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狭間世界

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 その言葉を聞いて、
――まさしくおだてではないか――
 と感じたが、悪い気はしない。
 しかも、相手が瀬戸なのだから、一番信用できる相手から言われた言葉だった。これ以上信憑性を感じる言葉はなかった。
「ところで若槻は、おだてられて力を発揮する人は、本当にそこまでの人だって思うのかい?」
「えっ?」
「いやね、先生の言葉をまともに聞くと、先生はおだてられて力を発揮する人間を悪いと言っているわけではないんだ。目に見えている部分までしか実力を発揮できない人間だって言っているだけなんだよ」
 瀬戸は何が言いたいのだろう?
「だって、それは悪口のようなものじゃないかい?」
 と言うと、瀬戸は笑って、
「いやいや、君には分かっているんじゃないかな?」
 何が言いたいのだろう?
「どういうことなんだい?」
「君は性格的に、表に出ていることがすべてだと思われたい人間なんじゃないかって思ってね。それは悪い意味じゃないんだよ。君が真面目で正直者だって言うことなんだ。でもね、人の性格なんていいところもあれば悪いことろもある。いわゆる長所と短所だね。よく言われるじゃないか、『長所は短所の裏返し』ってね」
「確かにそうだけど、『長所と短所は紙一重だ』っていう言葉も聞くよ」
「確かにそうなんだ。まともに聞けば、それぞれで正反対のようにも聞こえるけど、僕にはそうは思えない。二つとも同じ意味に感じるんだ」
「というと?」
「二つのものを見る時、それぞれを違った地点から見るとどうだろうな? すぐ隣にあるようにも見えるけど、他の人には、裏返しにも見えるかも知れないよね。それは見る視点が違っているからなんじゃないかな? そう思うと、僕には先生の話を人それぞれで受け止め方が違うと思うんだ。そして、先生はそのことも分かっている。分かっていて僕たちに話をしたんだよ。ただ、まだ皆中学生、どこまで先生の真意を分かるか、いささか疑問だけどね」
「どうして君はそんなことまで分かるんだい? まるで神様のように見えてきたよ」
 というと、
「それはありがとうと言っておこう。僕は、先生と考え方が近いと思っているんだ。そう思って先生を真正面から見てみると、先生は顔を逸らしたんだ。きっと、今まで先生は人と顔を正面から合わせたことがないんじゃないかな? 先生自身も、自分が他の人と考え方が違っていることを分かっているんだって思うんだ。だから、人と顔を合わせることに躊躇してしまい、自分を正面から見ようとしている人に、自分の気持ちを悟られそうで、怖いと思っているんじゃないかな?」
 瀬戸の話を聞いていると、どんどんその話の中に引き込まれていくのを感じる。そして引き込まれた話は完全に自分のまわりを包み込み、信憑性などという次元の言葉では片付けられないほどになっていた。
――これが、瀬戸のカリスマ性なのかな?
 と感じた。
 最初に知り合った時も直感でカリスマ性を感じたが、その時は信憑性を自分の勘に頼った。しかし、こうやって話し込んでみると、瀬戸が祐樹をどのように思っているのか分かってきたように思う。
 そして祐樹は、
――このまま瀬戸についていけば間違いない――
 と感じるようになった。
 瀬戸と一緒にいれば、決して悪いようになることはないという思いと、まわりの誰もが祐樹の敵となったとしても、瀬戸一人が味方でいてくれればそれだけでいいのだ。
 祐樹は、そんなことを思いながら眠れぬ夜を過ごしていたが、
――自分がおだてに弱い――
 ということを思い出させられると、次第に身体に暖かさがよみがえってきたようで、心地よい気分になってくるのを感じた。
――今なら眠れるかも知れないな――
 と感じると、次第にうとうとしてくるのだった。
 その日、祐樹は夢を見た。普段であれば、夢を見ている時というのは、意識があるわけではない。目が覚めるとほとんど忘れてしまうということが分かっているので、わざと夢の世界であると思っても意識しないようにしていた。
 しかも、夢というのは潜在意識が見せるもので、
――普段からありえないと思っていることであれば、いくら夢であっても叶えることなどできるはずはない――
 と思っていた。
 そういう意味で、
――夢と現実の狭間が分からない――
 と感じていた。
 つまりは、夢の世界だと思うことで、
――一度夢の世界に入り込んでしまうと、抜けられるのではないか?
 という思いが祐樹の中にある。
――夢というものが独特のものであるのは分かっているが、その独特な印象を、現実世界と混同してしまうと、どちらが夢か分からなくなり、夢でも現実でもない世界に落ち込んでしまうのではないか――
 という考えも祐樹にはあったのだ。
 だから、祐樹は夢を見ていると思っていても、それを夢だと認めることをしないようにしていた。
 ただ、目が覚めるにしたがって忘れてしまう夢であっても、覚えていることも少なくない。
――どこに共通点があるというのだ?
 と考えていると、それは、怖い夢を見た時だけ覚えているということだった。
 だから、最初は、
――夢は怖い夢しか見ないんだ――
 と思っていた。
 夢は怖いものであり、見ると抜けられなくなるという思いは、子供の頃に感じたのが最初だったのかも知れない。
 ただ、その子供の頃というのがいつだったのか、中学生になってからの祐樹には分からなかった。
 ついこの間のことなのか、それとも小学生の低学年の頃のことなのか、祐樹には夢という別世界に、この世界での時系列は通用しないと思うようになっていた。
 夢の世界を祐樹は、
――想像するものではなく、創造するものだ――
 と思うようになった。
 想像とは、どんな夢を見たのかという過去の夢を思い出そうとすることであるが、それは自分でも不可能だと思えた。しかし、これから見る夢を、今から作り出すことはできるのではないかと思った。それが、
――想像ではなく、創造――
 という発想である。
 この発想は、瀬戸も同じように持っていたようだ。しかし、彼は夢の世界を否定するような考えを持っていた。ただ、夢を見るということがウソだというわけではない。夢の世界はあるのだが、それが特別な世界だとは思っていないようだ。
 そのことを直接話したことはないのだが、なぜか瀬戸を見ていると、そう感じるのだった。
――ひょっとして、今までに俺の夢に何度か瀬戸が出てきていたんじゃないだろうか?
 と祐樹は感じていた。
 その日の夢も祐樹は瀬戸を感じてはいたが、決して話ができるわけではなく、
――瀬戸も自分のことを祐樹が気付いているということを知っているのではないか――
 と感じさせられたが、表情からは何を考えているか分からなかった。
――まったくの別人のようだ――
 普段の瀬戸からは考えられないような雰囲気だった。
 瀬戸は冷静沈着であるが、普段から暖かさも秘めていた。それなのに、夢に出てきた瀬戸には冷徹さがあり、
――何が違うんだろう?
 と感じさせられたが、
――冷たさが徹底している――
 ということしか分からなかった。
 それは、読んで字の如しであり、冷たさが徹なのだ。
作品名:狭間世界 作家名:森本晃次