短編集23(過去作品)
自分の中で封印しなければならなかったのは、自分が見てしまったことで、その娘が辱めを受けただけに留まらず、二度と私たちの前に姿を現さないと分かったからだ。
――彼女の生きている最後の姿を見たのは、この私――
この思いがトラウマとなって、さらに自らの中に永遠に封印してしまったのだ。
その時だったかも知れない。初めてマナーを守らない人を気にし始めたのは……。
普段は落ち着きがあり、話しやすいのだが、急にどこかで私が分からなくなると言った女性がいた。
「あなたは時々違うあなたになるみたい。とても怖いのよ」
言い方に違いこそあれ、泰代から何度も似たようなことを言われてきた。最初はマナーを守らない人に対して厳しい眼差しを送る自分に対して感じていることだろうと思っていたが、それだけではないのだ。
本を今まで読み切ったことがなかった。どちらかというと、同じところをずっと読み続けている感覚があった。いつも誰かの視線を感じていたような気がしていた。ひょっとして今の自分は本の世界に入り込んでしまった自分なのかも知れない……。
( 完 )
作品名:短編集23(過去作品) 作家名:森本晃次