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狭間世界

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 祐樹のように疑った目で見ればいくらでもあらを探すことはできるというもので、それを考えない番組スタッフは、よほど子供をバカにしているのではないかと思うほどだった。
 中には祐樹のように疑念の目で見ている人もいるだろう。映し出される映像をまるで茶番のように感じながら見ている人は、それはそれで面白く見ているのかも知れない。しかし、祐樹には、面白く見ることはできなかった。それだけ真面目なのだろうが、融通が利かないともいえるだろう。
 それでも見ていたのは、他にすることがないだけで、そのうちに、スタッフの考えまで、想像するようになっていた。
 疑念の目で見ている他の連中は、面白く見るところで、それ以上考えようとはしていない。なぜなら、それ以上を考えてしまうと、せっかく面白いと思っていることを、一度打ち消して、再度見つめ直さなければ、それ以上先に進めないからだ。
 真面目になってしまうと、自分がその番組を見る意味がなくなってしまうと考えるからで、なぜ見るのをやめないのか分からないが、彼らにも彼らなりの執着が番組にあるのかも知れない。
 祐樹は、特撮番組を自分なりに分析してみた。
「まず、やっていることがワンパターンであること」
 このことは、特撮番組に限ったことではないが、ワンパターンの番組のいいところは、きっと、視聴者に余計なことを考えさせないで済むところではないかと思った。
「どうせ、子供が相手なんだから」
 という思いがあるとすれば、それは憤慨に値することであるが、実際に小学生の途中までは、ワンパターンに対してなんら疑念を抱くことはなかった。
 正義のヒーローに憧れるという心境は、ここからきていると考えるのが一番無難なのかも知れない。
 ヒーローのセリフも毎回同じで、彼らのキャッチフレーズだった。
――まるでアイドルのようだな――
 グループを結成しているアイドルは、それぞれにキャッチフレーズを持っていたりする。たくさんの人がいる中で自分という個性を表に出すにはキャッチフレーズが不可欠なのか、当然のことだろう。
 戦隊もののヒーローは、それぞれに自分の色を持っていて、ずっと続いてきた理由の一つに、色というものがヒーローの性格を表しているからだろう。
「赤と言ったらリーダーで、青と言ったら……」
 という具合にである。
 そうでなければ、四十年近くも毎年新しい戦隊ヒーローが生まれるわけもない。長寿番組として認定されてもいいくらいだ。
 祐樹は、
――俺だったら、どれになるんだろう?
 と考えた。
――目立たない緑なんじゃないかな?
 と思ったが、その時ハッと思った。
――どうして、どれがいいって考えなかったんだろう?
 普通であれば、
――赤に憧れるよな――
 と思うのだろうが、そうは思わなかった。
――そんな大それたこと――
 と感じたのだ。
 しかし、どう考えても自分が赤であるわけはない。憧れるにしても、自分の技量をわきまえなければ憧れたとしてもなれるわけはないと、結局は断念しなければならない。それまでに使う時間と精神的な労力を思うと、とても耐えられないだろう。
「子供なんだから、もう少し夢を持てよ」
 といわれるかも知れない。
――しかし、夢ってなんだんだ?
 そう思わないわけにはいかない。
 夢を見るにしてもできないことを追いかけることは、無理なのだ。寝ていて見る夢でも同じこと、
――寝ていて見る夢だって、気持ちの中で絶対にできないと思うことはできるはずはないんだ――
 ということは分かっている。
 あれはいつのことだっただろうか、祐樹は空を飛ぶ夢を見たことがあった。
 高いところから飛び降りようとしていたのだが、いきなりどうしてそんなシチュエーションになったのか分からない。ただ、
――これは夢なんだ。夢だということが確定しているんだから、飛ぶことだってできるはずだ――
 と考えた。
 しかし、実際に飛んでみると、宙に浮くことはできても、自由に飛びまわることはできない。潜在意識の中で、
――人間は空を飛ぶことはできないんだ――
 と感じているからだった。
 それに、夢であることが確定していると思っていても、飛び降りてどうなるかということは確証があるわけではない。そう思うと、足も竦むし、飛び降りる勇気とは別の神経が自分を惑わしているのを感じた。
 それは、明らかに怖がっているということである。勇気が持てないということは、その恐ろしさを証明していることであり、それ以上、どうしようもないからだ。
 本当なら飛び降りるなどありえないことなのに、飛び降りてしまうのは、夢独特の精神状態が存在しているからなのであろう。
 祐樹はそれを、
――もう一人の自分に、背中を押されたからだ――
 と感じたのだった。
 どんなに夢だという確信があっても、自分を傷つけるかも知れないと思うことは、夢の世界でも実現は不可能なのだ。
 そこまで考えてくると、祐樹は自分がどれほど精神的に冷めた考えを持っているのかということを思い知った気がした。戦隊もののヒーローをテレビで見ながら、冷めた目で追いかけてしまうのも、仕方のないことだ。
 しかも、他の人とは一緒ではないという自負がさらに冷めた目を加速させ、次第に自分を孤立させていった。
 さらに、空を飛ぶ夢を見たのは一度ではなかったような気がした。夢を見ながら、
――以前にも同じような思いをしたことがあったような気がする――
 というデジャブ現象のようなものを感じた。
 そして、この夢を最初に見たのがいつだったのかということも、ハッキリとしなかったのだ。
――戦隊ものへの意識があった小学生の頃だったのか、それとも、実際にはつい最近のことだったのか?
 と、記憶の曖昧さを今更ながら痛感していた。
 また、こんなことも頭の中にあった。
――目立ちたいなんて、俺には無縁なんだな――
 と考えたが、そのうちに不思議な感覚に襲われていくのを感じた。
 あれだけ、戦隊ものでは悪役に思い入れしていたはずなのに、正義のヒーローのセリフだけが頭の中に残っていた。
「正義は必ず勝つ」
「悪の栄えた試しなし」
 戦隊ものの始まった初期の頃からのお馴染みのセリフのようだが、祐樹はそのセリフが頭に残って仕方がなかった。
 偽善者とまでは言わないが、ただ、悪だと判断されたものをやっつけるという単純明快なストーリーの、決まり切ったセリフなど、どこが面白いというのだろう。
――他の子供は騙せても、俺は騙されないぞ――
 と思っていた。
 ただ、アニメの世界になると、ギャグ的な要素を持った番組で、正義のヒーローよりも、悪役の方がスポットライトを浴びている作品もあった。
 悪役は必ず負けるのだが、彼らにも悪役として登場するだけの理由がハッキリとあり、戦隊ものでは決して語られることのない裏のえっぴソードなどが、この番組の根幹だったりする。 ただ、それはユーモアを交えたものでなければいけなかった。道徳的なものもあるのだろうが、悪役というのは、どうしても悲哀に満ちたものとなるのが当然であろう。そう思うと、彼らの言い分をどのように成立させるかが焦点である。
「日本人というのは、敗者に弱い感情を持っているからな」
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次