小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

狭間世界

INDEX|5ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 と感じたが、考えてみれば、秀才や天才と呼ばれる人というのは意外と孤独だったりするのではないだろうか。大学生になって、授業で心理学を受けた時、教授が余談でそんな話をしていたのを、後になって思い出し、中学時代の大学時代でかなりの時間差があるにも関わらず、その話を聞いたことの前後関係が曖昧な気がしていたのだ。
――昨日のことよりも、一週間前のことの方が、まるで昨日のことのようだ――
 と感じることは往々にしてあった。
 定期的にあると言ってもいい。それはきっと、印象の深さが、時系列に優先することがあることを、最初から自覚していたからなのかも知れない。
――瀬戸には、カリスマ性があるのかも知れないな――
 と感じたが、そのわりには、他の人が惹き付けられるわけではない。どちらかというと避けられているように見えるくらいで、祐樹も彼から話しかけられなければ、避けていたに違いない。
「どうして、俺に話しかけてきたんだい? 他にもっと話しやすい人はいるだろうに」
 と、一度聞いてみたことがあった。
「うん、でも、他の人は見ていると、明らかに僕を避けているように感じたんだよ。話しかけると、気軽に話を返してくれたかも知れないけど、そんな関係は長くは続かないような気がしたんだ」
「俺だって、同じかも知れないじゃないか」
「若槻君は、一見話しかけにくそうに見えるけど、一度分かり合えると、なかなか離れられないような関係になりそうな気がしたんだ。最初に話しかけた時だって、本当はすごく緊張したんだぜ」
 と言っていた。
「そうかな? 俺にはそうは感じなかったけどな。いきなりだったので、後ろを向きながらの返事だったように思えて、今から考えると悪いことをしたなって思っているんだよ」
 というと、
「確かに、最初だけは誰もが同じリアクションを示すと思うんだけど、問題は次なんだ。そのまま後ろを向いてしまう人にはいくら話しかけても同じことで、その時は何とか繕っても、二回目はないのさ。それに比べて若槻君は、驚いた反動ですぐに前を向いてくれた。そして後ろを決して振り向こうとはしなかったんだよね」
「それは誤解さ。俺は今までずっとまわりに対して萎縮してしまっていたので、本当は後ろを向くのが怖いのさ。後ろを向いている間に何されるか分からないと思うと、怖くて後ろなんか向けないさ」
 と正直に話すと、
「そうだろうと思ったよ。でも、そのおかげで僕には話しやすかったし、他の連中のように一目置いているふりをして、実際には敵対心をむき出しにしているようなことはないんだ。若槻君は、本当は勇気があるんだって思っているんだ」
「祐樹だけに?」
 と言って笑うと、
「そう、ゆうきだけにさ」
 と、二人で笑いあった。
 その時、祐樹は彼に一目置いている連中と違って、自分が彼にカリスマ性を感じていることに気がついた。
「とりあえず、二人きりだけど、グループのようなものだね」
 と祐樹がいうと、
「グループと呼べるかどうか……。でも、君がそう思うのなら、それでいいんじゃないか」
 と瀬戸がいう。
 そんな関係が一月ほど続いただろうか。そのうちに瀬戸に話しかけてくる人が少しずつ増えてきた。
「僕もグループに入れてほしいんだけど」
 と、最初に言ってきたのは、無所属のやつだった。
 彼は、最初、
「若槻には少しの間、内緒にしていてほしいんだけど」
 と言っていたようだ。
「分かった」
 瀬戸は、その申し出を簡単に受けた。そして、約束どおりしばらくの間、このことを祐樹には内緒にしていた。
 すると今度は祐樹に、
「グループに入れてくれないか?」
 と、別のやつが言ってきた。そしてそいつも同じように、
「瀬戸にはしばらくの間、内緒にな」
 と言ってきた。
 祐樹も、瀬戸と同じように内緒にしていた。つまりは、二人は揃ってお互いに相手に対して秘密を持ったのだ。
 最初に耐えられなくなったのは、祐樹の方だった。
「実は俺に対して仲間に入りたいと言ってきたやつがいて、そのことをお前に黙っていてほしいと言われて今まで黙っていたんだ。本当に申し訳ないことをした」
 相手の名前は明かさなかったが、正直に話すと、瀬戸も、
「実は」
 と言って、胸の奥にしまいこんでいたことを話してくれた。
「お互いにスッキリしたよな」
 と言って、腹を割って話したことをすがすがしい気持ちで安堵のため息を漏らした。
「これからどうする?」
「もう少し、お互いに知らなかったふりをしようぜ」
「うん」
 二人は、知ってしまったことで、態度を変えるようなことはなかった。それよりも、今まで何も言わないことがわだかまりのようになっていた気持ちが開放され、今度は、
――知っているのは自分だけではない――
 という孤独ではないという気持ちの余裕から、今までわだかまりを作らせた原因となった連中を欺くという、
――してやったり――
 の気分になっていた。
 二人に対して他の連中が同じような態度を取ってきたのは、
――俺と瀬戸が対等な立場にまわりから見えていたからではないか――
 と思っていた祐樹だったが、実際には違っていた。
 これも、その時に気付いたわけではなく、もっと大人になって、そう、大学時代に始めて思い出したかのように気付いたことだった。
 祐樹が感じていたように、瀬戸にはカリスマ性があった。
 そしてそのカリスマ性は、瀬戸を最初に意識したのが、彼から声を掛けられてからだった祐樹に比べて、最初はまわりから注目していた連中からすれば、祐樹が感じたよりも数倍の威力に感じられたようだ。
 まるで後光が差しているかのようで、お釈迦様かキリスト様かとでもいうようなカリスマ性に近かったのかも知れない。
 しかし、どうしても距離を置いて見るため、その感じ方は人それぞれだった。レベルの違いもあり、そのカリスマ性に対しての対応も、違っていたに違いない。
 だからこそ、直接瀬戸に話しかけるやつもいれば、瀬戸と一定の距離を保てるように、祐樹に近づいてきたやつもいる。
 そこから先はきっと同じ目線になったのだろう。お互いに、
「相手に知られないようにしてほしい」
 と懇願したのは、そのためだったに違いない。
 しかし、二人にいえることは、二人とも、カリスマ性を持った瀬戸の存在を大きく感じたのは、祐樹という男の存在があったからだ。
 その証拠に祐樹が瀬戸から声を掛けられるまでは、誰も瀬戸に近づこうとはしなかった。ひょっとしてカリスマ性のようなものを感じていたのかも知れないが、眩しすぎて、それが海のものとも山のものとも分からずに、ただ、
――近寄りがたい――
 と感じていたのかも知れない。
 そんなまわりの目に対して、背とは殺伐としたものを感じていたのだろうか。
「一人でいるのが、無性に怖くなることがある」
 と、あの瀬戸が言っていたことがあった。
「怖くなる? 寂しくなるではなく?」
「ああ、怖くなるんだよ。痛いほどの視線を感じることもあって、逃げ出したくなることもある。まるで一人夜道を歩いている時、大きな壁全体に巨大な人影を見た時のような感じだといってもいいかな?」
 と言われて、祐樹は想像してみたが、
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次