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狭間世界

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「若槻君は、それをきっと意地だと思っているんだろうね。でも、それを意地だと思っている間は、相手のことを他人事のようになんて見ることはできないのさ。冷静な目で見て、表情に考えていることを出さない。それが他人事であり、結構難しいことなんじゃないかって僕は思うんだ」
「君はどうして、グループには入りたいけど、瀬戸には黙っていてほしいって言ったんだい?」
「実は瀬戸にも君に対して黙っていてほしいって言って、グループに入りたいと言ってきた人がいただろう?」
 彼はそのことを知っていた。後から聞いたのか、それとも最初から知っていたのか、それが問題だと思った。
「ああ」
 どうして彼が知っているのかを考えるとゾッとした。
 二人だけのグループだったはずなのに、
――いつの間にかすべてがまわりに筒抜けになっていたのではないか?
 と思うと、背筋がゾッとしたのだ。
「僕は最初から分かっていたんだよ。というよりも、そいつと僕とはグルでね。お互いに相手に知られないようにグループに入りたいって、持ちかけたのさ」
「そうだったんだ」
 と、感心したが、考えてみれば間抜けな話だった。
「大体、グループに入りたいと言っているのに、もう一人のメンバーに少しの間黙っていてほしいなんておかしいだろう? 妙だとは思わなかったのかい?」
 と言われて、祐樹はその時のことを思い出そうとしていた。
――あの時、俺は他人事のように聞いていたような気がするな――
 と思ったが、そおことは口が裂けても目の前の彼には言えないと思った。そんなことを言えば、
「お前は、人の話を何だと思っているんだ」
 と言われると思ったからだ。
 しかし、元々欺くような態度で接してきたのは相手の方ではないか。会話が始まってからすでに祐樹は彼の雰囲気に呑まれて、萎縮してしまっていたのかも知れない。
――萎縮?
 グループに入りたいと言ってきた彼が、
――おかしなことを言う――
 と思った時、急に怖くなったのを思い出した。
 その感情が自分を萎縮させ、萎縮が他人事の感情を浮かび上がらせ、その時の感情が、――他人事のようだった――
 と感じさせたに違いない。
 二人がグルだということを聞くと、祐樹は、
――俺だけが蚊帳の外で、何も知らずに踊らされていたんじゃないだろうか?
 と感じた。
 そう思うと、
――グループの発起人は自分である――
 と思っていたのに、本当は、自分以外の二人と瀬戸が最初から画策していて、こんな形のグループ結成になったのではないかと思った。
 だが、そこに何のメリットがあるというのだろう?
――ひょっとすると、俺がおだてに弱いとでも思って、担ぎ上げることでグループの均衡を保てると思ったのかも知れない――
 と感じた。
 確かに、おだてに弱いところはある。
 萎縮してしまうことが多いと、えてして、おだてられると、相手の言葉を信じてしまうことが往々にしてあったりする。
 そんな自分を祐樹は、意外と嫌いではなかった。
「おだてられて実力を発揮する人間の発揮した実力は、本物ではない」
 と言う人もいるが、祐樹はそうは思わない。
「おだてられて実力が発揮できるのであれば、それがその人の実力だ」
 と思うからだ。
 そしてその実力は、まわりの役に立つものだと信じている。ただ、祐樹のように萎縮してしまって、他人事のようにしか思えなくなってしまうと、せっかくの実力の半分も発揮できなくなってしまうと思っていたのだ。
 彼はそのことにも触れた。
「瀬戸君は、若槻君の実力を認めてはいたんだよ。それがどんな実力なのかは、決して口には出さないんだけどね。でも、相手の実力なんていうものは、人から聞かされて感じるものではなく、自分から体感で感じるものだって僕も思っている。だから、それ以上は聞かなかったんだけど、瀬戸君は決してウソをついたり、人を持ち上げたりする人間ではないので、信用はできるよね」
「そうだね、瀬戸は決して人を持ち上げたりしないよね」
 と、反復するように、自分に言い聞かせながら、祐樹は答えた。
――なるほど、人を持ち上げることができないので、こういうまわりくどいやり方をしたんだろうか? 途中紆余曲折を繰り返しながら、最後には真理に持っていくようなやり方が彼のやり方なのかも知れない――
 と感じた。
 しかし同時に感じたのは、
――最後にはというけど、「最後」ってどこなんだろう?
 と感じた。
――物事には始まりがあれば終わりがある。始まりや終わりに気付く人には分かるのだろうが、始まりも終わりも気付かない人には、何もなくその場を通り過ぎる、始まりがあって終わりを感じないことは多いかも知れないが、始まりを感じることなく終わりだけを感じるということはあるのだろうか?
 まるで禅問答のような考えが、祐樹の頭の中を巡っていた。
 その頃から、また少し人を信用できなくなっていた。子供の頃には人が信用できなかったので、楽しみというと、家に帰ってテレビを見ることだった。戦隊もののヒーロー特撮だったり、アニメだったりと、同年代の子供が見ているものとさほど変わりはなかったのだろうが、祐樹は心の中で、
――他の連中とは違った目で見ているんだ――
 と思っていた。
 どのように違った目なのか、他の人がどんな視線で見ているのか分からないはずなのでハッキリ言えるわけはないのだが、それでも、
――違うと思うことが重要なんだ――
 と祐樹は信じていた。
 思い込むことが大切で、番組を見ているうちに次第にヒーローに思い入れを深めていったが、ふと考えると、
――これだったら、他の連中と同じではないか――
 と考えるようになった。
 それなら、悪役の方に思い入れを深めればいいことで、悪役を見ている自分が次第に正義のヒーローこそ、悪者に見えてきた。
――悪役の役の作り方がわざとらしい――
 と感じるようになり、ヒーロー番組が主役であるヒーローを引き立てるために、他の登場人物が存在しているだけではないかと思えてきた。
 そう思うと、道徳であったり、平等や平和を口にしている連中が偽善者に見えてきたのだ。
 テレビの悪役も、
――どうしてそこまで人間に悪さをすることに執着しなければいけないんだ――
 そう思ってくると、悪の結社の言い分は世界征服などと言いながら、やっていることは、ごく局地的で、しかも決まった人間だけに向けられるものである。
 また、巨大化したロボットなどが街で悪のロボットと戦っているのだが、平気で街を壊している。
 本当であれば、人の生命や財産を、守るはずなのに、足を踏み出しただけで、ビルのいくつも破壊されてしまっている。どうして、誰もいないところで戦闘しようとしないのか、これも大きな疑問である。
 実際に、人間と同じ大きさの時は、街中での戦闘は行わず、崖のある荒野のようなところでしているではないか。
 当然、セットの問題や撮影の許可など、制作側の都合によるものなのだろうが、見ているいたいけな子供にそんなことが分かるはずもない。
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次