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狭間世界

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 夢の中の独特さが、そんな雰囲気を創りだしているのだろう。それこそ、「創造」である。
――これが本当の瀬戸なんじゃないか?
 とも感じられた。
 暖かさを持ったその表情は、見せ掛けであり、俺たちが騙されていると思い始めた祐樹は、そう思うことが夢であるということを感じさせ、いつの間にか考えが堂々巡りを繰り返してしまっていることに気付いていた。
――そうか、夢というのは、繰り返しなんだ――
 と思ったのは、
「夢というのは、目を覚ます寸前の一瞬に見るものらしいぞ」
 という話を聞いていたからで、その話をしてくれたのが、他ならぬ瀬戸だったというのは皮肉なことではないだろうか。
 瀬戸は、夢に対して特別の思い入れがあったようだ。
 以前、夢について語り合ったことがあったが、すぐにその会話の内容は忘れてしまっていた。何か重要なことを聞いたような気がしたはずだったのに、なぜか思い出せないでいた。
――一体、何を聞いたというのだろう?
 最初は、何とか思い出そうと、必死になって考えたが、思い出せない。喉まで出掛かっているのに、クイズの答えが出てこない時の感覚に近いのかも知れない。
 だが祐樹は感じていた。
――思い出せないだけで、記憶から消去されたわけではないので、何かのきっかけがあれば、きっと思い出すことがあるはずだ――
 と考えることで、
――記憶の奥に封印されているんだ――
 と思うと、無理に思い出すこともないと感じて、少し気が楽になったものだ。
 そう思うと、もう思い出そうという思いは失せてしまい、それ以上深く考えることはやめたのだ。
 今回、自分の夢に瀬戸が何度か出てきていると思った時、瀬戸と話をした時のことが思い出せるのではないかと感じた。こういう時の祐樹の予感は結構当たるもので、考えてはいるが、無理をしないようにしなければいけないと思っていた。
 夢というのが堂々巡りを繰り返していると感じた時、祐樹は瀬戸の言葉の一つを思い出した。これがきっかけになり、今まで開けなかった『開かずの扉』を開けることができるのではないかと思えた。
 ただ、それが開けてはいけない「パンドラの匣」でなければいいと感じているのも事実で、何か期待できることがあると、ついついその裏に潜む危険なものを考えないではおられない祐樹には目の前にある箱がどちらなのか、ドキドキしていたのだ。
――こんなことを考えている今が、本当は夢の中なのかも知れない――
 祐樹は、急にそんな思いが頭を巡り、考えていた堂々巡りが半永久的に続いていくものではないかと思うと、恐ろしさで背筋が寒くなるのを感じた。
 それは、自分の前と後ろに大きな鏡を置いて、そこに写っている自分が永遠に増殖し続ける想像をしていた。
 小さい頃に初詣に出かけた時に入ったミラーハウスを思い出していたが、あの時とはまた違った赴きである。あの時は、自分がどこにいるのかということすら分からずに、宙に浮いているような感覚があったり、急に足元がなくなり、永遠の奈落の底に叩き落されるような感覚を味わったような気がしていたが、今回の目の前と後ろに置かれた鏡を見て、永遠に写り続ける自分を感じた時は、自分の居場所は分かっていた。
 しかし、その居場所から逃れることは永遠にできない。絶対にできないということを宣告されたのだから、これ以上の恐怖はない。ミラーハウスのように、自分がどこにいるか分からない恐怖は、いつまでも続くはずがないという根拠のない思いが、祐樹にはあった。それを証明するのが、夢の世界であって、ミラーハウスの世界は、目を瞑ってしまうと、目を開けた瞬間、元の世界に戻っていることを示唆している気がしたのだ。
――必要以上の恐怖は、開き直りを産む――
 と考えると、それなりに納得がいった。
 目の前と後ろに置かれた鏡を想像するのは、あくまでも想像でしかない。ミラーハウスは自分が一度でも経験したわけであり、最初から想像していたものではないから、事実として逃れることができたことで、夢として片付けられるようになったのだ。だが、想像でしかない現象は、夢として片付けるわけにはいかない。それが、想像ではなく、創造だとすれば、自分で作り出した世界には、自分で責任を持たなければいけないという一応の筋が通った自分なりの理解がより恐怖を呼ぶのだった。
 恐怖というよりも気持ち悪さだ。気持ち悪さは、身体が感じて、頭にその思いを伝えるもので、なかなか払拭することは難しい。しかも、堂々巡りを繰り返していると考えているので、その深さは尋常ではない。
 瀬戸が出てきた時のかつての夢を思い出そうとしていた。
――夢というのは、目が覚めるにしたがって忘れていくもので、一度忘れてしまうと、もう一度同じような夢を見ないと思い出すことはない――
 と思っていた。
 同じ人が出てきた夢を思い出そうとするのだから、思い出せるはずだ。
 もし、思い出すことができるとすれば、今しかない。
 その思いが祐樹の頭の中にはあったが、思い出せることと言えば、
――瀬戸が出てきた時の夢は、他に誰かが出てきたことはなかったはずだ――
 という思いだけだった。
――瀬戸以外の人が一人でも夢に出てきていれば、もっと簡単に思い出せたかも知れない――
 と祐樹は感じた。
 だが、今回の夢は、瀬戸以外にも誰かが出てきたような気がした。最初祐樹はその人物を天神だと思っていたが、どうも違うようだった。
 その人は女の人で、祐樹とあまりかかわりになったことのない人なので、なぜ彼女が自分の夢に出てくるのか、訳が分からなかった。
――夢というのは、潜在意識が見せるものだというではないか――
 と自分に言い聞かせた。
 確かに、潜在意識が見せるものだという話を祐樹は、全面的にと言っていいほど信じている。
 祐樹はその女性が誰なのかすぐには分からなかったが、急に閃いた。
「あ、グループの中の派手好きの彼女だ」
 と感じた。
 その日の昼間、グループ内の女性の争いで、階段から突き落とされた彼女だった。
 なぜ、彼女だと気がついたのかというと、夢にあるまじきことが起こって、それで祐樹が気がついたのだ。
 祐樹は、夢の中で匂いを感じた。それは柑橘系の匂いで、いつも彼女がしている香水だったのだ。
 さすがに中学生なので、それほどきつい匂いのものではなかった。それでも学校から何も言われなかったのは、その匂いが目立たないほどのものだったからであり、実際に他の人は、彼女の匂いを感じたことはないと言っていた。それを聞いた相手が天神と瀬戸だったので、それぞれの思いでウソをついたのかも知れない。
 天神の方は、感じた匂いが自分の嫌いな匂いではなかったので、別に事を荒立てることはないと感じたと思った。瀬戸の方は、下手に彼女に執心して、相手に必要以上の感情を持たせることで、自分に対して自分が予期していない寛恕が芽生えるのを避けたかったのかも知れない。
 それはお互いに女性に対してのポリシーのようなものなのかも知れない。
 天神の方は、
「来るものは拒まず」
 というところがあり、
「なるべく、相手に期待させるようなことはしたくない」
 という思いであろう。
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次