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二度目に目覚める時

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 彼女は名前を、葵亜季と言った。亜季とは小学生の頃からの腐れ縁で、彼女が男っぽいところもあって、あまり女性として意識したことはなかった。しかし、今では亜季の女性らしさを思い出すことができる。それは会わなくなったことでの、想像が勝手に暴走し始めたからなのかも知れない。
 亜季とは、高校時代まではよく話をしていたが、大学に入ってから、彼女が東京の大学に入学したことで、なかなか会うことも少なくなり、必然的に話をすることも少なくなった。
 だが、大学三年生の時、亜季はそれまで付き合っていた男性と、大恋愛の末、最後は悲惨な別れ方をしたことで、昇を頼って、話をしに来たことがあった。
 昇も、そんな大恋愛をしたことがなかったので、どのように話していいのか分かるはずもなかったが、
「昇の顔を見れただけでも嬉しかった」
 という言葉が忘れられなかった。
 それから、亜季が自殺未遂をしたという話を風の便りに聞かされたが、なぜか飛んでいって話を聞いてあげたい気持ちとは裏腹に、
――会うのが怖い――
 という思いが強かったせいで、結局会いに行くことはなかった。
 そのせいか、お互いにぎこちなくなってしまい、会う機会を持てないまま、大学を卒業し、そのまま疎遠になっていた。
 あれから、亜季の噂を聞くことはなかった。だが、この間、綾と一緒にバーに行ったその日の夜、電話があって、昇をビックリさせた。
 電話の内容は、大した話ではなく、久しぶりの声が聞きたくなったという程度のものだったが、それでも、昇は嬉しかった。ただ、女性としての意識は電話で声を聞いた瞬間になくなってしまったので、
――昔なじみの友達が連絡してくれた――
 という程度のものだった。
 しかも、ゆりかのことが気になり始めてからは、亜季のことを気にすることもなく、半分頭の中から消えていたと言っても過言ではないほどだった。
 ただ、ゆりかのことで違和感を感じたり、疑念が湧いてくると、なぜか頭の中に浮かんでくるのは亜季のことだった。それでも、なぜ浮かんでくる顔が亜季なのか分からず、必要以上に自分に対して自問自答することはなかったが、それでもふと思い出す亜季の顔は、昇に一息つかせるには十分だった。
 昇が、「自殺菌」の話を聞いたのは、亜季が自殺を図ったという話を聞いた時だったような気がする。あの時は、
「そんなバカな話、信じられないよ」
 と言っていたが、なぜか頭の中に残ったのだ。しかも、
――自殺菌の話が本当だとすると、誰にでも起こることであって、自分にもいつその災いが降りかかるか分からない――
 と思うようになった。
 しかし逆に、
――何も分からずに死ねるのであれば、それもいいかも知れないな――
 という思いもあった。
 人生に対して疲れているという感覚があったわけではないが、ちょうどその時、将来について何も考えることもなく、これから以降も、
――自分は何がしたいのか――
 という思いはもちろん、
――自分に何ができるのか――
 という発想すら浮かんでこない。
 むしろ、後者の方が難しいと感じられるくらいだった。
 本当であれば、何ができるかが分かった上で、何をしたいのかということを考えるのが筋なのだろうが、何ができるかということを分かる前に、何がしたいのかを考えてしまうことが、他の人には多いらしい。それを考えると、自分が考えていること自体が、無駄なことではないかと思えてくるから不思議だった。
 亜季が自殺を図ったと聞いた時、昇は無性に腹が立ったのを覚えている。ただ、何に腹が立ったのかという肝心なことを覚えていないのだ。
――勝手に自殺をしようとした亜季に腹が立ったのだろうか?
 それとも、亜季に自殺までさせた相手がどこの誰であるか分からない自分に腹が立ったとも言える。
 亜季が自殺するに際して、どこかの男が絡んでいたという話は、伝え聞いて知っていた。
 だが、何よりも亜季に自殺まで考えさせた相手が誰であれ、自分の手で報復してやれないことが一番腹の立つことだったのだ。
――何もしてやれない俺に、亜季を慰めてあげる資格はない――
 と勝手に思いこんでいた。
 冷静になって後から考えると、もう少し、亜季の立場に立って考えてあげればよかったと思った。亜季の立場に立って考えれば、
――その時、誰かにそばにいてほしかったのは、亜季自身だったはずだ――
 と思えたはずだ。
 それは、昇自身が、
――孤独でも寂しくない――
 という思いを持っていたからなのかも知れないが、それを他人に当て嵌めるのは、無理なことであるということくらい、どうして分からなかったのだろう?
――「自殺菌」に邪魔されたのかな?
 亜季に憑りついた「自殺菌」が、遠く離れた昇に影響してくるとは考えにくい。しかし、「自殺菌」が憑りついた相手から、気持ちを通して人に伝染するのであれば、そこに距離は関係ないのかも知れない。いくら近くにいる人でも、亜季とまったく違った考えを持っている人であれば、憑りつくことはない。そう思っていくと、昇に憑りつく理由は十分にあった。
 昇は、自殺未遂をしたこともないのに、自殺しようとしている人が分かる時がある。
――死相が出ている――
 というのを感じる人もいるのだろうが、昇には人の死相まで分かるわけではない。それなのに自殺しそうな人が分かる時がある。しかし、
「あの人、これから自殺するんだ」
 と、言っても誰が信じるというのだろう。今までに何度か、言おうと思いながら、思いとどまってしまったことがあったが、その人が本当に自殺したのかどうか分からない。確かめたいという気持ちよりも、事実を知る方が怖かったのだ。
――俺って、本当の臆病なのかも知れない――
 と、時々感じることがあるが、普通なら、
――そんなことはない――
 とすぐに打ち消しそうなのだが、それができないのは、
――確かめたいという気持ちがありながら、本当のことを知るのが怖い――
 という思いがあるからに違いない。
 人の死相が見えるのに、自分のことになると、まったく分からない。それは、自分のことというよりも、
――自分に関係する人――
 という意味で、二年前に祖母が亡くなったが、その時はまったく分からなかった。
 そろそろ危ないという話は、伝え聞いていたので分かっていたつもりだったが、死相という意味ではまったく感じることはなかったのだ。むしろ、
――まだまだ長生きしそうだ――
 と思っていたところでの突然の死だったので驚いている。ちょうど亡くなる三か月前に病院で診てもらった時は、
「別に異常はありません」
 という結果だったのだ。
 実際に祖母が亡くなったのは急だった。
 体調不良を訴えて、大事を取って救急車で病院に運んでもらったが、家族のほとんどの人は、
「そこまで大げさにする必要はないんだろうけどね」
 と言っていたにも関わらず、病院に着いて治療を受けているうちに、意識がなくなり、そのまま集中治療室に入った。
「容体が急変しました」
 と言われて、家族はオタオタするばかり。病院内は祖母のことで、騒然となっていたのだった。
作品名:二度目に目覚める時 作家名:森本晃次