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二度目に目覚める時

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――それでよかったのだ――
 と感じた。
 その後、亜季が自殺を試みたという話を聞いたが、それでも未遂に終わったと聞いたその時、
――やはり、夢に見て、恐ろしい表情がぼやけてしまっていたことが、功を奏したのかも知れない――
 と感じたことは、間違いではなかったのだろう。
 何が間違いだというのだろう?
 亜季が自殺を試みた理由は分からないが、
――亜季は自殺など似合わない――
 と、思っていたはずだ。
 だが、死相を思い浮かべてしまい、夢でそれを打ち消すかのように、おぼろげな表情に変えてくれたことで、亜季は自殺未遂で済んだのだと思った。
 その時は近くにいなかったが、昇の気持ちが通じたのだと思った。亜季は決して自殺などする人ではないという思いだ。もし、自殺を試みたとするなら、それは、亜季の気持ちとは関係のないところで無意識に行われた。つまり「自殺菌」のようなものが働いているのだとしか思えなかった。
 誰の身に起こるかも知れない自殺菌の脅威。それは、自分にも言えることであり、無意識になることをなるべく避けたいと思うようになった。
 しかし、そう思えば思うほど、
――気が付けば何かを考えていた――
 というように、まわりから見れば、自殺菌に侵されているかのように見えるのではないかと、昇は考えていた。
 昇は、もう一つ気になることを感じていた。こちらの方が本当は、気になっていたのだが、
――亜季が自殺をしたのは、昇自身が亜季に対して死相を感じたからだ――
 というものだ。
 もし、昇が亜季に対して死相などを思い浮かべなければ、亜季は自殺など考えなかったのかも知れない。それが、昇の夢だっただけに、余計に嫌な思いがしてくるのだった。
 夢は潜在意識が見せるものだというではないか。ということは、昇は亜季が自殺するような雰囲気に感じていたということだろうか。しかも、夢というのは、無意識に見るものだ。ある意味、防ぎようがないではないか。
 そう思うと、昇は自分が亜季に対して、取り返しのつかないことをしてしまったという自責の念に駆られてしまった。
 しかし、その思いはあっけなく忘れてしまうことになる。それは、昇自身、どうしてなのかすぐには分からなかったが、そのことに気付くのは、やはり昇本人でしかないのだった。
 昇は、自分でも意識はないのに、自殺未遂をしたことがあった。その時、自殺菌というものへの思いが確信に変わった。亜季が自殺をしたと聞いた時、自殺菌の話は耳にしていたが、
――まさかそんなものが存在するはずなどない――
 という思いが強く、俄かに信じられるものではなかったのだ。
 しかも、
――自分が自殺しようなどと思うはずもない――
 と思っていたところへ、気が付けば病院に運ばれていて、まわりは自殺騒ぎで騒然としていた。
「誰が自殺?」
 と言うと、まわりはキョトンとして、
「ショックで、記憶が?」
 自殺を意識していなかったというよりも、自殺のショックで、意識よりも記憶の方が失われたというのが、まわりの見解だった。
 もちろん、昇本人は記憶を失ったという意識がない。しかし、意識が朦朧としていて、自分の中に残っている記憶が本当に自分のものなのかどうか、疑問に感じるほどだった。
 ただ、不思議なことに、昇自身が自殺をしようとしたという事実は、昇の記憶から消えていた。ただ、定期的に思い出していた。定期的というのは、同じ期間という意味ではなく、意識の中では同じくらいの間隔になるのだが、実際には同じなのかどうなのか分からない。なぜなら、思い出す時以外、記憶の中から完全に、自殺の意識が消えているからだった。
――以前に思い出したことが……
 などということは、ありえないのだ。
 ただ、何度か繰り返しているうちに、自分が過去に自殺を考えたことがあるという意識が芽生えてきた。そのうちに、定期的思い出していることも意識できるようになってきた。それでも、完全に意識できないのは、自分の中に
――「自殺菌」が入りこんでいるからだ――
 と思っているからだった。
 すべては自殺菌の成せる業。
 定期的に思い出すのも、最初に意識していなかったのも、すべて自殺菌によるもので、自殺菌によって自殺を考えた人間にしか感じることのできないものを感じているかわりに、感じてはいけない時は、意識や記憶から自殺しようとしたことすら消えてしまっていることを分かっていない。
 自分が自殺を考えたということを意識していない間は、亜季の自殺も信じられなかったが、自分が自殺を考えたことがあったのだと思うと、亜季の自殺も分からなくはなかった。
 原因に関しては、思い当たるふしがあるわけではないが、性格的に自分と似ているところがある亜季のことなので、きっと自分が自殺しようとした理由を思い浮かべるよりも、亜季が自殺しようとした気持ちを思い浮かべることの方ができるような気がしていた。
 昇は自殺菌に対して、自殺だけを考えていたわけではない。記憶を失うことに対しても、菌が影響しているような気がしていた。それが、いわゆる自殺菌と呼んでいるものと同じものなのかどうか分からないが、昇は同じモノに思えて仕方がなかった。
 そもそも自殺菌などという呼び名は、勝手につけたものであって、人の何に影響を及ぼしているか、未知数だったのだ。ただ、自殺を考えた時に、菌を思い浮かべ、自殺しようとした自分の記憶が、ところどころ抜けているような気がしたので、どちらも同じ菌の影響によるものだと思っている。
 それからしばらくして、昇は綾に、
「この間のバーに、ご一緒しませんか?」
 と誘われた。その表情は楽しそうであったが、恋人をデートに誘っているような雰囲気に感じられなかった。
「いいですよ」
 とは言ったが、
――友達として行く覚悟を持っていないといけないかも知れないな――
 綾のことを好きになりかけていたが、本気で好きになるまでに至っていなかったことをよかったと思った。本気で好きになっていれば、誘われれば断ったかも知れないと思ったからだ。
 ――友達として――
 と思った時、脳裏に亜季の顔が思い浮かんだ。
 今まで、亜季に対して幼馴染以上のことを感じたことはなかったが、それ以下でもない。
――俺にとって一番大切な人――
 という位置づけがずっと続いていた。
 その思いが変わってしまう日が来るなどということは考えたこともなかったが、まさか、いつの間にか連絡を取り合わなくなったことで、存在すら意識しなくなる時が来るなど、想像もしていなかった。
 記憶の中にはもちろんいるのだろうが、意識としてはなくなっていた。考えてみれば、記憶の方も怪しいものだ。思い出そうとすると思い出せるのだが、思い出していることが自分ではすべてだと思っているが、本当であろうか。
 他の人の記憶であれば、時間が経つにつれて、次第に薄れてくるという意識があるのだが、亜季に対しての記憶だけはそんなことはない。
――色褪せてしまうなどありえない――
 記憶が少しずつ薄れているとすれば、それは色褪せてしまっていることに繋がるなどという意識は今までにはなかった。もしあるとすれば、
作品名:二度目に目覚める時 作家名:森本晃次