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狭間世界

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――相手を見ながら行動や会話のできる人間なのだ――
 と感じるのだった。
「僕の場合は、覚えている夢がないわけではないんだけど、それがどんな夢なのかハッキリとしないんだ」
「覚えているのにかい?」
「ああ、覚えていると言っても、目が覚めてから少しの間だけのことなんだ。一歩表に出ると夢のことは忘れてしまっている。思い出せそうなんだけど思い出せない。きっと思い出したとしても、それがその日の夢のことだったなどというのは分からなくなっているんだって思うんだ」
「どういうことなんだい?」
「夢は、覚えていないだけで、忘れてしまったわけではないと思うんだ。記憶の中のどこかには存在していて、そこは実に煩雑に置かれている。煩雑でないと収納できないのかも知れないけど、そのために思い出したとしても、時系列はバラバラで、いつのことだったのかということは、まったく分からないんだって思うんだ」
「俺も、夢は忘れてしまっているものではないと思うよ。記憶の奥に封印されているという思いを抱いているんだ。そしてその封印されているところは、元々秩序や意識の働くところではない。ただの収納庫でしかないと考えると、そもそも時系列なんて発想が生まれてくるはずもないって思うよ」
 祐樹は、天神と話をしながら、お互いに話題を出して、出した話題に添えた話を、相手が補って、さらに完全なものにしているように思えた。
――一人で抱え込んでいるよりも、最初から話をしていればよかったかも知れないな――
 と祐樹は感じていた。
 ただ、それも相手が天神だからよかったと思うだけで、他の人だったらどうだろう?
 今、思い起こして話をできる人を想像してみると、
――瀬戸以外には考えられないな――
 と思ったのだ。
――瀬戸だったら、どういうんだろうな?
 と考えたが、それよりも、どうして今まで瀬戸とこういう話をしてこなかったのかということを不思議に感じる祐樹だった。
 瀬戸のことを思い浮かべていたが、彼と一緒にいない時に、彼のことを思い浮かべたことが今までにはなかったような気がした。
 元々、一人でいる時、他の人とのことを想像するということがあまりなかった祐樹だった。
 それは小学生の頃に苛められっこだったという意識が残っていて、無意識に萎縮していしまうことで、一人でいる時に、他の人のことを思い浮かべるのは、邪念が入っているからだというように感じていたからだった。
 ただ、瀬戸の場合はそれだけではなかった。
――瀬戸にはカリスマ性を感じる――
 という思いがあったからで、カリスマ性を感じさせる彼のことを想像するのは失礼に当たるというような思いもあったからだった。
 それなのに、目の前に天神がいて、天神と話をしている時に、瀬戸のことが頭をよぎった。
 瀬戸と天神は、祐樹にとって他の人とは違って特別な存在であるということは共通しているが、その存在感は、それぞれに違っていて、相容れるところがないように思えるほどだった。
 祐樹にとって瀬戸と一緒にいる時は、天神の存在は頭の奥に封印し、天神と一緒にいる時は瀬戸を頭の奥に封印しているつもりだった。それなのに、どうしてここで瀬戸のことを思い出してしまうのか、自分が分からなかった祐樹だった。
――そういえば、今日誰かの夢を見たような気がするが、そこに出てきたのは、天神だったか、瀬戸だったか――
 どちらかが出てきたという意識はあるのだが、そのどちらだったのかが思い出せない。逆に思い出せたとすれば、その時の夢の全貌が分かりそうな気がした。それを思うと、今度は、
――天神だったのか、瀬戸だったのか、きっと思い出せないに違いない――
 と感じた。
――さっき、正夢の話をいきなり切り出したが、それは夢に出てきたのが、天神だったら、と感じたからなのかも知れないな――
 と思った。
 天神に会って話をしているのも、無意識ではあるが、何も考えを持っていないからではないかも知れないと思うと、天神が正夢についてどう思っているのかということが祐樹にとって大切なことだと思ったのだ。
 ただ、祐樹が正夢という言葉を最初に口にしたのは、ただの偶然ではないと思っている。それは、
――今日、こうやって天神と夢の話をすることになるとういうのは、以前から感じていたことだったような気がする――
 と思ったからだ。
 それが祐樹にとっての正夢であり、祐樹がそれを正夢だと信じるには、その根拠として、天神も正夢というものを信じていることが必要だと感じたからだった。
「正夢というのは、そうやって考えると、これから見る夢なのかも知れないって感じることもあるんだよ」
 天神は妙なことを言い出した。
「どういうことだい?」
「夢を格納する記憶の奥があって、そこに時系列が存在しないのだとするならば、同じ夢を見ることだってあるだろう。格納している場所はあくまで自分の中なので、まだ夢として見ていないこともある。格納している意識の中にあるものと、現実世界で起こったことが酷似していれば、ひょっとすると、その日の夢に今日起こったことが出てくるかも知れない。それを時系列が曖昧なため、見た夢が現実よりも先だったのか後だったのか分からないことが、正夢という現象を引き起こしているのかも知れないと思うんだ」
 なかなか難しい発想である。
 しかし、その話を聞いた時、祐樹も一つ閃いた。
「デジャブという、以前に見たことがあるような気がするものを見ることがあるんだけど、それも記憶の奥の封印に時系列がないことで引き起こされた現象なのかも知れないと思うんだけど」
 というと、
「それもいえるかも知れないね。でも、僕はデジャブと夢とは直接関係がないと思うんだ。何か根拠があるわけでもないんだけどね」
 と言って、笑った。
「デジャブと夢が関係ない?」
「ああ、夢と呼ばれているものとは関係ないと思っているんだ」
「じゃあ、夢と俺たちが呼んでいるものと違う夢が存在しているということなのかい?」
「これも根拠も信憑性もないけど、何となくそんな気がするんだ。どちらも寝ている時に見るものなんだって思うんだけど、夢と呼ばれている世界と、現実世界の間に、何かワンクッションあるんじゃないかってね」
 それは、祐樹が創造した「狭間世界」の発想ではないか?
「それはどんな世界だって思うんだい?」
「僕は、その世界が、本当の夢なんじゃないかって思うんだ。つまりは、目が覚めるにしたがって忘れていくものだってね」
「実は俺も似たような発想を持っていて、俺は勝手にそれを『狭間世界』って呼んでいるんだけど、天神君の考えている世界も同じようなものなんだろうか?」
「きっと似たようなものなんじゃないかって思うんだ」
「じゃあ、君は狭間世界と夢と呼ばれている世界とでは、どの辺りが違っていると思っているんだい」
 天神は、ここで少し考えた。
 きっと話をしている相手も、同じような発想を持っていると分かり、簡単に返答はできないと感じたからではないかと思った。さっきまで二人の間の優位性は天神にあったのだが、このあたりから、二人は対等に変わってきたように思える。さっきまでの立ち位置との違いに、祐樹は少し戸惑っていた。
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次