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自我納得の人生

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 女性になりたいという思いがあるからと言って、実際の誠は、どう見ても女性になれるタイプではない。男としても綺麗とは言い難い、ましてや女性になれるような造りにはなっていない。
 それなのに、どうして母は誠に姉を見たというのだろう?
 性格も女性っぽいわけではないと思うのだが。しいて言えば、いつも兄の後ろについていたというくらいであろうか。
 誠もどうしていつも兄の後ろについていたか、自分でも分からない。そうしたいという意志がハッキリしているわけではないし、兄の後ろを追いかけていて、何かを得たいという気持ちもなかった。
 ただ、兄の後ろにいると安心できるということだけだっただろう。
 その思いが女性特有のものだったのかも知れない。
 兄にとって、誠を見る目が、たまに普段と違うことがあるのを感じたことがある。すぐに我に返った兄が、
「俺は今何をしていたんだ?」
 と言って頭を傾げていた。そんな兄を見て、キョトンとしていた誠に対して、兄はさらに見つめなおす。そんなことが何度か繰り返されてやっと、二人は我に返るのだった。
 兄にとっても、誠への思いはあるようで、
――あれは、僕の中に姉を見たからだろうか?
 それは違っていた。
 兄は、その時は思わっていなかったが、あの時に見ていたのは母親だったのだ。
 誠が、見たことのない姉に思いを馳せていた時、兄は、母に対して女性を感じていた。そのことを悩んでいたようだ。
 母親を意識するのは男の子なら当たり前のことだろうが、兄の場合は少し違っていた。恋心に近いものがあった。ただ、相手が母親だということで、悩んでいたのだろう。
 母親は、兄を避けていた。それはまるで自分が本当の母親ではないかのような態度だった。誠はその時のことを思い出すと、不思議な感じを受けたのだが、今から思えば、まんざらウソでもないような気がした。
 母親は、誠と兄が一緒にいるのを、あまりいい気持ちで見ているわけではないようだった。
 露骨とまではいかなかったが、明らかに兄よりも誠の方ばかりを意識している。父親もそのことを知っているようだったが、たまの母に意見していたようだが、説教じみたことまでは話していない。
 母親にとって、誠と兄の関係をどう整理していいのかを父親も考えあぐねていたが、その理由を知っていたかどうか、分からない。
 まさか、今になってそんなことを聞けるはずもない。きっと二人の中では、すでに過去のことになっているのだろう。わだかまりもなく、ここまで来たのだから、今さら波風を立てることはない。誠はそう思っていた。
 兄のことは、父親もあまり気にしていないようだった。そういう意味では家族で一番浮いていたのは兄だった。
――一体、僕の家族にはどんな秘密があるというのだろう?
 と考えていると、いろいろおかしな妄想や夢を見てしまう自分の意識の原点が、家族のことにあるということがハッキリとしてくるのだった。
 兄と父は何か確執があるというわけではなかった。父は何も言わないし、兄も父に対して無反応だ。
――まるで、親子じゃないみたいだ――
 男親と長男は、どうしてもぶつかるところがあるのかも知れない。父親は期待しているし、子供は、期待されることで、煩わしさを感じることもあるだろう。だが、子供の頃から見ていたが、兄に対して期待している雰囲気が父からは見られない。兄も父から重圧を受けているというわけではない。不思議な親子関係に見えた。
 誠も父親とあまり話をするわけではないので、父親の気持ちがどこにあるのか分からない。
 父親の帰宅が、いつも深夜になる時期があったが、母は父が帰ってくるまで、起きていたことはなかった。父が帰ってくる時は、いつも忍び足。家族に気を遣っているのだと思っていたが、ある日、深夜の台所で、父と母が喧嘩になっているのを見たことがあった。
 声は押し殺していたので、自分の部屋にいれば聞こえなかっただろう。だが、ちょうどトイレに部屋を出た時、聞こえてきたヒソヒソ声に、誠は嫌な思いを感じながら聞き耳を立てていた。
 母が父を詰っているようだったが、父は無視していた。それでも、今度は父が二言三言何かを言うと、母も黙り込んでしまった。最初の一言で完全にひるんでしまった母に、それ以上の言葉はダメ押しに近かった。
 それから二人の声は聞こえなかったが、重苦しい雰囲気が、台所に漂っているのは、想像できた。一体何を言ったのかハッキリとは分からなかったが、口に出した父も、本当はこんなことは言いたくなかったのかも知れない。それでも言ってしまったことで、さらに母に対して、
「俺にこんなことまで言わせやがって」
 と言いたかったに違いない。
 父と母の確執はハッキリとその時に分かった。
――父も母も相手を憎んでいるんだ――
 離婚にでもなりはしないかと心配になったが、今のところ離婚の危機ということはない。お互いに気を遣っているからだというよりも、そこには張りつめた緊張感とともに、牽制し合っている二人が重苦しいだけにしか見えてこなかったのだ。

                   ◇

 いろいろな妄想が誠の頭に浮かぶ。兄の背中を見ていた子供の頃に、
――似てはいるって言われるけど、何を考えているか分からないところがあるな――
 兄を見ていて、そんな風に感じたことがあった。兄はそんな弟の視線には気付いていないだろう。
 元々兄は、まわりをあまり考える子供ではなかった。
――我が道を行く――
 というところがあり、誠は子供心にそんな兄の性格に密かに惹かれていたのだ。
 それが、中学に入ると逆転した。
 兄はまわりを気にするようになった。モテていたり、まわりから慕われる立場になったから仕方がないのだろうが、誠はその点、まわりから気にもされないので、楽ではあった。
 誠は、本人も気づかなかったが、子供の頃を思い出すと、結構人に染まりやすい性格だった。
 今であれば、嫌な性格である。人とあまり関わりたくないと思っているので、人に染まるなど考えられない。しかも、気付かなかったとはいえ、子供の頃、染まりやすかったなど、考えたくもないことなのだ。
 いや、気付かなかったことが自分で許せない。
――どうして気付かなかったんだろう?
 ただ、もし、気付いていたとして、子供の自分に何ができたであろう? 何かに反発するにしても、その対象が見つからない。
 少年時代の頃は、大学生の頃くらいまではあまり思い出すこともなかったし、思い出すこともないだろうと思っていた。それは、自分が人に染まりやすい性格だと気が付いたからである。
 しかし、今は結構思い出すことが多い。思い出したからといって、懐かしさに浸るわけではないが、嫌な思いをすることもなくなった。
 思い出すことといえば、いつも兄の背中を見ながら後ろにくっついていたということだけである。他のことを思い出すことはほどんどない。
 特に家族のことはあまり思い出さない。思い出したとしても、母のことで、父のことを思い出すことはない。
 いつも遅く帰っていた父、顔さえおぼろげだ。
 それでも兄が大学生の頃、
作品名:自我納得の人生 作家名:森本晃次