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短編集21(過去作品)

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「ああ、よかった。お前さん、皆に知らせて来ておくれ」
 どうやら最初に声を掛けてくれた人がその場を仕切っているかのようだった。意識がハッキリしてくるにしたがって、自分が「助かった」という立場にいることだけは分かってきた。
「君はあそこの中にいたんだよ」
 指差した先で最初に目に付いたのは、壊れた南京錠だった。私は蔵の中に閉じ込められていたらしい。しかし、どうやって閉じ込められ、なぜ助かったかなどの詳しいことは忘れてしまった。教えてくれなかったのかも知れない。何しろ半分体力が衰弱していて、脱水症状になっていたことは自分でも分かっていた。いや、それ以外のことは頭が働かなかったのかも知れない。
 その時の南京錠は眩しく光って見えた。それまでは壊れていることもあって錆びかかっているのが印象的だと思っていたのに、そのことだけがあとから考えれば不思議だった気がする。
――本当に同じものなのだろうか?
 と思ったのも無理のないほどで、さらに、
――いつも遊ぶ場所だったかどうかも疑わしい――
 とまで思えてくるほどだった。
 金色に鈍重に光っているのが目に浮かぶ。光によって目に焼きついた残像は、目を瞑ればさらに強く残っている。次第に目の前にクモの巣のような線が現れ、視界が薄らいでいく。
 すでに見えなくなってきた瞼の裏を確認しようとすればするほど、ボヤけていた記憶に光が差して、
――今なら思い出せるかも知れない――
 という感覚に陥ってしまう。
 神経を瞼に集中させる。無意識に寄ってくる眉間の皺が、集中していることを悟らせてくれる。
 しかし、集中力を高めれば高めるほど、額に違和感を感じ、そこから起こるであろう頭痛を予感させられるのだ。
――やばい――
 そう感じた時はすでに遅い。眉間の皺を元に戻すにはすでに手遅れで、さらに緊張を高めるのはもはや本能による動きだけだった。
 目に残像が残っている間は、意識がハッキリしないだけで、他に身体の変調はない。しかし視界がハッキリしてくると、そこに入り込むように襲ってくるのは、激しい頭痛であった。
「ううう……」
 声にならない悲鳴が起きる。声になったとしても、そこは誰も来ない「開かずの扉」、気がつく人もいないであろう。なまじそこに誰かいたとしても気付かれるのを嫌っていたかも知れない。本当に痛い時というのは誰にも悟られず放っておいてほしいと思うからである。
――ある一点に集中すると、どうしようもない頭痛に襲われる――
――虫歯に悩まされている時のような、ズキズキした痛み――
 それがこの頭痛の特徴である。虫歯の時もそうだが、痛くてどこが痛いのか分からないほどになる。それは頭全体に麻痺したような状態が広がって、必死で痛みを分散させようとしているからかも知れない。しかしいくら気を散らせても印象として残った痛みの残像を忘れてしまわない限り、再度やってくる痛みの波に飲まれてしまうと結局痛みを増幅させるだけになってしまう。一時期だけでも何とか痛みを和らげようとする人間としての哀しい性を垣間見ているようだ。
 まさにその現象である。
 しかし私が気絶するほど酷い状態になるのは、何も頭痛からだけではない。
 時間を感じさせないほどの痛みが次第に治まってくると落ち着く暇もなく、次の苦しみがやってくる。
 意識がしっかりし始め、実際に痛いところを認識できる頃には、それまでの激しい痛みは、すでに通り越している。あまりの痛さに知らず知らずに大きくなっていた息遣いだけは、そのまま継続しているようである。
「はぁはぁ」
 息遣いの激しさを感じてくると、少しでも呼吸困難を乗り越えようと、無意識ながらに深呼吸をしている。
「スゥ〜ピィ〜」
 深呼吸によって脳の回転が活性化され、頭痛が弱まってくるのは間違いないのだ。深呼吸をしなければ、まだまだ頭痛は続くだろうと思う。
 だが、ある一点を過ぎると今度は気持ち悪くなってくるのが分かる。
 頭痛になる時は前兆があった。避けて通れないものだということで覚悟をしているが、気持ち悪くなるのには前兆がない。頭痛が治まってくる時に、
――ひょっとして気持ち悪くなるのでは?
 と感じることもあるが、身体が感じることではない。それだけにジワリジワリやってくる頭痛とは違い、意識し始めた時には、
――内臓がグチャグチャになるのでは?
 とまで思うことがある。
 頭に集中していた意識を急いで内蔵に持ってくるのは簡単なことではない。しかも苦しさを逃れるために使ったエネルギーは相当なもので、かなり衰弱している集中力はもうすでに限界を超えていることが多い、
――あぁ、このまま気を失うんだな――
 ス〜っと意識が遠のいていく。
――このまま床に倒れこもうか? どれが一番楽だろう――
 そこまでは意識として残っている。だが……。
 気がつくと仰向けになって倒れていて、数人の顔がシルエットになり、目の前には眩しい太陽があるのだ。
――限りなく白に近い黄色――
 という表現をしたらいいのだろうか? 気がついての最初の印象である。
――私が集中してから気絶するまでに何があるのだろう?
 時々考えることがある。
 普通に考えれば、頭痛の原因は何かに興奮しているからではないかと感じるのだが、そう何度も何かに興奮するものでもない気がする。それもいつも同じことに対しての興奮なのか、そして興奮の種類も同じものなのか、疑問が残る。
 興奮の種類といえば、怒りによるもの、そして欲によるものといろいろある。どちらにしても、神経をどこか一点に集中させることで起こることであって、その時々で集中させる場所も違ってくる。頭が痛くなるようなこととすれば、「怒り」から来るもののような気がして仕方がない。
 とにかく何かに集中しようとしているのに間違いないだろう。しかし何に集中しようとしてのことなのか分からない。頭の中にある潜在意識なのか、封印されていて夢にだけ出てくるような「トラウマ」のようなものなのか、どちらかであるという気がするのだ。
 喉に突っかえているが、すぐそばまで出掛かっているのを抑えている自分がいるような気もしている。
――今さらトラウマを引き出してどうしようというのだ――
 と……。もう一人の自分との葛藤が興奮の原因だという考えも成り立つのではないだろうか。
 そういえば薬を飲んでいたという記憶がある。
 薬の種類に関しては、今までであれば風邪なら風邪薬、頭が痛い時は頭痛薬としっかり教えられて飲んでいたのだが、その薬だけは種類を聞かされぬまま飲んでいたような気がする。それでも一度、
「これは一体何の薬?」
 と、母親に聞いたことがあった。
「……」
 何も言わずじっと私の顔を見つめていた母の顔を覚えている。言いたいのだけれど言わないのか目は潤んで、子供心に感じた、まるで哀れみにも似た表情を見ていると、それ以上聞く気力が失せてしまっていた。
 その頃から私は無意識に興奮を抑えるような性格になったような気がする。元々いじめられっこだった私は、喜怒哀楽を器用に表に出す術を知らず、気がつけばうちに篭る性格になっていたようなのだ。
 しかし考えてみれば、興奮し気絶して目が覚めた時に見た時の、
作品名:短編集21(過去作品) 作家名:森本晃次