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狭間世界

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「正直、よく分からないんだ。でも、どちらかが、他の人と共有することができるものではないかって思うんだ」
「それは俺も思っている。そして、どちらかというと、狭間世界ではなくて、一般的に夢と呼ばれている方だって思うんだ」
 祐樹の口調は軽かった。ただ、その言葉にはさっきまでと違って重みがあるのを感じていた。その重みが二人の間の距離をもっと縮めたような気がした。
 いや、距離が縮まったわけではない。距離という概念ではなく、他の人たちから遠ざかったというイメージが一番適切なのかも知れない。二人だけの世界が、他の人に見えているのかどうなのか分からないが、見えているとしても、特別なベールに包まれていることに気付いていないだろう。
「そのあたりは少し僕と違うかな? 僕の場合は狭間世界こそ、他の人と共有できているんじゃないかって思うんだ」
「その根拠は?」
「根拠があるわけではないんだけど、一般的な夢と呼ばれているものだけが表に出ていると思っている人が多いんじゃないかって思うと、信憑性が高いのは、普段表に出ていない方が、共有に値するものでないかって思うんだ」
「なるほど、天神君は正統派な意見なのかな?」
「そうかも知れないですね。より妥当な方がどちらなのかということをいつも考えているからね」
 その話を聞くと、祐樹は少しガッカリした。
――ひょっとすると、天神のようなやつの方が、改革的な考えを持っているんじゃないかな?
 と思っていたからだ。
 ただ、ガッカリしたのは一瞬で、改革派的な考え方を持っているのは自分なので、お互いに改革的な考えを戦い合わせて、果たして望んでいるような方向にいくのかどうか、それが疑問だった。
 どちらかというと、一般論的な相手との話の方が、自分の改革的な考えがより目立って考えられて、異端児的な性格が表に出ることで、相手に対して優越性を保てると思えたからだった。
 これまで祐樹は天神に対して、少し距離をおいていた。彼の場合は誰にでも好かれる性格で、それだけに人と同じ考え嫌う祐樹は、彼と一緒にいると、彼に引き込まれてしまうかも知れないという考えが頭をよぎっていたのだ。
――逃げていたということだろうか?
 人と関わりたくないという考えを祐樹が持っているということを、他の人はウスウス感じていると思っていたが、天神を見ていると、そのあたりがどうなのか分からない。そう思って天神を観察いていると、彼のことがどんどん分からなくなっていった。
 彼のことで見えたことといえば、
――天神を見つめれば見つめるほど、その奥にある霧が深まってきて、見えないように煙幕を張っているかのようだ――
 というものだった。
 そう思っていると、天神の方が祐樹に対して興味を持っていることに気がつき始めた。彼の視線を感じるようになった時期があり、その頃はグループの中での自分の立ち位置に疑問を抱いていた頃でもあった。
 まさか、このような話を天神とできるようになるなど、想像もしていなかっただけに、本音は嬉しいと思っている。
――いや、こんな話をできるとすれば、それは天神しかいない――
 とも思っていた。
 瀬戸ともこういう話をしてみたいという気持ちはあったが、瀬戸と話し始めると、きっと彼の中に取り込まれる形で、自分の存在価値が消えてしまいそうに感じたからだ。それだけ瀬戸のカリスマ性は強力なものがあり、それでも彼のそばにいることが自分にとって一番いいという考えは、衰えることはなかった。
 天神が正統派の考え方を持っていると分かると、祐樹は余計に話しやすくなった。
 天神が唱える正論に、自分が反対意見で対応すれば、会話は果てしなく続いていき、どんどん発想が膨れ上がってくるように思えた。
 もちろん果てしないなどありえないのだろうが、
――結論が出るはずはない――
 という思いを最初から抱いておくことで、有意義な時間を過ごすことができるはずである。
 二人の会話は、次第に永久性の話に辿りつく。
「若槻君は、夢の世界も狭間世界も永遠に続くものだって思っているのかい?」
「そうだね。狭間世界という発想は最初からあったわけではないけど、現実世界と夢の世界は永遠に続くものだって思うんだ。というよりも、現実世界が終われば夢の世界も思ってしまう。そういう考え方かな?」
「現実世界はずっと続いていくという発想は分かるけど、夢の世界はどうなんだろうね?」
「夢の世界というのは、潜在意識が見せるものだという話を聞いたことがあるんだけど、それって現実世界で感じていることも潜在意識だとすれば、現実世界がなければ夢というのも存在しないことになるよね。だとすると、逆に現実世界の存続は、夢の世界にかかっているともいえないだろうか?」
「それは極端な考えだって思うんだけど、どうなんだろう? でも、一つ感じているのは、今の話を裏付ける考えなんだけどね」
「どういうことなんだい?」
「夢は目が覚めるにしたがって忘れていくでしょう? どうしてなのかって考えたんだけど、それは、同じ夢を二度と見ないようにするためなんじゃないかって思うんだ」
「それは現実が時系列に沿って、前に進むしかなくて、まったく同じことが起こるはずはないという基本的な根拠に基づいていると考えていいのかな?」
「そうだね。夢だったら何でもありだって思っていた頃から比べれば、今は夢に対してかなりシビアに感じているんだけど、同じ夢を二度と見てはいけないと考えると、夢の中にはないと思っていた時系列がしっかり存在しているんじゃないかって思うんだ。そしてそれが現実世界と密接に関わっていると思うと、それなりの根拠のようなものであってもいいんじゃないかな?」
 祐樹は饒舌だった。
 天神の意見もさっき感じた、正統派な意見ばかりではないかのようにも感じる。
「ねえ、若槻君。天神君はさっき話していた狭間世界についての考えというのは、いつ頃から持つようになったんだい?」
「俺は小学生の頃、苛められっこだったんだけど、その時にいつも『夢の世界に逃げられたらいいな』と感じていたんだ。でも、夢の世界についていろいろ考えてくると、少し夢に疑問を持ったんだ。夢というのは目が覚めるにしたがって忘れていくだろう? ほとんどの夢が目が覚めてしまうと覚えていない。夢を見たという意識すらないこともあるんだ。俺は夢というのは、毎日見るものだって思っていたことがあったんだ。だから、夢を見たという意識も忘れてしまっていることもあるんだって感じると、じゃあ、夢を何のために見るのかを疑問に感じるようになったんだよ」
「なるほど」
「それで、夢を覚えていないということは、現実世界で感じたことが夢の中で違った形で現われて、夢から覚める時に、現実世界のその出来事に変換されてしまうことで、同じ記憶がよみがえらないように、夢の記憶は封印されるんだって思ったんだ」
「かなり屈折した考えに見えるんだけど、でも、そうやって話をしてくれると、分かりやすく感じるよ。きっと若槻君も人に話すことで、頭の中が整理されてきたんじゃないかな?」
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次