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狭間世界

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 片方は自由な感覚であり、片方は相手に対しての気配りである。どちらに良し悪しというレッテルを貼るには忍びない考えだと思い、祐樹には二人の様子を傍観しているしかなかった。
――俺は一体どっちなんだろう?
 中学時代のその頃まで、女性を好きになったことはなかった。
 思春期に入っているので、女性に恋心を抱くという感覚はイメージとして持っていた。
 そしていつかは訪れるであろう恋愛感情に思いを馳せ、祐樹は自分が好きになるはずの人が現われるのを、今か今かと待ちわびていた。
――覚えていない夢の中には、自分で勝手に創造した自分の好きになりそうな女性との恋物語が描かれていたのかも知れない――
 と感じた。
 どんな女性を好きになるというのか、自分でも想像はできなかったが、タイプとしては、おとなしめの女の子で、清楚さを醸し出す雰囲気の女性だと思っている。まさに白いワンピースに白い帽子が似合うようなお嬢様の雰囲気を想像していたことだろう。
 しかし、実際には、
「好きになった人がタイプなんだ」
 と自分から公言する時が、近い将来にやってくることをその時はまだ分からなかった。
 それでも、
――さすがに派手好きな女の子を好きになるなどありえない――
 と思っていたので、祐樹は彼女が夢に出てくるなど、考えられなかった。
 だが、逆に考えれば、
――覚えている夢というのは、あまりいい夢ではない。どちらかというと、もっと見ていたいと思った夢こそ、目が覚めるにしたがって忘れてしまうものなんだ――
 という思いがあるだけに、目が覚めても忘れないと思えるこの夢に出てきたのが、タイプではない彼女だということは、理屈には合っている気がした。
 夢の中に出てきたのは、今のところ、瀬戸と派手好きの彼女だけだ。
 何かを話しているようなシーンが思い浮かんだが、何を話しているのか聞こえない。
 しかし、その時の祐樹にはなぜか話している内容が分かっているような気がした。
――読唇術を身に着けているわけではないのに――
 その場はシーンと静まり返っていて、キーンという耳鳴りだけしか聞こえない。
――耳鳴りが、二人の会話を聞こえないようにしているんだろうか?
 と祐樹は感じた。
 夢なので、風が吹いているわけではない。空気が動いているという感覚があるわけでもない。
――待てよ。空気が動いていないから聞こえないんじゃないか?
 声や音というのは、空気の振動で伝わるものだ。振動のないところで、何かが聞こえるわけもない。
――まるで宇宙空間の真空状態のようではないか――
 と、宇宙に行ったことがあるはずもないのに、勝手な想像をして、自分で自分を納得させようとしていたが、それは当然無理なことだった。
 無理だと分かっていても、それでも祐樹は巣尾像を膨らませる。
――普段からあまり余計なことを考えないようにしているくせに、夢の中であれば、こんなにもいろいろ考えているんだ――
 と、感じていたが、本当は普段から無意識のうちに絶えず頭の中で何かを考えているということに気付いていなかった。
 これは、祐樹に限ったことではなく、誰もがそうなのだろうが、一人でいる時や、まわりを意識しない時というのは、必ず何かを考えているものである。それが人間の本能であり、その人の本性に一番近いものなのではないかと、夢を見ている時の祐樹は感じていたのだ。
 しかし、目が覚めてしまうと、そんなことを考えていたなどということすら忘れている。考えてみれば、夢を見たことを忘れるという現象は、
「一体何のために忘れなければいけないのか?」
 という当たり前とも思える疑問を、どうして誰も抱かないのだろう。それを考えると、その奥に人間の本能とは別の、その人の本性に触れることになる発想は、夢の中だけで収めておくという思いを隠そうとしているのではないかと思う。
――それこそが、本能だと言えるのだろうが――
 と、夢の中でもし、このことを考えたとすれば、祐樹は目を覚まそうとしている自分に言ったかも知れない。
――きっと、夢を見ている自分と、夢から目を覚まそうとしている自分、そして完全に目を覚ましてしまった自分という、この三人は、同じ自分であり、別の自分でもあるのかも知れない――
 と感じた。
――つまりは、次元の違いがもたらしたものなのではないだろうか?
 と考えられた。 
 祐樹は二人をじっと見つめていたが、そのうちに二人の力関係がハッキリと分かるようになってきた。
 夢の中に出てきた瀬戸は、祐樹の知っている瀬戸ではなかった。祐樹の知っている瀬戸にはまわりを纏め上げる力があり、それは大きなカリスマ性だった。しかし、夢に出てきた瀬戸は、まるで自分の知っている瀬戸とはまったく違う人物で、完全に相手の言いなりになっているようだった。
――こんな瀬戸、見たくない――
 と感じた瞬間、祐樹は自分の心の中に矛盾があることに気がついた。矛盾というのは、その相手が分かっているから、
――矛盾だ――
 と気付くはずであった。
 しかし、その時の祐樹はすぐにその矛盾の相手が何なのかすぐには分からなかった。ただそれが矛盾していることであると感じただけのことだった。
 勘というものに近いのかも知れない。
 少しでも根拠があれば、勘だとは言わないのだろうが、その時の祐樹には根拠がなかったわけではない。ただ、形になっていないだけのことで、
「根拠もないのに」
 と言われれば、反論したい気持ちになったことだろう。
 しかし、それもハッキリしないので、相手に提示を求められると、
「言葉にできることではない」
 という苦しい言い訳をするしかないだろう。
「それだったら、根拠なんて言葉を口にするんじゃない」
 と言われるに違いない。
 祐樹もその通りだと思っているだろう。でも、それを認めることは、大げさに言えば自分を否定することになるようで嫌だった。
――これも一種の矛盾なのかも知れないな――
 相手を説得できないのだから、自分の立場はないのと同じであった。それなのに、根拠を意識するというのはどうしてなのだろう? きっと祐樹の中で、瀬戸に対して感じていたカリスマ性が絶対的なものであるという意識があったからに違いない。
 カリスマ性などというのは、自分で勝手に感じたことだ。これを根拠として口にすることは、決してできるはずのないことである。いくら、相手に罵倒されようとも、祐樹にはできなかったのだ。
 ただ、祐樹も苦しかった。
――あんな瀬戸の姿、見たくない――
 と思った。
 その感情が、自分の中で、
――これは夢なんだ――
 という確信を持たせたのかも知れない。
 夢でもなければ、自分から瀬戸のカリスマ性を否定するようなことを感じるはずがないからだった。
 祐樹は、これを夢だと思うことで、現実世界では絶対的だと思っていた瀬戸のカリスマ性を否定できる気がしていた。夢でしかできないこともあるのだということに初めて気付いた。
 普通であれば、
「夢だからできるんだ」
 と言われることでも、夢が潜在意識の範囲内でしか見ることのできないものだという意識を最初から持っていたために、
「夢だからこそ、できないんじゃないか?」
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次