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狭間世界

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 と言われ、
「判官びいき」
 という言葉があるのを中学になって知ったが、小学生の頃の自分が悪役に思い入れていたのも、その判官びいきのせいだと思えなくもなかった。
 そうであれば、
――俺も結局は製作者の策にまんまと嵌ってしまったようなものだ――
 と思わないわけにはいかなかったが、後から思うと、
――それもいいかな?
 と思えた。
 悪役を引き立てるのにユーモアが使われていることで、祐樹は自分を正当化できた。この心境は自分だけではないのかも知れないが、この場合はそれでもよかったのだ。
 目立ちたいと考えている人を見ていると、
――何やってんだ――
 と、見るに堪えないように感じられた。
 他の人はそこまで執着はしないだろうが、目立とうとしている人に嫌悪を感じてはいるだろう。
 しかし、思っていても顔に出さないことが本当にいいことなのか、祐樹には疑問だった。――相手に気持ちを隠そうとするのって、卑怯なんじゃないか――
 と考えたが、最初はさすがにこの考えは、少し強引ではないかと思えた。
 そう考えることがではなく、
――卑怯だ――
 という言葉に祐樹は自分で反応していた。
 人から、
――卑怯者――
 といわれると、きっと指先に痺れが起きてしまうほど悔しい思いをするに違いない。そんなことは分かっているつもりなので、あえて卑怯という言葉を自分の辞書の中から消したいと思うようになっていた。
 だが、祐樹は自分の気持ちを知られたくないと思っている。当然矛盾した考えなのだが、本人は、
――矛盾ではない――
 と思っている。
 それは自分を天の邪鬼だと思っているからで、祐樹の中では天の邪鬼という存在は、必要悪のようなものだと位置づけられていた。
 ヒーローに憧れた子供の頃には、目立ちたいという意識はなかったが、ヒーローを見ていて、
――格好いい――
 という意識だけがあったのは覚えている。
 悪役が気になるようになってからは、ヒーローに、
――わざとらしさ――
 を感じた。
 それはセリフに対してで、昔からよく言われていた。
「悪の栄えたためしはない」
 だったり、
「俺たち○○戦隊がいる限り、この世に悪は栄えない」
 などと言った、どこかで聞いたようなセリフが横行していた。
 もちろん別の作品なのだから、少しずつ言葉を変えているのだろうが、相手が子供であっても、気がつくというものだ。
――それを分かっていてセリフを決めている人も、いい加減なものだ――
 と感じていた。
 だが、嵌って見ていた頃の自分は、そこまで気付かない。本当に術中に嵌ってしまっていて、後から思い出すと、苛立たしいやら、恥ずかしいやらで、顔が真っ赤になり、
――穴があったら入りたい――
 という心境になったことだろう。
 中学生になってから、そんな恥ずかしい思いを抱くようになっていたはずなのに、時々、自分はまるで正義のヒーローにでもなったかのようなセリフを吐いていたのをまた、それからしばらくして思い出すと、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
 今度も苛立ちを感じたが、それは気付かずにまわりから指摘されても、すぐに分からなかった自分の馬鹿さ加減に覚える苛立ちだった。
――今回は誰が悪いわけではない――
 という思いがあったからで、しかも、相手を著しく傷つけていたということに後になってからしか気付かなかったことへの苛立ちだった。
 あれは、中学二年生の頃のことだった。
 そろそろ三年生になろうかという頃、グループの中のおかしなわだかまりが抜けてからのことだった。
 わだかまりは、しばらく続いた。
 自分とグループリーダーとの確執に結びついた、それぞれに、
「相手には黙っていてほしい」
 と言った連中を、そのまま受け入れるかどうか、最初は悩んでいた。
 しかし、グループに一人の男性が入ってくれたおかげで、わだかまりは少しずつではあったが、瓦解していった。
 彼は、クラスの中でも誰からでも好かれるような、まるで聖人君子のような人だった。彼の存在は意識していたが、
――自分とは住む世界の違う人なんだ――
 と思うことで、彼と友達になるなど、考えられないと思っていた。
 名前は天神君といい、まさしく神の力を宿しているのではないかと思えるほどだった。
 だからといって、不思議な力を持っているというわけではない。実に普通の男の子ではあったが、何でも平均的にこなしていた。
 何かが突出して優れているというわけでもなく、何かが目立つというわけでもない。
 誰にでも愛想がいいのだが、なぜか彼は存在だけで目立っていた。
「あいつは生まれながらの中心にいるような男なんじゃないかな?」
 と瀬戸は言っていたが、最初はそのことを認めたくなかった祐樹だったが、瀬戸の言葉を聞いていると、まんざらでもない気がした。
 確かに天神の言い分はすべてに間違いがないが、どうして目立つのか分からなかった。瀬戸のいうように、中心にいる男だと思えば認められないこともないのだが、中心に彼を据えることにどこか違和感があった祐樹には、すぐに瀬戸の言葉を信じることができなかった。
 それでも認めざるおえないと感じたのは、天神の態度からというよりも、やはり最後は瀬戸の言葉だった。最初に言った
「生まれながらの中心にいる男」
 と言う言葉だけが瀬戸の天神に対しての評価だったが、その一言が、最後になってやっと効いてきたのだった。
 天神がグループに入ってくると、なぜか他にも、
「グループに入りたい」
 という人が続出した。
 中には女性もいて、初めての女性に、メンバーは嬉々としたものだが、少しずつ大所帯になってくるのを、祐樹はあまり喜ばしいことだとは思えなくなっていた。
 しかし、最初のわだかまりは、天神が入ってきたことでなくなってしまった。
 どさくさにまぎれてしまったわけではない。意識してはいたはずなのに、不思議とぎこちなさが消えてきた。
 きっと、皆の視線が天神に向いてきたからではないかと思う。
 最初はお互いにまわりの人を放射状に見てしまっていたので、一人ひとりがぎこちないと、皆の距離が縮まることはない。しかし、同じ放射状でも、誰か一人が中心になり、傘の柄の部分になることで、一つにまとまるのだ。
 その役目を担ったのが、天神だということになる。奇しくも、
「あいつは生まれながらの中心にいるような男なんじゃないかな?」
 と言った瀬戸のセリフが、メンバーの危機を救ったことになるのだ。
 天神は、それでも目立つことはなかった。ただ、それはグループのメンバーとしてであって、個人個人では、それぞれに友情を育んでいるようだった。
 元々、天神を慕って入ってきたメンバーで増えたグループなのだ。彼らにしてみれば、個人的に仲良くなるのが苦手な連中にとっては、グループの中の一員として仲良くなる道の方がどれほど簡単であるか分かっていたからであろう。
 ただ、グループのリーダーは自他共に瀬戸であり、そのことをわきまえながら、グループは構成されていた。しばらくの間は、その立場が功を奏したのか、メンバーに平穏な日々を与えていた。
「このグループは癒しになるわ」
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次