小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

二度目に目覚める時

INDEX|8ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

 昇は、特に最近、自分が忘れっぽくなっていることに気が付いた。しかも気が付いたのが最近というだけで、どうやら、本当はもっと前から忘れっぽくなっていたようだったのだ。
 そんな大事なことにも気付かないほど、何かに集中していたというわけではない。どちらかというと、マンネリ化した毎日を、やり過ごしているだけだった。マンネリ化する毎日をやり過ごしていると、気が付けば日にちというのはあっという間に過ぎていた。
 そのくせ一日一日には同じ時間のはずなのに、感覚差があって、あっという間に過ぎた時があるかと思えば、なかなか終わってくれない日もあった。別に意識させる何かがあった時になかなか一日が終わらないというわけではない。むしろ、何かがあった時の方があっという間だったりすることが多かった。次の日に影響を与える何かであればまた違っているのだろうが、今のところ、その日で完結することしか昇の中で起きていない。
――本当にそうなのかな?
 二十五歳という年齢であれば、日をまたぐような何かがいくつかはあってもしかるべきだと思っているのに、記憶の中では、すべてが、その日完結することばかりだった。毎日をマンネリ化しているように感じるのはそのせいで、
――少し自分の人生を変えてやろう――
 という意識を持ち始めているのも事実で、
――では、一体何をすればいいというのだ?
 という自問自答を繰り返しても、自分の中から新しい発想はなかなか生まれてこなかった。
 しょせんは他力本願であった。
 自分から何かをしようと思いさえすれば、やりたいことはいくらでも思いつきそうなのに、それを感じないのは、やはり、仕事中心に物事を考えてしまうからだろう。仕事を中心に考えて、仕事を理由にやりたいことで人に迷惑を掛けたくないという思いを抱いているからなのだが、それが言い訳にしか過ぎないということを分かっていながら、それでも踏み切ることができない。
――やっぱり、高校の時に、あんなわがままを言ったからかな?
 演劇部に入っていたのだが、いずれは自分で脚本を書きたいと思っていたのに、先にライバルの脚本が採用され、自分に割り当てられた役が、承服できないほど屈辱的に感じられたことで、部の人全員を巻き込む形で反発し、最後には自分から部を止めてしまった。最悪の形で止めてしまったことが、昇の中でトラウマになっていたのだろう。
 昇は、そのことが頭に引っかかっていながら、実際に何かのきっかけがなければ思い出すことがないようになっていた。
――トラウマを克服したい――
 という思いが、そうさせているのかも知れないが、本当にそうなのだろうか? どうしても「逃げ」を意識しているように思えて仕方がない。どちらにしても、トラウマを思い出さないようにしようとした「ツケ」が、物忘れが激しいという形で、巡ってきたのだろう。
 最近は物忘れが激しくなってきたことを意識し始めた反面、急に忘れていたことを思い出すことも多くなった。ただ、不思議なことは、思い出すことの中に、
――本当に自分の過去なのだろうか?
 と、疑問に思うほど、明らかに違っているように思うこともあった。きっと何かの勘違いなのだろうが、どうしても、気にせずにはおられないことである。
 昇は、自分の中でトラウマがあること自体、あまり意識していなかった。意識するようになったのはいつ頃からだったのだろうか?
 それすら忘れっぽい性格の中に入りこんでしまって、意識していないことをわざわざ覚えているようなことはなかった。
――他の人が意識していないようなことでも、普通に覚えているというのは、意識していないつもりでも、無意識に意識しているからなのだろうか?
 と、感じていた。
 ということは、昇は意識していないことを無意識にであろうが、意識することはないのだということに違いない。
――それだけ、俺は性格的に正直なのかな?
 都合のいい考えだが、必要以上に悲観的になることもない。そう思うと、都合のいい考え方というのは、持っていた方がバランス的にいいのではないかと思うのだった。
――それにしても、綾と一緒にいるというのに、どうして、捻くれた考え方になってしまうのだろう?
 ただ、今までも捻くれた考えを持つことはあったはずなのだが、すぐに忘れてしまったことで、考えが発展していない。中途半端な思いのまま忘れてしまうと、次に同じことを考えた時、
――前にも同じことを考えたことがある気がする――
 と感じても、その内容まで思い出すことはできなかった。忘れてしまっていたと感じたのも、中途半端で終わってしまった内容を、思い出すことができないからだった。
 その日一日が、いつも完結しているのを、ずっと不思議に思うことはなかった。それが当たり前のことなのだという考えが、いつの間にか身についてしまっていたのだ。だが、一日が完結しなかったことがなかったわけでもない。それは午前零時を意識することなく過ぎてしまえば、一日が完結していないことになるからだ。意外と夜更かししている時など、気が付けば日をまたいでいる。そんな時、昇は自分が不思議な夢を見ているという意識に駆られるのだった。
 見ている夢は、同じ日を繰り返しているという夢だった。
 日付が変わった瞬間を、本人は覚えていない。しかし、日付が変わったことに気付くのは、いつも同じ時間だった。
 日にちが変わって、ちょうど十五分が経ってからのことだった。
――昨日も、同じことを考えたような気がするな――
 そう感じる時というのは、一日で終わることはなく、数日続いている。つまり、同じ日を数日間にわたって繰り返しているのだ。そんなことは夢でなければありえることではない。
 同じ日を繰り返していると感じた時、背筋に恐怖が走る。
 そう、背筋に感じる恐怖は、寒気となって現れる。綾が連れてきてくれた店で感じたものだったのだが、店に入って背筋に寒気を感じた時、この夢との関連性に、まだ気付いていない時だった。
 綾との関係はさておき、今の昇は、必死で今の自分が考えていることをすぐに忘れてしまうことのないように、しっかりと理論づけて覚えておくように、頭を整理しようとしていた。
――一体、今のこの世界から抜け出すにはどうすればいいんだ?
 ふと聞こえてきた心の声、それは、
「死ぬしかない」
 悪魔の囁きだった。
 ただ、その心の声が本当に自分の声なのか、少し納得の行かないところもあった。自分の声だとすれば、声のトーンが違っているからだった。
――俺の声はもう少しハスキーだと思っていたんだが――
 これが逆であれば納得がいった、自分の考えている声よりも低ければ、自分の心の声だとして感じることもできたのだが、声が想像以上に高いことで、自分の声ではないという思いが深かった。
――ここは夢の世界なんだ――
 自分の声だと思いたいのに、自分の声ではない。
 夢というのは、自分だけのものだという考えを持っている時は、夢の中で起きることはすべて、自分の思っていることだという思いがあった。しかし、実際には、自分で考えていることが、そのまま夢の中で展開されるわけではないことを、今の昇は理解していた。
作品名:二度目に目覚める時 作家名:森本晃次