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二度目に目覚める時

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 最初は、ゆりかに対してSになる自分が恥かしく感じられ、次からゆりかとは会わない方がいいのではないかと感じた。ただ、それは本当に一瞬で、すぐに自分で自分の気持ちを打ち消した。
――それこそ、自分の考えから感じたことじゃないように思う――
 自分の中にいる博という男性の考えだと思うと、昇は承服できるような気がした。
 そして、自分のS性に気が付いてから、ゆりかの態度が微妙に変わってきた。
 昇のS性に対して、嫌がっている様子はまったくなく、すべてを受け入れようとしている様子が伺えた。しかし、それはゆりかの中の申し訳ないという部分が感じられるもので、相手のS性にしたがっているのは、昇に対してではなかった。
 その証拠に、感極まった時発したゆりかの言葉が、
「ごめんなさい」
 という、まるで消え入りそうな言葉だったのだ。
 もし、今までの昇であれば、ゆりかのその声は聞こえなかったに違いない。それほどの小さな囁きを聞き逃さなかったのは、昇の中に博がいたからであろう。
――一体何が、ごめんなさいなんだろう?
 昇に覚えはない。だが、なぜか承服できるのは、昇の中にいる博が承服したからであろう。
――博というのは、一体どんな男だったんだろう?
 ゆりかがいなくても気になるところであった。
 それは、ゆりかが昇の中に博を発見しなくても、いずれは博がいることを発見すると思ったからだ。
――いや、博が自分の中にいるとすれば、俺がゆりかと出会う可能性を考えているんじゃないのかな?
 と最初は考えていたが、少し無理があると思えた。それよりも、
――博が入りこみやすいタイプの男性がこの俺で、俺に乗り移った後で、ゆりかと会うようにできるようにする――
 もし、自分の性格を昇に分からないように表に出すことができて、それをゆりかなら分かることができるのであれば、後は、二人が偶然でも何でも出会うことさえできれば、後は簡単なことだった。それは、最初と似ているように考えられるが、最初はあくまでも、昇としてゆりかと出会う可能性だった。
 確かに可能性がそちらの方があるかも知れないが、もし、ゆりかが昇の中にいる博に気付かなければ、そばにいたとしても、それではまるでヘビの生殺しではないか。
 昇はゆりかと一緒にいる時間を感じているのだが、本当に自分が感じていることなのだろうか? S性も最初から自分のものなのかどうか、疑問だった。
 確かに自分にS性があるのは分かる気がする。しかし、そのS性は、最初から自分の中にあったものではないような気がした。
 それでも途中から変わってきたような気がしている。最初は気付かなかったが、気付いてみると、
――二重人格なのではないか?
 同じS性であっても、どうしても同じものだとは思えない。ゆりかにもそれが分かったのか、途中で急に怖がっていたのが分かった。その表情は恐怖に歪み、怯えていた。それを感じ、今までのS性であれば、昇の方も少し怖気づいたかも知れない。
 しかし、ゆりかのそんな表情を見て、さらに自分の中から燃えるものが溢れてくるのを感じた。
――何だ。この思いは?
 と感じていたが、抑えることができなかった。
 ゆりかも最初は怖がっていたが、次第に慣れてきたのか、昇に身を任せているようだった。
――この女の中にも誰か他にいるみたいだ――
 昇はそう感じると、遠慮する気持ちは完全に失せていた。
 会うたびに相手を求める昇。それにゆりかも必死に答えようとしている。それまで博のことを追いかけようとしていたのがウソのようだ。
 今度は昇がゆりかを怖いと思う番だった。
――こんなオンナ、初めてだ――
 自分がゆりかのことを蹂躙し、完全にSとMの関係であるにも関わらず、昇はゆりかに対して感じた恐ろしさは消えることはない。
――自分がゆりかを引っ張っているはずなのに、逆に引っ張られているような気がしている――
 こんな思いは初めてだった。
 昇は確かにあまり女性経験が豊富な方ではなかったが、毎回のようにお互いに身体を貪り合う関係になったことで、
――どこか懐かしい感覚に陥るような気がした――
 と感じたが、ゆりかという女性を今まで知っている女性と見比べているつもりは毛頭ないのに、おかしな感覚だった。
――まだ、俺の中に博がいるのかな?
 と思ったが、それはないようだ。
 ゆりかが求めているのは紛れもなく昇であり、ゆりかが昇の中に博を感じなくなったのは、昇に対して恐怖を感じたその時から分かっているように思えた。
――では、博以外に、まだ誰かいるのかな?
 そう思うと、自分が二重人格なのではないかと、ふと感じたのだ。
 だが、その思いもすぐに打ち消した。
 今まで二十何年と生きてきた中で、
――自分が二重人格ではないか?
 などという思いを感じたことは一度もなかった。もし、今初めてであっても、感じた疑念に対し、過去に感じたことがあるなら、今の思いに共鳴するものが、記憶の中から解き放たれると思ったのに、解き放たれることはなかった。
――やっぱり、俺は二重人格なんかじゃないんだ――
 と、ホッとしたような気分になっていた。
 昇は自分がゆりかに惹かれていることに気付かなかった。確かに最初は惹かれていると分かったが、ゆりかに対して蹂躙したいという思いが芽生えた時、立場が逆転したような気になっていたのだ。
 だが、いくら相手を蹂躙したい。自分にS性があると思っていても、自分が相手を支配するという意識とは少し違っていた。それが本当のSではないという証拠ではないだろうか。本当のSであれば、相手のすべてを自分のものにしたいと、思うはずだと感じたからだ。
 だが、昇はそこまで感じていなかった。確かに一般的なS性を秘めていることは分かっているが、ゆりかの中にあるMの部分をどこまで自分が分かっているのかということには若干の疑問があった。そのせいもあってか、ゆりかに対してどうしても入り込めない部分があることを感じていたのだ。
 ゆりかが昇と一緒にいる時、昇はゆりかの変化に一切気付いていなかった。変化というのは、昇に対しての気持ちの変化であり、すべて、
――昇を見ての反応――
 であるとしか思っていない。
 あれだけ、普段はゆりかに対して疑問を持っているにも関わらず、二人きりになり、二人だけの世界になると、何ら疑いを持たなくなる。
 逆にゆりかは違っていた。
 昇が自信を持てば持つほど、昇が怖くなって行ったのだ。
 だが、ゆりかはすでに昇から離れられなくなっていた。それは身体の関係だけではなく、一度信頼してしまった相手から、そう簡単に離れることができなくなってしまったということを意味している。
 実に小さな亀裂だが、そのことに気付かないまま、昇は亜季と再会してしまった。亜季は昇のことが好きだったということに、気付いてしまっていた。昇は亜季が感じている自分への思いに、まだ気付いていなかった。
 友達と二重人格の話をしている時に聞かされた「暗黒星」の話、それがゆりかを差しているのだとすれば、ゆりかが昇を恐れているのは、なぜなのだろう?
作品名:二度目に目覚める時 作家名:森本晃次