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二度目に目覚める時

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――同じ日を繰り返していて、ノイローゼのようになって本当に死を迎えるのであれば辛いのかも知れないが、よく考えてみれば、同じ日を繰り返している人が、死を覚悟した時というのは、サバサバしているのではないだろうか。もし、そのままいずれ自殺を道を選んだ時、同じ日を繰り返して死を選択するよりも、かなりの精神的な苦痛を伴っているかも知れないと思うのは、自殺菌に対して、かなりの擁護なのかも知れない――
 とも思えた。
――俺って、自殺菌に何を贔屓しているんだ――
 思わず、吹き出してしまうほど、滑稽なことを考えていた。しかし、こう考える方が、死んでいった人のことを一番楽に考えられる。ただでさえ、余計なことを考えているのだから、気が楽に考えて何が悪いと言うのだろう。
 ただ、昇が読んだ本には、自殺菌で死んだ人は、霊となって現世を彷徨うか、それとも、何も前世の意識を引きずらないままに、記憶も意識もまったくなくしたままで、現世を「生き直す」ことのどちらかになると書いてあった。
 昇もその意見に賛成だった。
 そういえば、昇がかつて所属していた演劇部で、自分が描いたシナリオのことを思い出していた。
 昇のシナリオは、オカルトっぽい話が多く、なかなか人に受け入れてもらえないものが結構あったような気がする。
 元々、オカルトっぽさが多い演劇部だったが、それでも昇の発想はあまりにも奇抜だと言われていた。
「お前は、どうしてそんな発想ができるんだ?」
「頭に思い浮かぶんだよ」
「確かに俺は話としては面白いと思う。しかし、これはとてもシナリオとして使えるものではない。小説なら結構いいかも知れないが、もったいないな」
 と、部長からは言われた。
――そうなのかな?
 と、結局他の人のシナリオが採用されて、半分ショックで自暴自棄になりかかった昇は演劇部を辞めて、トラウマを産んでしまった。
 そのせいで、オカルトが書けなくなってしまい、しばらく自分の頭の中でもオカルトを封印していた。
 しかし、自殺菌の本を読むことでまたしても、その頃の発想が思い浮かんで来るのを思い出していた。
 なかなか彼女ができなかったので、まわりは、そんな昇からオーラのようなものを感じていたのかも知れない。
――彼には近づいてはいけない――
 それは、女性だけではなく、男性にも言えることだった。
 昇は自分の発想が一度嵌ってくると、留まるところを知らないことに気が付いていた。
――俺って、いつも何かを考えているよな――
 それこそ、一つのオカルトっぽいことを、さらに発展させて考えている証拠であり、
――気が付けば、発想が膨らんでいた――
 というほど、無意識なことが多かった。
 発想とは、
――無意識な発展から生まれるものだ――
 と、普通の人とは少し違った発想をする昇だった。
 昇は次の日、駅のホームで電車を待っている時、
――本当に毎日見ている光景なんだが、今日は何かが違っているような気がする――
 と感じた。
 目の前に迫ってくる電車を想像できるはずなのに、その時は電車がホームに滑り込んでくる姿が浮かんでこない。それよりも、言い知れぬ恐怖が襲ってくるようで、それは頭を上げた時に、目の前に迫っている電車を感じたからだ。
 まるでホームに落下した自分が、目の前に迫ってくる電車を感じた時のようだった。ホームに転落し、ギリギリのところで頭を上げると、そこに電車があったのだが、その後どうなったのか、想像がつかなかった。
 きっと、死んでしまったのだろう。もちろん、実際に死んだわけではないので、夢の中での出来事だと思っていたが、そんな夢を見たという意識はなかった。いきなり突然に、想像の中に割って入ってきたのだ。
――自分の夢ではなく、誰かの夢が入りこんできた?
 夢の共有について、昇は考えたことがあった。
 誰か、自分の知らない人と、夢で共有しているのではないかと考えたことがあった。それは、デジャブのように、初めて見たものを、以前にも見たことのように錯覚してしまうことも、夢の共有によって説明がつきそうに思うからだ。
 夢を誰かと共有しているということを考えた時、デジャブ以外のことも、説明がつきそうな気がするのだ。不可思議なことを、一つの仮説がいくつも説明をつけられるのであれば、突飛な発想であっても、決して無理なことではないのではないかと思えてきたのだ。
 同じ日を繰り返していると感じた時も、
――誰かと夢を共有しているのではないか?
 と考えたこともあった。
 しかし、翌日になると、それが勘違いだったことに気付くと、夢の共有も必然的に考えなくてもよくなってきた。
 ただ、同じ日を繰り返しているという感覚が自殺菌と結びついて考えることができたり、午前零時を回ってすぐに繰り返していることに気付くと、前の日の記憶が消えずに残っていることを自覚していた。
 逆に考えれば、同じ日を繰り返している時というのは、
――昨日、どうしても忘れたくない記憶が残っている時――
 だと言えるのではないだろうか。
 そういえば、最近、前の日の記憶で、忘れたくないことがあったことを、日が変わってすぐに気が付くことがあった。そんな時は、ほとんど忘れてしまっているのだが、その時の口惜しさにも、次第に慣れてくるのを感じていた。
――慣れてくるのって、結構辛いことでもあるんだよな――
 と感じていた昇だが、自分を納得させるのと、どこが違うのか、分からなかった。似たような感覚でいることこそ、恐ろしいことだということに、気付いていなかったのだ。
 前の日の記憶を忘れたくないと思っている時、日付が変わると忘れてしまうのは覚悟の上だった。日付が今にも変わりそうだと言う時に、
――このまま忘れてしまいたくない――
 と念じれば、忘れることはないのだろうか?
 いや、逆に同じ日を繰り返してしまうという呪縛に捉われてしまうのかも知れない。それは、前の日の記憶に捉われるということが、まるで罪でもあるかのような発想なのだ。
 だから、同じ日を繰り返していることに気付くのは、日付が変わってからすぐでなければいけないのだ。時間が経てば経つほど、前日の記憶は薄れていって、意識しなければいけない時ほど、意識の中に溶けてしまうのだ。
 同じ日を繰り返していることに気付かないのはいいことなのか悪いことなのか、それは昇にも分からなかった。同じ日を繰り返すということは、前の日に、忘れてしまいたくない何かがある時なのではないかと、思うようになってきたからだ。もし、まったく気付かなければ、前の日の記憶はすべて消え去ってしまい、自分の中に残った前の日の記憶というのは、作られたものになるのだろうか?
 しかし、前の日の記憶がまったくないなど、想像したこともない。人と話していて、前の日のことを話題にしないとは限らないからだ。
作品名:二度目に目覚める時 作家名:森本晃次