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二度目に目覚める時

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 その代わり、綾に対しての視線を強くしたようだったが、途中から亜季の態度が変わってきたことに、次第に気が付くようになっていた。
――どうしたんだろう?
 何かに気が付いたような雰囲気だった。綾と亜季はここで偶然出会った。二人の共通点として、昇がいなければ、二人は意識することもなかったはずだ。そういう意味では昇が今日いたことは、やはり偶然などではない。昇が考えている、
――偶然という言葉は、それほど濃いものではない――
 という思いを、証明しているかのようだった。
 昇が偶然という言葉に疑問を持ち始めてから、ゆりかのことを再度意識するようになった。その日、バーに行ってからの綾は、それから昇のことをあまり意識しなくなったからである。
――一体、何だったんだろう?
 バーに立ち寄ることもなくなって半月が過ぎようとしていた。昇はいつも目に見えるところにいる綾を意識していないのに、あれから会うこともなかった亜季のことが気になっていた。だが、それは好きだという感情ではない。とにかく、あのまま会えなくなることに寂しさを感じていた。自分でもよく分からない感覚だったのだ。

                 第四章 自分の中にいる誰か

 半月がこれほど長く感じられたことも珍しかった。一週間や一か月という単位で、過去を振り返ることはあったが、半月というのは中途半端だ。何か気になることがあっても、思い出すのはキリのいい数字の期間である。体内時計のようなものがあって、キッカリとその時期に意識を合わしてくるに違いないと思っている。
 半月前に綾と一緒に行ったバーで亜季に出会った。実に久しぶりに見かけた亜季は、自分が知っている亜季ではなかった。
――二十代の女の子なんだから、久しぶりに会って雰囲気が変わっていたというのは別に不思議なことではない――
 と思えるのに、どこか釈然としなかった。それは久しぶりに会った亜季が、
――自分の知っている亜季ではない――
 と思わせるに十分な、雰囲気の違いを感じさせたからだった。
 自分の知っている亜季と、どこがどう違うのかを説明しろと言われると困ってしまう。自分の感性が、
――知っているはずの亜季ではない――
 と言っているだけで、根拠も違っている部分を説明できるだけの材料もない。
 もっとも、それだけ亜季のことを一番知っているのは自分だという自信の裏付けでもあるのだが、それだけに、中途半端なモヤモヤに対し、自分で腹が立っているのだった。
 亜季のことだけをずっと気にしていたわけではなかった。腹が立ちっぱなしではなかったことがその証拠であるのだが、亜季のことを頭の端に置いておきながら、ゆりかのことも気になっていた。
 ゆりかとは、しばらく会っていなかった。自分の中にあるS性を引き出したのは、ゆりかの存在だった。
――ゆりかと少し距離を置いてみよう――
 と思っていたところに思い出したのが、亜季のことだった。自殺というキーワードから思い出したのだが、亜季のことを意識の奥に格納してしまうと、今度は格納した亜季への意識から、ゆりかのことを思い出すようになっていた。
 一つ気になっているのは、
――亜季を見ている自分と、ゆりかを見ている自分は違う人間のように思えてならない――
 というものだった。
 ということは、
――俺って二重人格ということなのか?
 今までに自分が躁鬱状態に陥ることはあると思っていたが、二重人格的なところがあるという感覚は一度もなかった。
 二重人格を自覚している友人がいたので、その人との話を思い出していた。
「二重人格の人には二種類あると思うんだ」
「どういうことだい?」
「一つの性格が表に出ている時、もう一つの性格をまったく意識できない人と、意識できる人の二種類だね」
「その違いというのは、どういうところに出てくるんだろう?」
「それぞれの性格が正反対の時は、得てして、もう一つの性格を意識できるような気がする。そして、もう一つの性格が正反対というよりも、背中合わせ。つまりは、ニアミスに陥っている時というのは、もう一つの性格を意識できないんじゃないかな?」
「灯台下暗しという感じかな?」
「そうだね。そばにあるのに見えないということは、ある意味怖い気がするんだ。昔の天文学者が『暗黒星』というものを創造したと聞いたことがあるんだけど、星というのは、自分から光を発するか、他の星から光を貰って、反射することで、光を出しているだろう? でも、その暗黒星は、自分から光を出すこともなく、光を反射させることもない。光を吸収してしまうんだろうね。だから、そばにあっても誰も気づかない。もしそれが恐怖をもたらすものだったら? と思うと、恐ろしいだろう?」
「それが『暗黒星』というものだね」
「そういうことなんだ。だから二重人格のもう一つの性格を分かっていないということは、自分が二重人格だと知ってしまった時から、その人の悲劇が始まるのかも知れないと思っているんだ」
 友達との話は、そんな話だった。
 暗黒星の話がなければ、それほど気にもなっていなかっただろうが、その話をされたおかげで、自分の中に恐怖が芽生えた。二重人格の本当の恐ろしさを、その時初めて感じたような気がしていた。
――自分の知らない自分がいるというのは、自分で自覚している怖い夢の中の、もう一人の自分に結びつくものがあるのではないか――
 と、考えた。
 その時、同じ日を繰り返している自分が重なり、頭の中で発想がシャッフルしているようだった。
――頭の中が混乱してきた――
 それももう一人の自分が災いしているせいだろうか?
 何かあった時、それがもう一人の自分のせいだということにしてしまえば、ある程度納得は行くのだが、すべてをもう一人の自分のせいにしてしまうと、結局、最後は自分の首が回らなくなってしまいそうな気がして仕方がなかった。
――ゆりかを見ていると、彼女ももう一人の自分の存在に気付いているような気がする――
 と思えてきたのだが、まわりから見ていて、彼女の中にもう一人の自分の存在を感じさせるものは何もなかった。
――ゆりかのことを一番理解できるとすれば、俺なんだけどな――
 と、昇は感じていた。
 それは、もう一人の自分を同じように意識しているからだという思いと、ゆりかが自分の中に、昇とは違う誰かを見ているという思いとが頭の中で交錯しているからだった。
 ゆりかは、その相手を博だと言った。どこが博なのか分からないのに、分かっているように思えて仕方がない。
――ゆりかが、言うのなら、本当なのかも知れないな――
 なぜか、ゆりかの言葉に信憑性しか感じることができない。あまりにも突飛な話なのに、一つの話から始まった自分の頭の中の発想が、次第に深いところまでやってきて、最終的に思い起してみると、最初のゆりかが言ったことに、一番信憑性があることに気付かされた。
 そして、
――自分の中に博がいるのではないか――
 と思った最大の理由が、
――自分の中にS性を見出した――
 ということだった。
 昇がS性を発見したにも関わらず、自分がS性を発揮する相手は、ゆりかだけだったのだ。
作品名:二度目に目覚める時 作家名:森本晃次