狭間世界
という人がいるわけでもなく、皆自由だった。自由な風潮を楽しむグループが、その時は主流になっていたが、まわりから見ていると、どのグループにもリーダーシップの取れる人はいるようだった。
――やっぱり、カリスマ性のようなものがなければいけないんだ――
と感じたのは、カリスマ性の感じられないグループが、いつの間にか解散しているのを感じたからだった。
だが、最初にできたグループのリーダーと、その後にできたリーダーシップを発揮する人が見え隠れするようなグループとでは、何かが違った。それがカリスマ性であることは分かっていたが、どうもそれだけではないような気がしたのだ。
誰が見てもリーダーだと言える、自他共に認める人は、きっと目立つ存在でないとありえないのだろう。
リーダーシップだけを取ることのできるカリスマ性のある人にとっては、目立つ存在であっても、目立たなくてもどちらでもいいと思えた。
しかし、結論から言うと、実際には逆だった。
誰が見てもリーダーである人は、
――目立つ人であっても、目立たない人であってもどちらでもいい――
という人であり、リーダーシップだけを取るカリスマ性のある人は、
――目立つ存在であってはいけない――
という縛りがあったのだ。
つまりは、カリスマ性には縛りが存在しているということになる。
もちろん、この考え方は、祐樹だけのものであり、
――他の人に話すと笑われるだろうな――
と思うに違いなかった。
まわりに対して萎縮していたり、まわりを他人事のように感じていた祐樹だったので、縛りがあっても、そこに問題は感じられない。むしろ、縛りのない方が、自分にとっては怖い気がしたので、その思いが自分を、
――カリスマ性のある人間だ――
と感じさせたに違いない。
では、カリスマ性とは一体なんだろう?
人を引っ張っていく力であり、そのことを相手に感じさせないことがカリスマ性のように思っていた。
しかし、実際に調べてみると、
――預言者・呪術師・英雄などに見られる超自然的・または常人を超える資質のことを指す――
と書かれていた。
つまりは、人を引っ張っていくというよりも、宗教的な意味合いの方が強く、
「支配」
という言葉と結びついて、独裁的な発想を抱くことを思わせるものが「カリスマ」と呼ばれるものだということだ。
パッと聞いて、どこか胡散臭さも感じられたが、いい意味での捉え方をされている方が一般的なので、最初はカリスマというのは、自分には関係ないと思っていた。
しかし、何となく気になっていたのは、超自然的な意味での発想を頭に抱いていたからなのかも知れない。自分では意識していなかったかも知れないが、言葉を感じているうちに、知らず知らず言葉の意味の真髄に、近づいていたのだろう。
友達になった連中は、祐樹のことを誠実なやつだと思っていたようだ。ただそれは祐樹が後から感じただけのことで、彼の本当の正体を知っていたのかも知れない。だが、そんなことは誰も口にしないし、せっかく友達になったのだから、彼らの態度をそのまま信じていたのだ。
それは彼が本当に誠実な気持ちからではなかった。ハッキリいうと、人付き合いが苦手で、あまり人と関わりたくないと思っている人間にとって、相手がいう言葉を信じるしかなかったのだ。疑ってみればいくらでも疑える。最初から客観的に他人事のように見ることができれば疑えたのかも知れないが、疑うだけの勇気もなかったのである。
祐樹は自分から人に関わろうとしないだけで、相手から関わってこられた時の態度をどうすればいいのか、考えたことはなかった。実際に人から絡んでこられることなど小学生の頃もなかったし、中学でもないと思っていた。それなのに、一人の友達が祐樹に近寄ってきたことから、友達の輪に入ることになってしまったのだ。
その友達は、傍目から見ていると、誰にでもいい顔をするような、八方美人に見えるタイプだった。祐樹にとってはもっとも嫌なタイプの人間であった。虫が好かないというよりも、自分とは合わないと思ったからだ。
――どこまで行っても分かり合えない平行線を辿るんだろうな――
と感じさせる相手だったのだ。
そんなやつなら放っておけばいいのだろうが、彼に限っては、どうしても気になってしまっていた。その思いというのは伝わるのか、彼の方から話しかけてきたのだった。
「若槻君は、僕と同じ小学校から来たんだよね?」
と、唐突に話しかけられてビックリした。
「何だよ。そんなに驚くことはないじゃないか」
と、彼は笑いながら言ったが、彼としては、それほど唐突な気がしなかったのだろう。
――まわりから見ればどっちが普通に見えるんだろうか?
と感じたが、祐樹には、お互いにどっちもどっちで、両極端の二人ではないかと思えたのだ。
そう思うと、急に気が楽になった。
――二人とも異端児なんだ――
と思うことで、普段見せない笑顔を不覚にも見せてしまった祐樹に対し、
「なんだい。そんな顔ができるんじゃないか」
と言って、また笑った。
完全に会話の主導権を相手に握られ、たじたじの祐樹だったが、相手が上から目線であるのが分かっていながら、嫌ではなかった。
彼の名前は、瀬戸と言った。
瀬戸は、クラスの中でも身長は低い方で、一見目立たないタイプだったが、話をしてみると、結構すごいやつだった。
小学生の頃から文武両道であり、勉強はトップクラス、スポーツもテニスを中心に野球、冬はスキーと、達者であった。
そんな彼が目立たないのは、自分から目立たないようにしていたからだった。
「若槻君は、もっと目立ってもいいんじゃないかって思うんだけど、どうなんだろうね?」
と言われて、
「いやぁ、俺なんかこれといったとりえもないし、自慢できるものなんか何もないんだよ」
と言うと、
「別に目立つのに、自慢できるものがある必要はないのさ。自分の意見を持っていれば、それでいいのさ」
と言ってくれた。
彼のように何でもこなしてしまうやつに言われると、今までなら、
――皮肉言われているようだ――
と思うのだろうが、彼に対してはそんなことはない。
――謙遜してるんだろうな――
とさえ思うくらいで、自分にそれほどの技量のないことを恥じたほどだった。
彼とそんな話をしていると、
――まるで小学生の頃から友達だったような気がするな――
と感じていた。
違和感のない関係こそが友達と言えるのだろうと思っていると、彼も同じことを考えているようで、今まで見えなかった相手の考えていることが見えてくるようで、自分が成長したような気になって、嬉しかった。
それからしばらくは、彼と二人だけでグループを作っているような感じだった。
――彼ほどの技量があれば、もっとたくさん人が寄ってきそうなものなんだけどな――