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茨城政府

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 だから簡単にifは語れない。
−だが、−
 だが、今回は違う。先日の環境エネルギープロジェクト会議で、つくば大学の高砂教授が言っていた「時空転換装置」を使えば「もしかしたら。」と思ってしまう。
 
 「時空転換装置」この理論を達成するためには、膨大なエネルギーが必要になるのだそうだが、それを、「加速器」から取り出すことが可能になったのだという。加速器は、荷電粒子を加速する装置で、直線型や、周回型のコースで光の速さ近くにまで加速させ膨大なエネルギーを作り出す。茨城には、つくば市、東海村、大洗町にその施設がある。
 技術的な会話が高まって来ると、興奮気味に早口になる高砂教授の話し方が、難解な内容に拍車を掛け、工学部系出身の篠崎にも殆ど理解不能だった。ただ、この装置の機能だけは、かなり興味深いものだった。「時空転換装置」は、将来の環境汚染を見据えて、大気、海水、河川、湖沼などを汚染の無い過去のものと入れ換えることで浄化する。というもので、聞く限りでは、過去に汚染を押しつける「無責任な装置」だと篠崎自身、批判しそうになった装置のコンセプトだが、過去と入れ換える汚染物資の量を自然の自浄作用で浄化できる量に制限する事で、現代の汚染物質を現代と過去に分散することで自浄作用により浄化する。という画期的なものだ。
 
 どんな代物なのか詳細は不明だが、「時空転換装置」を用いれば、『慰霊艦隊』をあの時代に派遣できるのではないか?
 そうすれば、タイムスリップ物のif戦記よりも遥かに現実的な方法で大逆転を実現できるのではないか?もはやifではなくなる。
 
 そう思い至った時点で、我に返った。
 小さな子供に笑顔で説明している自衛官が目に入る。
−俺は、何を馬鹿な事を考えてるんだ。−
 これはゲームじゃない。if戦記などの娯楽でもない。この艦を動かす自衛官には、家族もあり、将来もある。
−警察に警備を頼めないだろうか。−
 と語った高砂教授の心配の種は、そういう事なのかもしれない。
−やはり出来るのか、タイムスリップが。−
 過去と大気や水を入れ換えることが出来るなら他の物も出来るのかもしれない。
 これは大変な事になる。
−太平洋戦争−
 開戦から80年、日本はアメリカとどう戦えばよかったのだろうか?
 太平洋戦争の開戦以来、何百万の人々の血と涙を呑み込み、或いは山河から流れ込み湛えてきたきた海、太平洋。篠崎は眼下の海面を見つめる。
 80年目の海は深く静かにそこにあるだけだった。

作品名:茨城政府 作家名:篠塚飛樹