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二度目に目覚める時

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 などというオチだったりするのか?
 ただ、どこかに運命的なものを感じる。運命といえば、綾と出会ったことを運命と思いたいと最初に思った気持ちが次第に萎えてくるのを感じると、自分の想像が妄想になって留まるところを知らない状態になってくるのを感じていた。
――綾を見ていると、その後ろに誰か違う人を見ているような気がして仕方がない――
 と感じていたが、その時、自分が違う人間になっているのではないかということに、まだその時はウスウスでしかないが、やっと気が付き始めた頃だったのだ……。

                 第二章 同じ日を繰り返す

 バーに連れていってもらったことを、普段であれば忘れっぽいはずの昇は忘れるような気がしなかった。特に女性に連れて行かれ、ペースを完全に相手に握られた状態であったのだから、一緒にいる時は、有頂天になっていたはずである。
 有頂天になっていると、宙に浮いたかのような気持ちになって、完全に自分のペースではなかったはずだ。そんな時の心地よさは、もちろん夢心地であったはず。当然のように意識が飛んでいてしかるべきだっただろう。
 それなのに、よく忘れなかったものだ。
 しかも、
――今度はいつ綾に話しかけよう――
 と考えていたことだろう。なかなか話しかけられないのは、それだけ昇の性格がシャイだということなのか、それとも、あの日の自分が特別で、調子に乗って自分から声を掛けてしまうと、玉砕に繋がらないとも限らない。せっかくうまく行きかけているものを、自らの手で壊してしまいそうになるのが怖かったのだ。
 しかし、話しかけられないのは、相手の雰囲気にも大きく依存していた。綾を見ている限り、あの日の出来事がまるでなかったことであるかのように、まったく昇に対して、それまでと態度が変わることはなかった。それはまるであの日が事故であったのではないかと思うほどで、もし事故だとすれば、綾の方が、昇との一日を忘れたいと思っているのだとすれば、昇にとって、これほどショックなことはない。
――それなら、思い切って話しかけてみて、玉砕した方がスッキリするのかも知れないな――
 と感じるほどであった。
 あれから、綾のことを意識しない時は、ほとんどなかった。
――寝ても覚めても、綾のことを気にしている――
 まさにそんな心境だったが、こんな気分にまさか自分自身が陥ってしまうなど、それまで想像したこともなかった。
 ずっと彼女がいなかった男は、諦めの境地からか、
――彼女ができたとしても、四六時中、その人のことを考えていたりはしないだろう――
 と思っていた。
 仕事だってあるのだ。一つのことに集中してしまうと、肝心なことが疎かになってしまう。彼女ができたとしても、それは肝心なことがあっての彼女であって、自分の本分を忘れることはないと思っていた。
 その思いは、今も持っている。しかし、まだ彼女だと言える関係にまで発展したわけではない昇が、今までに、本当に彼女と呼べる人と付き合ったことがあったのかどうかすらハッキリと覚えていないのに、一人の女性が、まるでこの世の中心にいるかのような錯覚に陥ってしまっているのは、まんまと、何かに引っかかってしまったというのだろうか?
――そういえば、自殺するのだって、菌のようなものがあるというではないか――
 人を好きになるのだって、何かの菌によるもので、どこまでが自分の意志によるものなのか分からない。
 なぜなら、男性の中には、自分から相手を好きになることはないが、
「俺は、相手から好きになられて、それで好きになる方なんだよな」
 と言っている人もいる。
 昇の同僚にも同じような人がいるが、得てしてそんな人の方が、誰かに好かれて、その人のことを意識するようになると、まわりに包み隠すことなく、相手の女性を好きになったことを曝け出している。
「人って分からないものね」
 他人事のように傍観している噂好きのOLたちにとっての、格好の話の肴にされているようだ。もちろん、本人はそれでも構わない。肴にされることが、自分にとっての何かの証だとでもいうのだろうか。それまでまわりに対して自分を隠すことばかり考えていた人が急に変わるのだから、恋愛感情というのは、やはり自分からだけではなく、外部からの、そう「菌」のようなものが影響していると考えるのも、間違いではないのかも知れない。
 昇は、綾のことを考えている時、
――まるで自分ではないみたいだ――
 と感じる時があった。
 それは、好きになった人に対して、自分が何をしたいのか、明確に分かった瞬間を感じたからだ。そのくせすぐに忘れてしまう。忘れっぽい性格が災いしていると思いながら、
――忘れっぽいのは、本当に自分の性格なのだろうか?
 と思うようになっていた。
 自分の中にいるもう一人の誰かが表に出てきた瞬間、それまでの自分が打ち消されてしまったことで、それまで考えていたことが中断されてしまったかのように感じる。もしそうなのだとすれば、
――俺って、結構残酷な運命なんじゃないかな?
 と感じた。
 いやいや、忘れっぽいだけのことで、残酷などという言葉が結びつくはずもない。残酷だと思うのは、自分に対してではなく、自分の中にいるもう一人の誰かではないだろうか?
 その人は、決して表に出ることもなく、本当であれば、ひっそりと影のような存在でなければならない。そんな人が自分の中にいるのかも知れないと思うと、少し気持ち悪くなった。
――でも、これって俺だけの問題なんだろうか?
 他の人にも同じように、もう一人の誰かが自分の中にいて、その人は決して表に出ることもなく、影となって支えてくれている。まるで守護霊のようではないか。
 守護霊という言葉は、何度となく聞かされたことがあった。
「ご先祖様が、あなたを守ってくれているのよ」
 と、いう話だったが、考えてみれば、
――自分を守るためにいる守護霊って、あの世に行けずに、この世を彷徨っている霊のことになるんじゃないのかな?
 ということは、何かこの世に未練のある人たち?
 そんな人が自分の先祖にいるということだろうか? 守護霊は、誰にでもいて、しかも、一人ではなく、数人はいるという話を聞いたこともあった。そんなにたくさんの守護霊が、そう都合よくいるというのもおかしなものだ。
――ひょっとしたら、守護霊という役目を果たさなければ、成仏できないのかも知れない――
 つまりは、死んでから成仏するまでには段階があり、守護霊としての時間が誰にでもあるということになる。
 すると、今度は新たな疑問が出てくる。
 先祖というのは、自分を産んでくれた親から遡るわけなので、時間的な問題として、数人の人が守護霊として守ってくれているのだとすれば、一体自分の守護霊は、いつの時代の人たちになるというのだろう?
――百年前? それとも二百年前? そんなに長い間成仏できずに、守護霊になるために待っていたということになるのだろうか?
 どう考えても理屈に合わない。
作品名:二度目に目覚める時 作家名:森本晃次