小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

狭間世界

INDEX|27ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 祐樹は見た夢で覚えているのが怖い夢ばかりだと思っていたが、それは大学時代だから怖いと思うことであって、同じ夢を中学時代に見たとして、それを怖い夢だと感じるのだろうか?
 祐樹が覚えている夢というのは、決まって中学時代の夢だった。小学生の頃の夢は出てこない。高校時代のこととなると、サッパリであった。
 中学時代には、そんなに怖いと思ったことはなかったはずだ。誰かに苛められたりしたこともなければ、怖い思いをしたという意識もなかった。それは、今だから感じることで、夢に見ることで、その時怖いと思わなかったことでも、実際には怖かったということを示している。
 中学時代の祐樹は、大学時代の祐樹と違って、非現実的だったように思う。夢や狭間世界の発想を抱いていたことからも、いつも何かを考えながら、それが何を考えていたのか、我に返った時には覚えていない。
――まるで夢を見たみたいじゃないか――
 と思わせられた。
 今に比べれば記憶力はよかったはずである。しかし、
――目が覚めるにしたがって夢を覚えているのか、それとも忘れているのかというのは、記憶力の世界とはかけ離れているような気がする――
 と感じていたのも事実だった。
 祐樹は、その時ふと感じたのが、
――寝て見るのが夢であって、起きている時に夢を見ているような感覚になるのが狭間世界ではないか?
 という思いだった。
 しかし、すぐに、
――本当は反対で、寝て見るのが狭間世界で、起きている時に見ているのが夢ではないか――
 と感じた。
 それは、両方が一般的に夢として感じているもので、狭間世界を意識させないように、――わざと目が覚めるにしたがって、夢を忘れさせようとする作用が働いているのではないか――
 と、考えるようになっていた。

                 もう一人の自分

 最近祐樹は瀬戸の夢をよく見ていた。夢を覚えているというのは、相変わらず怖い夢であり、その意識があるから夢を覚えているのだと思っていた。大学三年生になり、そろそろ就職活動や社会人に向けても考え方を変えていかないといけない時期で、意識改革を自分でも進めていた。
――きっと、そんな思いが見せる夢なんだろうな――
 と考えていたが、大学二年生までの自分が、決して甘えていたとは思っていない。
 それでも将来への不安は果てしないものがあり、普段あまり意識しないように心掛けていることもあってか、夢に反動となって現れるのではないかと思っていた。
 夢の中で瀬戸はいつも一人だった。
 祐樹が話しかけているのに、笑顔を絶やさない瀬戸は、何も答えようとはしない。
――いったい、何を考えているんだ?
 相手がまったくの無表情だったら、表情の恐怖よりも、その思いが強いこよで、それほど怖いと思わないかも知れない。
 しかし、いつもの笑顔で自分を見ている瀬戸は、こちらに気を遣ってくれていることは分かっているのに、こちらがそれに反応しても、反応に対しての反応がない。元々は無効からの意思表示のはずなのに、気持ちのキャッチボールができないのだ。これほど恐ろしいことはない。本当に何を考えているというのだろう?
 瀬戸の夢は一度ではなかった。
 何度も何度も夢に出てくる。
「若槻君」
 彼の唇がそう動いた。しかし、声になって聞こえてくることはない。まずそれが恐ろしかった。
 それ以上に恐ろしいのは、
「何だい? 瀬戸君」
 と言って返事をしているはずの自分の声も感じることができない。
 喉が震えていて、声が発せられているのは間違いないはずだ。それなのに聞こえないということは、
――二人がいる世界は、音を感じることのできない世界なんだ――
 と感じた。
 それがこの世界を夢の世界だと感じた理由だった。祐樹には夢の世界とは別に狭間世界という意識があったはずだ。それなのに、
――この世界は夢一確だ――
 と感じたのは、やはりそれだけ怖いという意識が強かったからだろう。
 夢は数か月の間に数回見たようだった。
――よく数か月って分かったな――
 夢であれ、狭間世界であれ、現実世界でなければ、ほぼ時系列は感じないと思っていたはずだ。それなのに、どうしてこんなに簡単に時期が分かったのか、きっとそれだけ、現実に近い感覚の夢だったのだろう。いわゆる、
――リアルな夢――
 と言える。
 それが本当だと思わせたのは、それから三年後のことだった。
 三年が経つと、祐樹は希望の会社とまではいかないが、それなりに地元では名の知れた企業に入社することができ、自分でも、
――自分を褒めてやりたい――
 と思ったほどだった。
 他にもいくつかの会社の入社試験を受けたが、この会社だけには自信があった。
 筆記試験もさることながら、面接に一次二次試験とあり、一次試験はグループディスカッションだった。新聞を渡されて、その中から自由に意見を戦わせるのだが、祐樹には作戦があった。
――最初の話題は他人に任せて、俺は人の意見の反対意見を言えばいいんだ――
 という思いだった。
 最初に意見を言うやつは、正論でなければいけない。ただ、正論を相手に印象付けるには、かなりのテクニックがいる。なぜなら、正論は誰もが考えている多数意見だから、少々のことを言っても相手に響かないのだ。
 しかし、逆説だと、相手の正論に対しての反対意見なので、自分も感じている正論に対し、反対だと思うことを言えばいい。いかにもこちらの意見も正論に負けないという辻褄さえ合っていれば、それだけでいいだろう。祐樹は、それが作戦だった。
 話をしているうちに次第に気持ちが高ぶってくる。どこかで自分の自己顕示欲が働いたのか、気が付けば熱弁を奮っていた。
――これって本当に俺?
 夢の世界からもう一人の自分が降臨してきたような気がした。
――でも、それだけだろうか?
 と思った時、思い出したのは、大学時代に見た笑顔を絶やさない瀬戸の顔だった。
――あの時は恐ろしいだけだと思っていたけど、それ以上に威圧感があったんだ――
 と思うと、その表情を今の自分がしていることを感じた。そしてもう一人の自分は、面接官の目で見ているのを感じると、
――これで合格だ――
 と思うと、それが自信となり、二次面接も完璧にこなすことができた。
 他の会社の面接など、もう完全にかすんでしまっていた。この会社に入社できればそれでいいと思うと、合格通知が来た時、自分でも驚くほど冷静だった気がする。
――分かりきっていたことだ――
 と思うと、瀬戸が夢に出てきた時の笑顔の裏にどんな気持ちが隠されていたのか、分かった気がした。
「ありがとうな。瀬戸」
 目立ちたがりな性格が祐樹の中にあり、それを封印してきたことを思い返していた。
 そして、目立ちたがり屋な自分の存在はいつも意識していたはずなのに、どこにいるのか分からなかった。祐樹はそれをもう一人の自分だと思ってはいたが、自分の中に潜在しているという意識はなかった。明らかにどこか別の世界にいるような気がしていたのだ。
――それが、狭間世界――
 と考えると、もう一人の自分は左右対称ではないと思えた。
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次