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二度目に目覚める時

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 前の日の記憶が消えてしまうということは、自分に限らず、他の人にも言えることなのではないだろうか。自分の記憶が消えてしまうということに、他の人を巻き込んでしまうことになるからなのだろう。逆にいうと、他の人が同じ日を繰り返していることに気付かない時、自分たちも、その人に合わせるかのように、記憶を消去されているかも知れないということだ。
――何と、極端な想像なんだ――
 何が基準になっているのか、まったく分からない。一つの可能性が次の瞬間には無限に広がっているというパラレルワールドの発想に結びつくものだとしか判断できないのではないだろうか。
 そんな中で、一度だけ、忘れたくない記憶が昨日の記憶だったということを感じたのを思い出した。まるで目からうろこが落ちたかのように、同じ日を繰り返しているという意識が頭を巡った。
 その時、時計は見なかったような気がする。普通なら、昨日の記憶だと思うのなら、無意識にでも時計を見ようとするのだろうが、その時は、時計など見る必要はないと自分で思ったに違いなかった。
 体内時計を意識したというよりも、時間は間違いなく翌日になっているという意識があったからだ。それが同じ日であったとすれば、そこまで
――忘れたくない――
 という意識にならないと思ったからだった。
 日付が変わるというのは、ただ時間が来たからというだけではなく、その人の中で確実に日にちが変わったことで、明らかな変化が訪れることを示唆しているのを分かっているからだ。
 忘れたくないと思っているのは、忘れるかも知れないという気持ちの表れでもある。自分がすぐに忘れてしまうことを意識し始めたのは、いつ頃からだったのだろう? きっと、色々な発想が頭を駆け巡るようになってからのことだ。頭の中で発想が展開を始めると、その端から忘れていくことも多くなってくる。それだけ、頭の中の限界を感じている証拠ではないだろうか。
 一つのことから発想が膨らんでいくのであれば、たった一つのことを簡単に忘れるてしまうことを、まったく意識しないだろう。だが、それを意識するようになった時があるとすれば、その時が自分の意識の中の限界を知る時に違いない。
 駅のホームで電車を待っている時、ホームから転落する想像をすることで、目の前に迫ってくる電車を見てしまった。それが、見たことがあるような気がしたのを、
――他の人と夢を共有しているからだ――
 と思うようになった。ただ、翌日になって、勘違いだったと思うのは、そう思わないと、前の日の記憶を変えてしまいそうな気がしていたからだった。
 前の日の記憶を変えるということは、簡単にできるはずのないことなのに、どうして、怖がってしまうにも関わらず、簡単に納得できることなのだろうか。怖いということは信じている証拠である。それだけ、怖くてもいいから、信じたいという気持ちが強かったに違いない。
 昇は、今までいろいろな発想を持ち、自分をその都度納得させてきた。そのため、少々のことで驚かなくなっていたり、考え方が漠然としていたりする。
 そんな昇が、ある日急に、
――以前話しかけてきた女性から、また話しかけられるような気がする――
 と感じた。
 それは、遠い過去ではないはずなのに、声を掛けられたという記憶があるだけで、どんな相手だったのかということすら覚えていないほどだった。
 その日昇は、いつもと同じ時間に出勤するのが怖くて、一つ前の電車に乗り換えた。
 そこで、以前声を掛けてきた女性に出会うのだが、相手が昇のことを覚えていなかったのだ。
 昇の方は、
――分かるはずないよな――
 自分の記憶の中にはない相手を思い出すなど不可能だと思っていただけに、相手がこちらのことを分からなければ、声を掛けてきた相手と出会っていたとしても、空振りに終わっていたに違いない。
 その日、昇は彼女のことばかりを気にしながら、その日を終えた。
――何もなく終わっちゃったな――
 本当に何もない日だった。
 いや、それよりも一日の終わりに、その日のことを思い返して、
――何もない一日だ――
 などと感じることがほとんどなかったのを思い出した。
 一日を振り返るなど、今までにはなかったことだったからだ。
 そんな日に限って、
――今日一日は長かったような気がする――
 と感じた。
 さらに、時計を見ると、まもなく今日という日が終わってしまうことが分かった。
――普段から時計なんか見ないのに――
 と思うと、長かったはずの一日が、実はまだ終わらないような気がして、仕方がなかった。
 何もなかった一日が終わってしまうのが、もったいないとでも思ったのか、急に一日に未練を感じている自分に気が付いた。そして、再度時計を見ると、
――ああ、終わっちゃった――
 午前零時を少しだけ回っていた。
 夜更かしをすることなど日常茶飯事の昇にとって、午前零時はまだ宵の口である。気を取り直してテレビを付けると、昨夜と同じニュース番組を見ていることに気が付いた。
 だが、日付は確かに一日進んでいた。
――今日は、四月十五日で、昨日は確かに十四日だったはずだ――
 自分の意識と違っているわけではなかった。だが、ニュースの内容は間違いなく記憶の中にある昨日のニュースだった。しかも、同じように日付が変わって初めて見たニュースだった。
――そういえば、昨日も時計を見たんだっけ?
 あの時も確か、日付が変わったかどうかを確認したくて時計を見たんだった。ただ、さっき見たのは、同じように日付が変わったことを気にしたかったから見たのだが、その理由として、何もなかった一日が終わってしまったことを確認するために見たものだったことだ。
 一昨日、何かを感じたから、昨日時計で日付が変わったのを確認したわけではない。日付が変わったことを確認したことで、自分の中で、
――その前の日の記憶がこれで消えてしまったんだな――
 ということを確認したかったことだけは覚えている。
 それは、一昨日のことを忘れてしまいたかったということに繋がってくる。
 昇は今まで、前の日の記憶を失くしてしまいたいという思いが何度もあった。日付が変わることで、生まれ変わりたいという思いが働くのだ。いや、
――生き直したい――
 と言ってもいいのではないか。それは自殺菌によって死んだ人が、選べる二つの道の一つに繋がってくる発想である。
 ここで、自殺菌と、同じ日を繰り返している感覚が結びついてくるなど、想像もしていなかった。
――ウスウス、この二つに因果関係があるのではないか?
 と感じていたが、具体的な結びつきに感じることはなかった。
 自殺菌も、同じ日を繰り返しているという発想も、本で読んだり、テレビの番組を見ていて、漠然と自分に置き換えてみたりして、想像力を膨らませていた。それがオカルト好きな昇の発想に時間を感じさせないほどの頭の回転を与えたのだろう。
 ただ、いくら頭の回転があったとしても、噛み合わなければ、すべてが空振りに終わってしまう。ただ、スピードが遅いと、噛み合うものも噛み合わなくなってしまう。ある程度のタイミングと、自分を納得させられるだけの理由づけが必要だった。
作品名:二度目に目覚める時 作家名:森本晃次