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二度目に目覚める時

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 潜在意識は、自分の中の常識には勝てないのだ。
 潜在意識の自分は、
――もう一人の自分の存在――
 を否定している。夢を見ていると、時々もう一人の自分が出てきて、恐怖に駆られている自分を想像していたが、夢の中に出てきた自分は、架空に作り出した自分であり、もう一人の自分ではない。恐怖に駆られる必要はないのだ。
 では、架空の存在なので、抹殺してもいいのだろうか?
 この思いが、
「死ぬしかない」
 という悪魔の囁きを呼んだと言っても過言ではない。
「夢の中で死ぬのは、このことを発想している自分ではなく、もう一人の自分なのだ」
 誰に言い聞かせるというのか、悪魔の囁きを聞いた自分が、その日一日を抜けられない理由が、実はこの時の堂々巡りを繰り返す考えにあるのだということを、分かるはずもなかった。
――同じ日を繰り返すくらいなら、死んだ方がマシだ――
 という考えにいずれは行き当たるというのだろうか?
 今はまだ、同じ日を繰り返すと言っても、二、三日なので、抜けられないという意識はない。それなのに、生きていたくないという思いがいつの間にか自分の中に忍び寄ってくるのを感じると、
――終わらせなければいけないものが、他にもあるのではないだろうか?
 と思うようになっていた。
 読んでいた本で、自殺菌の話があったのを思い出した。
 あの話は現世を霊となって彷徨うのか、それとも、記憶や意識をリセットされたまま、この世に戻ってくるのかのどちらかだった。それは、自殺を自分が考えたわけではなく、病原菌にやられたというものだった。その話は自殺菌のパターンの話しか書かれていなかったが、本当に自殺したのであれば、一体、どのような運命が待っているというのだろう?
 自殺というものは、自分が考えている以上に、ジャッジが厳しいものなのかも知れない。病原菌にやられたというだけで、記憶や意識を排除した形での「生き直し」なのだ。もし自殺したのであれば、今度は正反対に、
――事実であることは、いかなることであっても、すべて自分に返ってくる――
 というものであれば、どうなのだろう?
 妥協は一切許されない。情け容赦のないジャッジは、「生き直す」わけではなく、一度は止めてしまった人生を、これ以上ないというほど正面からぶつけてくるのである。これは完全に、「生き地獄」と言えるのではないだろうか。
 今まで昇は自殺を真剣に考えたことはなかった。そこまでの勇気がないというのが一番の理由だが、もっと言えば、そこまで追い詰められたことがないとも言えるだろう。
 だが、世の中には、追いつめられたわけでもないのに、
「死んでしまいたい」
 と考えて、簡単に死んでしまう人もいるという。今までは、そんな人のことを、自分には関係のない他人事のように感じていた。実際に、今でも他人事のように思っているのだが、
――やっぱり、自殺菌によるものなんだろうか?
 と思えてならない。
 現実に、事故に遭ったりした人が、そのまま記憶喪失になるという話を聞いたことがあったが、今から思えば、それは、自殺菌によるものではないかと感じるようになった。本人は記憶がないのだから、その時のことを、
「君は事故に遭ったんだ」
 と、言われれば、そう思いこんでしまっても無理のないことであろう。
 そういう意味でいけば、事故に遭って死ななかった人で、記憶喪失になった人というのは、自殺菌に侵された気の毒な人だと言えなくもないが、ただ、自殺菌に狙われるだけの何かがその人に備わっていたに違いない。
――記憶を失ったその人の中に、まだ自殺菌は潜んでいるのだろうか?
 昇は、潜んでいると思っている。
 ひょっとすると、自殺菌の目的は、自分が寄生した人の記憶を失わせることにあるのではないかと思うのは、少し飛躍しすぎだろうか?
 失った記憶を自殺菌が、自分が生きるための「栄養」にしていると考えると、寄生する理由も分からなくもない。だが、自殺菌の本当の目的が、
――寄生した人の記憶を栄養としている――
 というだけでは、少し信憑性に欠ける気がする。昇自身が納得できる答えではないからだ。
 昇は、自分が同じ日を繰り返していると感じた時、まず最初に「死」というものを思い浮かべることがなかった。しかし、今自殺菌の話を本で読んで、自殺菌の存在を、まんざらでもないと思い始めたことから、
――同じ日の繰り返しを打破するには、死を選ぶしかない――
 という結論に達する自分を思い描いていた。
 中学の頃、ライバルにシナリオを先を越され、嫌気が差して演劇部を止めてしまった時のことを思い出していた。
 あの時にも確か、同じ日を繰り返しているような気持ちになったのではなかったか。いや、その発想があったからこそ、自分の中でシナリオが形作られていた矢先、ライバルに先を越された。
――俺の発想が先に完成していれば――
 という思いは、口惜しさから惨めさに移行していた。
――もし、こんな発想を表に出したら、笑われるだけだ――
 ライバルに先を越されたことを知ってすぐに感じたことだった。
 それは言い訳でしかなかったのに、言い訳をしなければならないほど、その時の自分の気持ちが情けなさに包まれていたことを、その時は知っていたはずなのに、惨めさがいつの間にか、
――自分は正しいんだ――
 という妄想に駆られる結果になっていた。
 それは、
――自分の発案があまりにも難しいことであり、自分の発想ごときが追いつけるはずがない――
 という思いを抱かせていたのだ。
 昇は、自分の中にもう一人誰かがいるような気がしていた。それを、
――もう一人の自分だ――
 と思うことで、時々、気が付けば夢の中にいるのだと思っていた。もう一人の自分の存在は、自分の夢の中にしか存在せず、夢を見ている自分でも、本当に感じることがレアであるということに気付くまで、結構な時間が掛かるようだ。
 今回は、確かに自分は夢の中にいる。夢の中で同じ日を何度も繰り返していると感じていたことを、
――恐ろしい夢だ――
 と感じると、その先には夢だということで片づけられないものを見ることができるような気がしていた。
 自分の中にいる誰かというのは、もうこの世にはいない人だという発想が脳裏にあった。その人は、自殺菌の力によって、自分を葬ってしまった。そのせいで、現世に留まらなければならず、
――霊となって、この世を彷徨っている――
 あるいは、
――自分の中の意識と記憶を抹消し、「生き直している」という存在になっている――
 という二つのうちのどちらかが、自分の中にいるのだ。
 昇は、後者だと思っている。
 生き直しているという感覚がどのようなものなのか、ハッキリと分からないが、彼は記憶も意識もないのに、表に出ようという意志だけはあるようだ。
――一瞬、俺ではない意識が、頭の中に存在しているのを感じる――
 その男が表に出ようと、昇の意識を刺激しているのだ。
――どうして俺なんだ?
 昇は、自分の中に誰かがいるという違和感よりも、なぜ自分の中にその男がいるのかの方が不思議だった。
――何か目標も定めずに、猪突猛進で飛び出した先にいたのが、俺だった――
作品名:二度目に目覚める時 作家名:森本晃次