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茨城政府

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「「天皇陛下万歳!」なんて言って突っ込んだ人はいない。」
 そんな思いつめたような、そして強い口調で語る祖父を初めて見ました。あの時の事が今でも強烈に焼きついています。
 後で祖父が語ってくれましたが、祖父の部隊は戦争末期、何度も特攻隊を送りだした部隊で、祖父が整備していた一式戦闘機「隼」も特攻機として九州へ飛び立っていったそうです。その中には悲しい切ない話もあって、私はカッコいい「けど」と思うようになり、カッコいいでは済まされない「あの時代」そのものへの興味を持つようになったんです。」
 篠崎は、時に大きく頷きながら熱心に話を聴いてくれている「聞き上手な」古川に、ジャーナリストという人種を感じながらも、古くからの友人と話しているような感覚が「憧れの作家」という距離感をいつのまにか消死去っていた。

「ところで、古川さんは、次にどんな作品をお考えですか?」
 会話も酒も進み、先生ではなく、古川と、知事と呼ばずに篠崎と読んで欲しい。という互いの希望が馴染んだ頃、篠崎は一番気になっていた事を切りだした。
「篠崎さんはWGIPって御存知ですか?」
「LGBTみたいなもんですか?これまた随分ジャンルを変えましたね。」
「性的少数派とか言うんでしたっけ?いやいや、それはいくらなんでも変わり過ぎですよ。」
 声を上げて笑った古川は真顔に戻ると、言葉を継いだ。
「War Guilt Information Program.
 つまり、戦争についての罪悪感を日本人の心に植え付けるための宣伝計画のことです。」
「どういう事ですか?」
 表情を切り替え、静かに語り出した古川に話しの続きを促す。
「GHQ、連合国軍最高司令官総司令部は御存知ですよね?
「もちろんです。」
 そんな事は昔から教科書に載っている。あのサングラスにコーンパイプで飛行機のタラップを降りるGHQ司令官マッカーサーの写真は有名だ。
「そのGHQが、太平洋戦争後の昭和20年からサンフランシスコ講和条約発効によって日本が主権を回復した昭和27年までの7年間に占領政策として行った「日本は悪だった。」という洗脳政策がWGIPなんです。」
 知らなかった。そんな計画があったなんて事を。
「いや、全く知りませんでした。」
 祖父の言葉以来、自分は、あの時代を知り尽くしてきたつもりだった。目につく限りのありとあらゆる本を読み漁り、ドキュメンタリーから映画までなんでも観た。だが、まだまだ知らない事があったとは。 唖然とした篠崎は、空になっているのも忘れグラスを呷る。
「まあ、無理もありません。」
 篠崎のグラスに瓶ビールを注ぐ古川はゆっくりと口を開いた。
「私だって、あの時代の戦記物を書くようになって知った事です。「もし、あの時に、こうしていれば」といったif戦記がメインですが、「if」だからこそ、その時代の背景、状況、人物を深く勉強しなければならない。知っているつもりでしたが、もう一度勉強しなおしたんです。その中でWGIPを知ったんです。」
 ビール瓶を戻した古川は、ビール瓶の結露で濡れた手の平をテーブルのおしぼりに撫でつける。
「日本人を「軍国主義者」と「国民」に分離し、この対立を潜在的に擦り込んでいくことによって、実際には日本と連合国、特に日本と米国とのあいだの戦いであった大戦を、現実には存在しなかった「軍国主義者」と「国民」とのあいだの戦いにすり替えようとしたものです。これで私はしっくりきました。戦後の自虐史観ともいえる歴史教育がね。」
 古川は、水割りをひと舐めすると、さらに続ける。
「東京裁判、正式には極東国際軍事裁判ですが、これが最たる例だと思うんです。あの裁判は、「平和に対する罪」をA級犯罪、捕虜虐待などの「通常の戦争犯罪」をB級犯罪、「人道に対する罪」をC級犯罪として日本人を一方的に裁きました。
 勝てば官軍という言葉の通り、勝者による敗者へのリンチ。復讐裁判などなど、その不公平さは後世まで語り継がれましたが、私は最近WGIPの存在を知った事で、その陰で真の目的が隠されていることに気付き、そして納得したんです。
 戦争はあってはならない事です。しかし、国を守る事さえ悪と断じてきた戦後日本、戦前の日本は悪だったと、謝罪し続ける日本。どうしてここまで戦後日本人は、誇りを失い。戦前の日本を軽蔑し、他国に対して自らを貶めることに躊躇しない「国を愛せない国民」になってしまったのか、
 A級戦犯つまり「平和に対する罪」が最たる例です。「平和に対する罪」は、事後法なんです。その戦時中は「平和に対する罪」という罪はなかったんです。
 例えば、今日から「自転車に乗るためには免許が必要になった。」としましょう。常識で言えば、今日から免許なく自転車に乗ると無免許で罰せられますよね。昨日までは無免許で自転車を運転していても咎められることは無い。
 しかし、A級戦犯で有罪になった人々は、「あなたは昨日まで免許がないのに自転車乗っていたから処罰する。」と言われているのと同じなんです。事後法で裁くというのはそういうことです。だから、本来ならば裁判は成り立たないのです。それでも日本はサンフランシスコ平和条約で、全てを受け入れてしまった。
 A級戦犯となった人々が訴えてきた大東亜戦争は「自存自衛のための戦争だった。」ことや「大東亜共栄圏」など、日本の正当性に関する訴えは全て闇に葬り去られてしまったのです。そしてアメリカによる東京大空襲などの都市への無差別爆撃や2度に及ぶ原爆投下など、民間人を狙った虐殺行為はどうなんだ。という声も響かない。」
 ここで言葉を切った古川は、水割りを飲みほした。
「なるほど、確かに客観的に戦後を振り返ると、日本人なのに日本を好きじゃない。戦前のような日本という国に対する一体感がない感じがしますね。
それに「大東亜戦争」という言葉は教科書には出てこない。太平洋戦争と習ってきましたよね。」
 篠崎の挟んだ言葉に古川は大きく頷いて後を続けた。
「そうなんです。古川さんの言う通り「大東亜戦争」なんて言葉は歴史のどこにも出てこない。ニュースや新聞でも太平洋戦争。と呼んでいますね。でも、「太平洋戦争」を戦った日本人は1人もいないんです。当時の日本人は「大東亜戦争」を戦ったのですから。そもそも戦後GHQによって「大東亜戦争」という呼び方が軍国主義と切り離せないという理由により使用が禁止されて強要されたのが「太平洋戦争」という呼称なんです。
 GHQ、連合国、東京裁判への批判や、大東亜共栄圏の宣伝の禁止など30項目に及ぶ禁止事項を定めたプレスコードなど、当時の日本は完全にGHQに言論統制されていたんです。もちろん原爆に対する記事も発禁処分になったそうです。もっと言えば、戦後日本人が誇りにしている平和憲法、あれだって大元は占領軍が作った憲法で、日本人が手を加えた後も、しっかりと占領軍の検閲が入ってるんです。全てが占領軍にコントロールされていた。」
 
作品名:茨城政府 作家名:篠塚飛樹