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自我納得の人生

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 彼女は幼馴染という言葉で、片づけられる相手であった。中学までは一緒だったが、高校に入ると、違う学校に通うことになり、連絡も取り合うことはなかった。
 ただ、中学になる頃には、彼女はすっかり大人っぽくなっていて、クラスでも人気があった。
 もし、彼女が今までのように、冴えない女の子だったら、付き合っていたかも知れないと、誠は感じていた。
――皆からちやほやされて、いい気なもんだ――
 と、勝手に彼女が舞い上がっていると勘違いしたのだ。
 なぜなら、中学に入ってから彼女は誠のそばに近づくことがなくなった。それを、
――ちやほやされて、いい気になっている――
 と思い込んだのだが、実際は彼女はあまりにも小学生時代との違いに悩んでいたようだ。
 彼女は聡明で冷静な性格だった。
 まわりが外見だけを見てちやほやしていること、内面を見ようとしないことは分かっていたからだ。
 中学時代の成長期の男の子であれば、それも仕方がないことなのかも知れない。
「私だって、普通の女の子よ。アイドルに憧れたり、ミーハーなところはあるわ」
 と言っていたのを思い出すこともあった。それは、自分が、
「ちやほやされて、いい気になっているわけではなく、これでも悩んでいるのよ」
 と言いたいことを、必死に隠しながら、誠に気持ちを訴えていたことだった。
 彼女の気持ちを半分は分かっていたが、それを認めたくない自分もいた。誠自身も自分の中で納得できないことを抱えて悩んでいたのだ。
 誠が、兄の彼女との妄想の中で、ふいに中学時代の幼馴染の顔を思い浮かべることがあった。
――あのまま成長していれば、こんなに大人っぽくなって、妖艶になっているんだろうな――
 その思いは同時に、
――今ここで妄想している瞬間にも、彼女は他の男と同じようなことをしているのではないだろうか?
 と思わせ、その苛立ちを、妄想の中での兄の彼女にぶつけようとしている自分を感じるのだった。
 ぶつけたとしても、どうなるものでもない。元々が妄想なのだから、想定外のことはありえない。そう思うと、妄想の世界から、逃げ出したいと思うようになってくる。
 自分が作り出した妄想なのに、逃げ出したいと思った瞬間から、自分の妄想ではなくなっているようだ。想定していないことが微妙に感じられるようになり、どうしていいか分からなくなる。
 妄想から逃れるには、何かのキーワードが必要なのだということは分かっていた。今までにも何度も妄想しているから、次第に分かってきた。ただ、それは自分が、
――妄想をコントロールできるようになるのではないか――
 ということではない。
 妄想の暴走を避けることができるようになっただけのことである。
――妄想が暴走すればどうなるのだろう?
 妄想というのは、暴走するものである。
 想定外の世界に入り込んだら、自分ではどうすることもできないが、自分の考えが、妄想を膨らませることになるのだ。
――余計なことを感じてはいけない――
 妄想を続ければ続けるほど、余計なことを考えてしまう。
 想定内の時であれば、それを抑えることができるのだが、想定から外れてしまうと、抑えることは不可能だ。
――まるで因果応報だ――
 と、諦めの境地に至った時、妄想から逃れることができる。
 しかし、それも自然と感じないといけない。自分の中で納得のいく形での因果応報でなければ、妄想は暴走してしまう。それは、妄想が元々自分の想像から来ているからのことであった。
 誠は自分の中で、何をどう整理すればいいのか分からない。
 元々、整理整頓の苦手な誠である。
 自分の好きなことには一生懸命になるが、少しでも興味のないことには、これ以上淡白なことはない。整理整頓という言葉とは無縁になってしまうのだ。
 自分の部屋でも、カメラに関することは丁寧に、几帳面に並べられているのだが、それ以外のものは、適当に放り出されているのが現状だった。
 それを誠は、
――自分の中にある二重人格性のせいだ――
 と思っていた。
 二重人格というべきか、裏表の性格というべきか分かりにくいところだが、厳密には裏表の性格に近いのだろうと思っていた。
 表裏一体という言葉があるが、考え方の中で、
――長所と短所は背中合わせ――
 というのがあった。
 背中合わせでありながら、そこには紙一重の考えが存在する。そのことを誠は自覚するようになって、
――裏表のある性格は、二重人格の中にあると思っていたが、本当は逆も存在し、二重人格は、裏表のある性格の中に隠されている人もいるのではないか――
 と思うようになった。
 それが自分ではないかと思うようになると、その考えが、確信に変わってくるのを感じるのだった。

                   ◇

 誠は、洞窟の中で見かけた女を飛び越えたつもりで、そのまま断崖絶壁から落ちてしまった。その先にあったのは、兄の彼女とラブホテルの中だったというところまでは意識があるのだが、そこから先が曖昧だった。
 気が付けば、自分の家の蒲団で寝ていたのだが、目が覚めた瞬間、
――本当にここは、自分の部屋なのだろうか?
 という不安に駆られた。
 何を信じていいのか分からないとう思いと、自分がどこにいるのかが分からない感覚で、同じ感覚を、吊り橋の上でも感じたことを思い出していた。
 目が覚めてから感じることは、すべて、断崖絶壁や洞窟内で起こったことのどこかに結び付けてしまおうという考えがあった。
 何か納得がいかないことがあったら、基本的には信じない誠であったが、ここまでいろいろ夢や妄想で見てしまうと、信じないわけにはいかない。
 では、一体どのように納得させるというのだろう? やはり、すべてを夢や妄想であったと信じ込ませるしかない。そのためには、どこに夢の中にまで侵入してくるほどのインパクトがあり、それが自分に関わってくるかを自分なりに証明しないといけないだろう。超常現象を信じていないわけではないが、すべてが他人事であり、まさか自分に降りかかってくるなど、考えたこともなかった。安心しきっていたと言ってもいいだろう。
 本を読んだり、テレビで見たことが夢の中に出てくることもあったが、今回は違っていた。それでは、何か自分でも意識していないところで、怖いイメージが残っていたということになるというのだろうか。もし、そうであるならば、忘れてしまったというわけではなく、
――恐ろしいことは思い出せるような場所にとどめておきたくない――
 という意識が働いて、記憶の奥に封印されてしまっていたのかも知れない。
 思い出したくない記憶を格納する場所があり、そこには他にもいくつもの思い出したくない記憶が入っている。
 ただ、その記憶容量には限界があり、一旦満載になると、どれか一つが弾き出されることになり、それが一番古い記憶だとすれば……。
 核心をついた考えではあるが、その時の誠には、それを理解できるだけの落ち着いた精神状態ではなかった。
 ただ、このことを理解できるようになるには、落ち着いた精神状態だけではダメである。「落ち着いた」精神状態と、「冷静な」精神状態では少し趣きが違っているようだ。
作品名:自我納得の人生 作家名:森本晃次