これ以上の贅沢な時間の使い方はないだろうと思ったのだ。まわりから、
――あいつはオタクだ――
 と言われているのは分かっている。だが、逆にそれは自分にとっての勲章のようなものだと思っている。
 コンクールにも何度か入選したが、カメラで生計を立てていこうという意識は最初からなかった。
 趣味と実益を兼ねてしまうと、本当の楽しみを見失ってしまう可能性があるからだ。
――趣味は実益とは違うから趣味なのだ――
 と、思っていたのである。
 大学時代の成績は、可もなく不可もなくといったところだろうか。勉強をしなかったわけではなかったが、要領はあまりよくなかった。成績が上がらなかったのはそのためで、そういう意味では要領のいい、集団の中にいた連中は自分よりも成績がよく、就職もそれほど困ることもなかったようだ。
 そんな連中を羨ましいとは思わなかったが、何か釈然としなかった。しかし、事実だけを見ていると、
――彼らのような連中が、社会に出ると、役に立つ人間ということになるのかも知れないな――
 カメラを趣味にして、勉強もそれなりにしていたが、役に立つわけではない趣味に高じていた時間を考えれば、社会人としては疑問であった。
 それでも、誠はいいと思っていた。
――いい会社に入って、出生して、それが一体なんぼのモノだというのだろう?
 と思っていたからだ。
 出世を望むような性格ではないのは、最初から分かっていた。会社で出世すれば、それだけ責任も重たくなり、一回の失敗が命取りになる。それよりも、適当に人生を歩んでいて、その中にカメラという趣味を持っていれば。絶えず前を向いていけると思ったからだった。
 大学を卒業し、最初の年の夏休み、誠は今までのように、カメラを持って旅行に出かけた。
 ローカル線を撮りたいと思って出かけたのだが、その時に出かけたところは、以前にも行ったところであり、近くに温泉もあったので、気に入っているところであった。
 大学時代と違った目で見ることができるのではないかと思い、もう一度行ってみたいところを選んだのだが、そこは、海岸線を通るエリアのローカル線だった。
 いまだにディーゼルが走っていて、駅数からしても、二十個ほどの中規模な線だった。海岸線の後ろからは山もせり出していて、山あり海ありの景色としては結構充実しているところであった。
 誠は、終点にある温泉旅館に宿を取った。
 ここは意外とカメラ小僧があまり来るところではないようで、前の時も誰とも会わなかったが、今回も宿泊客はほとんどいないということだった。
「この近くに崖のようなところがあって、時々そこで自殺する人がいるので、あまりこのあたりに人が来るというのも珍しいんですよ。一人のお客さんだったら、自殺者じゃないかって。こちらも警戒したりしますからね」
「じゃあ、僕が前に一人で来た時も、警戒しました?」
「少しだけですね。でも学生さんで、しかもカメラをお持ちだったので、その心配はないかと思いました。自殺する人はたいていの人が見の回りを整理して、荷物なんてほとんどないっていうじゃないですか」
 ここの宿では、前に泊まった時にも宿の人と話をしている。今回予約を取った時も、覚えていてくれたようで、すぐに分かってくれたようだ。
「でも、どうして前にここに来た時に、ここの近くで自殺が多いという話をしてくれなかったんですか?」
「お客さんが自分の世界に入っておられるようだったので、あまり不気味なお話はしてはいけないと思いましてね。それで控えていたんですよ」
 どうやら、宿の人にはお見通しだったようである。
作品名:自我納得の人生 作家名:森本晃次