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短編集25(過去作品)

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 と言っていたが、しばらくするとそんな奈々子も普通に恋に悩むようになったのだ。
――きっと何かあれば急に性格が変わったりするかも知れない――
 その予感が的中した。詳しいことは分からないが男女関係で、ひどく落ち込んでしまった時期があった。悩みをあからさまにするだけでなく、気持ちが態度や顔色に出てしまう奈々子の落ち込み方は、傍から見ていてまともに凝視できるものではなかった。
 いつからお互いが交錯したのだろう。今では完全に性格が入れ替わってしまったようだ。お互いに意識することもなく、一瞬どこか一点を掠めるようにして変わってしまったのだろう。そのことを時々考えてしまう智美だった。
――もしその時に、奈々子のことを意識していたら、どうだっただろう?
 まるで鏡を見ているような心境になったかも知れない。
 一度奈々子に言われたことがあった。それはかなり前のことだった。
「私が男だったら、あなたを愛したかも知れないわね」
 性格が交錯する前のことで、そんな発想すら信じられないことだった。それを奈々子が口にするなんて、思わず自分の耳を疑ったくらいだ。あまりにも目を見開いて智美が見返したので、それ以上奈々子も口にすることはなかったが、その言葉だけは智美の中に大きく残ってしまった。
 女同士の愛が存在することくらい、もう処女ではなかった智美にも分かっていた。恋愛小説を読んだりすると出てくるもので、異常な世界だという認識しかなかった。淫蕩で、性欲という言葉から逸脱した世界、そういうイメージでしかない。
――汚らしい――
 そうは思っても、想像すると汚らしいイメージが出てこない。それが何とも気がかりだった。
 元々自分に淫蕩な気持ちが潜在していることはこの頃からウスウス感づいていた。それだけになるべく異常性欲のことを考えたくなく、考えてしまうと普段から余計な想像が頭から離れなくなることを危惧していた。
 奈々子の口から出てきた言葉、どう考えても本気だったように思えて仕方がない。今でこそ従順な女性になってしまったが、ここまで変わるにはきっと何かがあったのだろう。気を張って生きていく限界のようなものを感じたのか、それとも自分には似合わないと思ったのか。ひょっとして楽な生き方を見つけたのかも知れない。最後の発想が一番奈々子っぽい気がする。どこかいつも計算高い奈々子らしいではないか。
 かといって当時の智美は楽な生き方をしていたわけではない。まだ何も知らないウブで子供だったのだ。奈々子を見ていて、
――大人なんだ――
 と尊敬もしていたが、それよりも何となく無理をしているように見えるところが気に掛かっていた。彼女には元々大人の女というイメージに無理があったのだろう。
 可愛らしくて少し小悪魔っぽいところが一番似合っているように思う。それは女性の目から見てもそんな風に見えるようになったからであろう。嫉妬心が彼女に対して湧きにくくなる。いわゆる役得なところがある。普通そういう女性が一人いれば、まわりから嫉妬心を煽る結果になるが、奈々子に関してはそこまではない。なぜなのだろう?
 沖田と奈々子が知り合ったのは、必然であった。まわりから見ても違和感のないカップルだった。ただ、
「性格的に似すぎているとことがあるのでは?」
 と見られているようだが、見ているとそうでもない。表から見るとリードしているのは沖田に見えるが、最終的な決定権は奈々子が握っている。奈々子は男を立てることができる「三くだり半」の女性なのだ。
 別れのきっかけについては他の人は誰も知らないはずだ。二人が付き合い始めた頃のことを知っているのも智美だけだし、どんな雰囲気の付き合いだったかを中まで知っているのも智美だけだった。
 奈々子から時々相談も受けていた。男心についての話が多かったが、もうすでに男を同時に二人愛するようになっていた智美は、奈々子に対して的確なアドバイスができたかなど、疑問点が多い。
「助かったわ。智美に相談すれば何でも答えてくれそうで頼もしいわ」
「そんなことないわ。でもあまり本気にしないでね。最後の決断をするのはあなたなんだからね」
 と念を押しておいた。
 しかし、奈々子の相談ごとというのは、意外と他愛もないようなことが多く、釘を刺すほどのこともない。
――どうしてこんなことを相談してくるのだろう?
 と思えるほど的外れなことも多かった。まるで智美の気持ちを確かめているようだ。
 当たらずとも遠からじだろう。嫉妬深いところが最近見えてきた奈々子にすれば、いくら友達でも身近にいる智美の存在は、意識しないわけにはいかないに違いない。それだけにけん制の意味を込めて相談しているようだ。
 悪い気はしない。しかし、そうやって意識されると、こちらも気になるもので、今までほとんど意識したことのない沖田を男性として意識してしまいそうになる。奈々子の行動は、「ヤブヘビ」というものだ。
「沖田をいずれ……」
 そう考えたことがあったとすれば、奈々子の相談事が智美の心に火をつける結果になったからかも知れない。
 奈々子にとっての智美はどんな存在なのだろう?
 智美はいつも奈々子から頼りにされている。奈々子も智美の男性遍歴については知っているつもりだ。それをとやかく言うこともなく、ただ、
――自分にはできることではない――
 と思っていた。しかし、何か男性のことで悩みにぶつかればいつも相談することにしている。一つの意見として聞くのであれば何の問題もないし、自分の考えもつかないことを助言してくれると考えている。実際に何度も思いもつかぬアドバイスを受けて、納得したこともある。行動に移すかどうかはその時の考えで臨機応変になる。
――目からうろこ――
 という言葉があるが、まさしくその通りだ。
「どうしてあなたは一度に二人の男性を愛せるの?」
 野暮だと思ったが一度だけ聞いたことがある。その時もアルコールが入っていたが、それほど飲んでいなかったので、記憶を失うというほどでもない。
「だって、一人の人だけを好きになると自分が苦しいんですもの」
 という返事だった。
「ごもっとも……」
 奈々子はそう答えるしかなかった。だが何となく納得できるのは、きっと以前今の智美と同じような考えだったからだろう。
「でも、あんまり気持ちを張ると、きついのは自分なのよ」
 と言いたかったが、その言葉をグッと堪えて飲み込んだ。
 きっと智美も思い知る時が来るだろうと思うのだが、そんな時、自分を大人だと思う奈々子だった。
 だが、沖田に関しては奈々子の執着は凄まじいものがあった。今までの男性に対して、
――くっつきすぎず離れすぎず――
 という適当な距離を保ってきたのに、いつどこで近づいてしまったのだろう。
 智美は自分をいつも二重人格だと思っている。いや多重人格かも知れない。そうでなければ一度に複数の人と付き合えるわけもない。そういう意味で二股を掛ける相手の性格はいつも違っている。同じだと頭が交錯してしまうからだ。
 そんな中でも今まで付き合ってきた男性と沖田は明らかに違っている。
作品名:短編集25(過去作品) 作家名:森本晃次