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　女と付き合うことが、想像力をともなうことは前から分かっていた。女性と付き合うということを知らなかった時、それがどんなものであるか、いろいろと想像で頭の中が膨らんでいた。
　相手の女性のニコヤカな顔、ラフな服装でお互いに組んだ腕に暖かさを感じている。歩きながら爽やかな風を感じ、まわりがすべて明るく感じられる。それが恋愛だと思っていた。
　恋愛に疎いと言われていた貝塚だったが、想像力だけは人一倍。恋愛ドラマなどをあまり見ることがなかったので、ドロドロした部分を感じることもない。それが貝塚の今までの恋愛感である。
　貝塚にとって、新宮との出会いはそんな今までの気持ちを覆すものだった。しかも、それは自分というものを顧みるために必要なステップだということに気付いたのは、かなり後になってのことだった。
　奈々との付き合いを思い出すことができないのはなぜだろう？
　朱美との楽しかった日々は思い出すことができる。しかし、別れに際しての細かいところを思い出すことはできないでいた。やはり別れに際して気持ちが麻痺してしまっていて、まるで他人事のように思えるからだろう。奈々との別れにそれほど感じなかった辛さを、朱美との別れでハッキリと感じている。
　何が辛いというのだろう？　罵声を浴びせられたこと？　それとも想像していた女性とかなりの開きがあったこと？　それとも、別れることによって、楽しいことを想像することができなくなるからであろうか。
　朱美と別れた貝塚に新たなトラウマが生まれたのはいうまでもないが、それがどんなトラウマであるか、漠然とでも思い浮かぶものではない。ただ、感情が極度に薄く、女性に対しての考え方が代わってしまったことは間違いないようだ。
――女性なんて、所詮身体の作りが違うんだ。お互いに求めたい時に求めれば、それでいいんだ――
　と思うようになっていた。相手の気持ちばかり考えていても、本当に考えていないのかも知れない。押し付けのように思われるのがオチで、結局、お互いに溝のようなものを感じるだけだろう。
　貝塚はそう考えるようになっていた。冷めた考えではあるが、ある意味潔い考えでもある。それを新宮は、
「一皮剥けたな」
　という表現をした。
「俺も最初は君と同じような感じだったんだが、何度も女に裏切られるたびに、割り切って付き合うことの楽しさを知ったんだよ」
　という。裏切られたという表現は貝塚には当て嵌まらない。最初から軽い付き合いしか望んでいなかった朱美に対し、勝手に深い関係を望んでいただけなのだから。
　新宮の紹介で数人の女性と付き合うようになる。軽い付き合いを前提とする女性ばかりで、もちろん、それぞれ複数に付き合っている人がいることを承知の上でである。
――本当にこんな付き合い方していいのだろうか――
　心の中で葛藤がないわけではない。しかし、それ以上にトラウマが残ってしまった貝塚に若い身体を抑えることはできない。さすがに思春期のようなわけには行かないが、それでもまだあまり女性を知らない身体は好奇心とともに、激しく反応してしまうこともあるのだ。
　ほとんど毎日のように誰かとデートしていた。誰も浪費型の女性がいなかったことは幸いだった。もしいろいろお金を使わせる女性がいたら、こんな関係はすぐに破綻していたに違いないからだ。果たしてこれが幸いだったいえるかどうかは、その時の貝塚にはわからなかった。
　食事をして、腕を組みながら艶やかなホテル街のネオンの中に消えていく二人、そのうちの一人が自分であることを貝塚は意識していた。プレイボーイにでもなったかのような刺激をけたたましいネオンが与えてくれる。淫蕩な気持ちに誘うためのネオンサイン、十分貝塚には効いている。
　ベッドの中でのそれぞれの女性は、皆違うリアクションを示してくれる。しかし、それでも何か共通点があるようで、奈々や朱美に感じたのと違う雰囲気を味合わせてくれた。きっと自分の中の気持ちが奈々は朱美の時とは違うからだろう。あくまでも快感を貪るというための時間、そう割り切っているからこそ湧いてくる情というのもあるのかも知れない。
　貝塚はそれを今思い知っているようだ。
　それぞれの女性を初めて抱いた時のことを思い出している。貪る身体の奥から香ってくる色香はそれぞれの女性で違うはずなのに、何か気持ちの上で懐かしさを感じていた。
――甘い蜜の誘惑――
　などというラブロマンスのような言葉が頭をよぎる。指で押せば弾き返してくるような豊満な肉体でも、それぞれに違いが分かるまで、今までであれば数回愛し合わないと分からなかっただろう。しかし、その時付き合っていた複数の女性たちとは、最初の時にすでにそれぞれの身体の違いや、感じる部分を的確に分かっていたように思える。それだけに、女性たちも貝塚から離れようとしない。
「素敵よ。あなたと初めて会ったような気がしないわ」
　皆同じようなことをいう。
「僕も同じさ、この懐かしさはどこから来るんだろう？」
「嬉しいわ、きっと以前から私たちは知り合う運命だったのね」
「そうかも知れないね」
　割り切って付き合っているつもりでも、この時だけは、気持ちが昂ぶっている。同じ思いを抱いていると思えば、それだけ相手を感じることができるからだ。それが貝塚にとっての心の余裕に繋がってくるのだから、何とも皮肉なことだろう。
　今までに感じたこともなかった余裕、それが軽い付き合いで抱き合っている女たちからもたらされるのも、何かの運命かも知れない。トラウマなどしばし忘れて、至福の喜びを身体中で感じている貝塚だった。
　懐かしさがどこから来るのか、今でも分かっていない。だが、そこに快感以外のものが存在したことから、それぞれに長続きしたように思う。本当であれば数回付き合っただけできっと虚しくなって自然消滅のような形になっても不思議はないと思っていた。
　しかし、ある程度の時期になると急に虚しさを感じてきた。虚しさというよりも、自分という存在が薄っぺらいものであって、数人の相手をするのに疲れたのかも知れない。
　ある日、パソコンでのチャットに夢中になった。ツーショットでのチャットもあるようで、そこで仲良くなった女性もいる。複数の女性と仲良く話をしていても、そこに罪悪感はない。薄っぺらい自分にこそ相応しいと言えるのではないだろうか。
　それまでパソコンを扱うことはあまりなかった。会社の仕事で使うことはあっても、遊びで使うことはない。もっぱら資料作成と数字の整理、個人で所有しているわけでもないし、会社以外でモニターを見ようとも思わなかった。
　何がきっかけだったのかというと、これも皮肉なことで、付き合っていた中の一人に麗華という女性がいた。名前も本名かどうか分からない。苗字を教えてくれなかったし、新宮から聞いていた話で、風俗関係に勤めていることは聞いていた。しかも、自らそのことを隠そうともせず、
「ごめんね、だから苗字は教えられないの。麗華とだけ覚えていてね」
　甘い声で囁いていた。
　付き合いが軽いなら軽いで、こちらも望むところだ。数人の女性と一度に付き合うのだ、重々しいのはかなわない。